第121話 女児誘拐を阻止。

僕は昼休み時間の美術部室で橘葵君と親友に成り、その場にいた橋本も芋づるで親友に、

「今までボッチだった僕に友達が二人も出来た」

素直に喜ぶ橘君を見て『小さな親切大きなお世話』と僕の不安は杞憂に終わった。


その日の下校時、いつもと同じ様に天野サヤカさんを自宅へ送る僕へ、

「裕人君、いつもより笑顔だけど、何か良い事でも有ったの?」

地味な顔立ちの僕はポーカーフェイスを演じてないが、表情から感情を読み取られた経験は無い。


「うん、まぁね」

いつもの僕なら天野サヤカさんへ隠し事などしないが、橋本ハッシー以外に親友が出来たとは照れと言うか恥かしさから言葉を濁した。


「裕人君が話したくなったら聞かせてね」

僕の気持ちを察したのか、天野サヤカさんは話題を変えて、

「ふふん、ふふんお芋、お芋、早く焼き芋に会いたいな」


鼻歌が出るほど天野サヤカさんはご機嫌で、前日に続いて今日もスーパー・カメスエで焼き芋を購入する積りらしい。

「毎日食べても飽きないの?」

特に焼き芋が好きでない僕の疑問に即答で、

「昨日は一本半食べたから夕食が食べられなかったけど、今日はママの分も合わせて二本買うから飽きないわ、それに美容と健康に良いって裕人君が教えてくれたでしょう」


そうさ、確かに焼き芋には栄養素がたっぷりで、さらに食物繊維も豊富で便秘気味の女性はお通じに最適な秋の味覚だけど・・・

下校途中の買い物を教えた僕にも多少の罪悪感は有るから強く否定出来ない。


秋の昼間は空が高く青い、夏時間サマータイムの下校時間は午後六時でも陽は高く、街を赤く染める冬時間ウインタータイム、下校時間の午後五時には夕暮れが迫る。


うしろを見てよ裕人君、影の身長が5m以上有るね」

西日を正面に歩く僕と天野さん、振り返るとその影は実際の身長より長くて、

「そうだね、天野サヤカさんの影も3mだね」

どうでも良い話で笑えるのも、金木犀が香る秋の風物詩かもしれない。


「ところで裕人君は何センチまで成長したいの?」

今は191cmの僕がNBAプレーヤーを目指す以上より高身長になりたくて、


「最低でも2m、外国人選手に身体的フィジカルで負けない為に2m10cm、欲を言えば2m20cm有ると大きな武器に有るかな?」


「うん、応援するから私と焼き芋を食べましょう」

さつま芋の栄養素で背が伸びると聞いた事は無いが、

「そうだね、カルシウムとタンパク質も摂るようにする」


もう少しでスーパーの照明看板が見える場所で男女の姿を目視した。

日暮れに近い時間、大学生風の成人男性と小柄の女性は中学生、それより小さい小学生にも見える。


「裕人君、あの二人は、揉めているみたいよ」

天野さんが言う、揉め事かもしれないし違うかもしれないが、僕は他人のトラブルに出しゃばる積りなど全く無い。


「そうかな?夫婦喧嘩は犬も食わないって、その手の口喧嘩だよ」

「あの二人は大人の男とちびっ子の女子、恋人とは違うよ、若しもの事態に成る前に止めてきて」


「そんなの面倒だよ、誰か大人に任せれば済みそうだよ」

その時間は買い物客も多く、その場を目撃している通行人も居る。


「裕人君は車に惹かれそうな幼女を助けたり、進入者から私を守ってくれたでしょう?」

それはそうだが、僕は知人を咄嗟に救っただけで、赤の他人を助ける正義感など更々無いし。

あのちびっ子が不幸な事に成っても、それは神様が決めた運命と理解する。

「あ~もう、『ぎをみてせざるはゆうなきなり』、後の事は私が責任を持つから、裕人君は悪を滅する群青の魔人でしょ、マジン、ゴー!」


え、『ぎをみてせざる』の意味は?、昼休みの僕と立花君と橋本で美術部室の会話を、携帯スマホを持たない僕が知らない連絡手段ホットライン橋本ハッシーから吉田サユリさんへ、そして友人の天野サヤカさんに伝わっていると想像した。


天野サヤカさん、危なそうだったら早めに警察へ通報してね」

「うん、分かったけど、相手を傷付ける暴力はダメよ、裕人君」


自分では正当防衛の積りでも結果的に過剰防衛とか、傷害罪に問われるのは僕としても好ましくない。

そう思いながら揉めている男女に近づくと、推定身長140cm前後の小柄な女性はとても童顔で女子児童にしか見えない、ちびっ子だった。


「なにか揉め事ですか?」

「別に何も揉めてないし、交際している僕らには大きなお世話です」


大きなお世話と言われればそうだが、大学生風の男が女子小学生と交際しているとは聞き逃がせない。

これは世間的に言う、変態ロリコン糞野郎と僕が仕分けしたと同時に、

「助けてください」

ちびっ子が僕を見て救いの手を求めた。


「あれ、僕に耳にはその子の『助けてください』と聞こえましたが、あまり乱暴な事をしたくないけど、降りかかる火の粉は払いますよ」

「中学生が調子に乗るな!」


僕の制服を見て中学生と判断した男は威勢を張る。

「確かに僕は中学生ですけど、部活で鍛えた握力は80㎏で、林檎を素手で割れますよ、貴方の身体で試して見ますか?」

「う・グ・グ・・・」

これは警告で有り、決して脅迫では無いと信じている。



言葉を失う大学生風の男へ、

「友人が僕に危険を感じたら直ぐに通報します」

僕の追い討ちと、

「あ、パトカーが来た」

ちびっ子が声を出し、それは偶然か必然か、赤色等を光らせたパトカーが数百メートル先に見えた。

「クソォ~」

ちびっ子を誘拐しかけた男は捨て台詞を残して去っていく、そしてパトカーも通り過ぎる。


離れた場所から見ていた天野さんは危険が去ったと確信して来た。

「早めに通報してくれたの?」

「ううん、未だ110番して無いよ」

年末に成ると多発する強盗事件に巡回するパトカーと遭遇は偶然だった。


本当に誘拐未遂で終わったなら幸いと、ちびっ子をここが自宅だと言うマンションのエントランスまで送り届けた後に、天野さんの玄関に到着した。

「ママが心配するから、この誘拐未遂は内緒にしてね」

母思いの提案に僕は頷き了解した。



「あ!焼き芋を買い忘れた、今からスーパーまで戻りましょう」

天野サヤカさんが僕へ『あのちびっ子を助けなさい』と命令したからで、秋芋を買いそびれた責任の全ては天野さんに有る。


「サヤカさん、今日は焼き芋を諦めようね」

「え~、悲しいよ裕人君」


そう説得して天野さんの家に居たママのエミリさんへ

「ただ今帰りました」

の挨拶から、

「裕人君、サヤカ、お帰りなさい」

いつもと変わりないエミリさんの優しい笑顔で迎えられた。


後日談と言うか、数分後の状況は、

「え、楽しみに待っていたのに焼き芋が無いの、凄く残念」

サヤカさんには『今日は焼き芋を諦めて』と言ったが、エミリさんの残念そうな顔を見た僕は、

「今すぐ僕が自転車で買ってきます」

自宅から毎朝使用しているチャリでスーパー・カメスエの往復を急いだ。


「私には諦めろと言ったのに、ママに優しいって、どういう事?」

冷静に想像すればサヤカさんの怒りはもっともだと思う。

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