第127話 調味料。

今回は僕、槇原裕人が登場しないエピソードです。


ここは昼休みの美術部室。

女装男子の橘葵たちばなあおい君に興味を持った学年で上位人気の女子三人。


標準的な身長に女性らしい丸いバストとヒップの松下さん、背は低いが子猫の様に愛らしい篠田さん、長身小顔の九頭身でスリムなモデル体型の清水さん。


受験モードでピリピリする其々のクラスでは居心地が悪く、槇原マッキー経由で友人に成った橘君の美術部室に集っている。


初日は挨拶程度の会話でも、翌日には電気ケトルとティーパックにスコーンとビスケットを持ち込みアフタヌーンティーで寛いでいた。


「どうして、こんな事に?」

橘君の疑問は尤もだが、女子三人は、


「気にしないで、橘君も私達と一緒にお茶しましょう」

橘君を含めた四人のビジュアルは女子会だが、お菓子や飲み物の持込は校則で禁じられている。

「そうじゃなくて、君達が居座る理由を教えてほしい」

中学に入って以来友人が出来なかった橘君には美少女三人との距離感が理解出来ないらしい。


「橘君は槇原マッキーの親友でしょ、だから私達も仲良くしたいの」

いつもの様に松下エミさんから口火を切ると、続いて、

「それ以上の理由は無いわよ」

小柄な可愛い愛玩動物のような篠田ユミさんが、そして

「それより橘君は私達の中で誰が一番タイプなのか決めたの?」

スリムなモデル体型の清水アキさんも追い討ちのように質問する。


「そんな簡単に決められないし、一人を選んだら他の人が気を悪くするでしょ」

橘君の苦しい言い訳に、

「女の子みたいな可愛い顔でも煮え切らない男子ね」

三人からタイプを決めさせて一体何をする積りなのか、想像出来ない橘君は、

「僕が一人をタイプに決めたら何をする積りなの?」


「それは橘君のファーストキスを頂くための選考よ」

「え、え、え、え、僕のファーストキス?」


小悪魔女子の考えそうだと僕は思うが、美少女に免疫の無い橘君はただ焦るばかり。

「ねぇ、昔はイケメン男子の顔をソース顔と醤油顔に分類したけど、橘君は砂糖顔ね」

清水アキさんの言葉に、いち早く反応したのは篠田ユミさんも、

「うん、女子より可愛い甘い顔、ハチミツ顔かも?」


「アッハッハァ、確かに甘い顔よね」

松下エミさんも同意した。


その光景を他人が見れば女子同士の虐めにしか見えないが、橘君は男子だ。


「僕が砂糖顔なら、槇原君は何顔?」

橘君の疑問は当たり前だと思うが、女子三人には新鮮な発想で、

「そうね、槇原マッキーは派手なソース顔じゃないけど地味な醤油に近い、塩対応の塩顔ね」

松下さんの意見に笑いを堪えられない篠田ユミさんは、

「そうそう、しかも『僕は女性に興味が無いです』みたいな頑固だから岩塩顔ね」

この時点で僕の悪口に成っているが、『知らぬが仏』でしかない。


「それにムッツリスケベだから、お肉に合うピンク岩塩ね」

松下エミさんの言葉で僕の評価は止めを刺された。


それを聞いた橘君は、

「え、槇原君は怖い人じゃないの?」

見た目の印象で美少女三人へ訊ねた。

「そうよ、体毛が薄くて一重の切れ長の眼で爬虫類の様なビジュアルは怖いけど、怒らせなければ優しいよ」


「そうね、エッチも優しいし」

「うん、私の初めてでも痛い事をしなかったし」

「うん、年上の先生に女性の扱いを学んで、ソフトタッチより優しいフェザータッチで何度も蕩けさせられたわ」


美術部室でリラックスし過ぎた三人は僕との過去を赤裸々に語りだしたが、それを聞かされた橘君は、

「まさか、槇原君はヤリチンなのな?」

「違うよ、私から迫って関係したけど、それ以降はエッチを求めないし」

キスも未経験の橘君には衝撃の告白だったのか、暫し沈黙したが、

「僕が槇原君に抱かれる可能性はゼロじゃないよね?」


「え、橘君は槇原マッキーに抱かれたいの?」

「そうじゃなくて、やっぱり最初は女性が好いなって、女装男子の僕でも思う」


「じゃぁ、橘君の二回目は槇原マッキーかもね、シャワートイレで綺麗にしなくちゃね」

「え~」


思わず叫ぶ橘君に清水アキさんは、

槇原マッキーに抱かれたら『橘君』より女子みたいに『葵ちゃん』って呼ぶね」


同じ頃、僕のクシャミ百連発に橋本ハッシーから、

「お、槇原マッキーは秋の花粉症か?それとも誰かに噂されているか?」


誰でも良いから僕にティッシュをくれないか・・・

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