第126話 取り留めの無い話。

放課後の美術部室で時間を費やして、僕の自転車が置いてある天野さんの家に寄った。

ちびっ子に説教すると言った天野サヤカさんは既に帰宅していた。


「お帰りなさい裕人君、私より遅かったのね」

「うん、友達と話していてこの時間になった」

美術部室で橘君を質問攻めにしていた松下エミさん、篠田ユミさんと清水アキさんに絡まれたと天野サヤカさんに報告しないが、僕の知らないSNSで情報交換されていると思い、ここではスルーした。


「裕人君の友達って、橘君?」

「そうだけど、何か訊きたいの?」


「別に、、、裕人君が言いたいなら私は聞くけど、それより私の話を訊きたい?」

「いや、無理に話さなくても善いから」

別々に用事を済ましていた僕と天野さんはお互いの状況を話さない、訊かないも暗黙の了解と言うより、僕はちびっ子の浅川結衣に興味が無い。

「そうね、お互い興味が無い事なら時間の無駄よね」


これは喧嘩じゃないし些細な争いにも成らない、まして『あのチビッコを助けて、私が責任を持つから』と言った天野さんに全てを任せた僕は何も言わないし聞かない。


それから数日が経ったある日の朝、いつもと同じ様に天野サヤカさんと登校した僕の四組で橋本ハッシーが、

「なぁ槇原マッキー、昨日のテレビニュースでハロウィーンの仮装を見たか?」


『雑学とウンチクを知るにはテレビを見ろ』と言った橋本ハッシーの言葉を信じて、僕が苦手な民放のクイズ番組の幾つかを見た。


大河ドラマで興味を持った日本史は未だしも、エジプトのピラミッドと若き王の黄金仮面以外は興味が無かった。

それよりも各会社のCMに同じ俳優が出ている事が不思議で、北海道出身のアニメターが主役の朝ドラ『夏っちゃん』の女優と、幕末が舞台の大河ドラマ、『会津の桜』の主役女優が同時に何社もCM出演していて驚き、人気女優と知った。


注、槇原家では母がドラマ好きで大半のドラマを録画して、リアルタイムで朝ドラを見られない僕は帰宅後にそれを視聴している。

そしてお気に入りのドラマは数年経った今でもDVDレコーダーに保存されている。


そんな母のお気に入りは韓国ドラマの『チム秘書は』や『オムニョ』『ファロン』の地上波だと吹き替えだが、BSでは原語音声の日本語字幕でも見ている、そんな母を見ている僕は母がいつかハングル語を覚える日も遠く無いと想像する。


話は橋本ハッシーとの会話に変わるが、

「え?そのニュースは見てないけど」


「なんだよ槇原マッキー、来年のハロウィーンは俺と一緒に仮装しようぜ」

『来年の事を言うと鬼が笑う』と聞くが、鬼が笑ったのを見たことが無いし、そもそも鬼を見た事も無い。それでも橋本ハッシーに合わせて、

「そうだな、来年こそな」

僕は相槌を打った。


そんな思いが通じたのか橋本ハッシーは、

「じゃあ、大きな槇原マッキーが鬼の仮装で俺は桃太郎かな?」


その冗談は以前の僕には通じなかったが、テレビCMを見て知った僕は携帯会社の鬼ちゃんと桃太郎をパロったと分かるが、

「え?僕が鬼なら小さい橋本ハッシーは一寸法師だろ」


口が達者な橋本へ少しだけ意地悪をしてみたくなった。


それを見て笑う隣の女子が、

「アッハッハ、本当に槇原君と橋本君は仲良しね、ひょっとしてBLボーイズラブかな?」

思春期女子の冗談に橋本は、

「槇原のアレは大きくて硬いから、想像するだけで俺のお尻が痛くなるよ」

下ネタのギャグで女子に返せば、


「槇原君のエッチ、変態魔人」

耳まで赤くして言うけど、それを言ったのは橋本だよ。

それは冤罪だ・・・


それでも時は過ぎて『ハロウィーン』の翌日は、僕が住む『円城寺商店街』の装飾は『クリスマス・バージョン』に変わっていた。


後日談、

橋本に勧めらて民放テレビを見た僕は、学業優先で休業中の天野サヤカさんが出演した『感冒薬』と『栄養ドリンク』のCMを見た。


そんな僕の疑問を直接本人にたずねたら、

「あれは昨年撮影したバージョンをそのまま再放送した、CM契約の延長よ」


一般人の疑問は天野サヤカさんの一言で解決した。

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