第119話 買い食い。
BLを疑われた日の下校時、三組の
以前は男女のグループで下校して居たが、今は僕と
「ねぇ裕人君、『食欲の秋』って言うでしょう、下校中に買い食いした事ある?」
その日の昼休みに橋本から言われた『食欲の秋』を思い出す
「橋本から何か聞いたの?」
「え、私は最近橋本君と話してないよ」
橋本の冗談からクラスの女子に僕がBL疑惑を掛けられた事も
「それなら良いんだけど、そうね食欲の秋で買い食いか、家に帰ればパンが有るし、買い食いした経験は無いな」
僕は『登下校中の買い食い』を校則で禁止されているか知らない。
「じゃあ質問を変えるね、こっちでは軽トラの焼き芋屋さんが来るでしょ、私が前に住んでいた都心では一度も見なかったの」
家の近所でも時々焼芋屋さんを目撃するが、移動する軽トラを追いかけてまで焼芋を買う人は女性の方が多いと思う、ただ日曜夜のアニメ『サナエさん』で見て、東京だって軽トラの焼芋屋さんが来ると思うけど、あのアニメは時代設定が昭和で、焼芋屋さんは下町限定の移動販売かもしれない。
更に小学生時代は人気モデルだった
「そうなんだ、
「お腹が空いて焼芋が食べたい、お金を払うから近くのスーパーに寄って私の代わりに買って」
「僕が?」
「だって焼芋を売っているスーパーはEオンとバノーしか知らない」
確かにチェーン展開しているスーパーならその二つだけど、バスケ部のスーパー内田屋もあるが、ここは地元を知る僕が、
「カメスエって知っている?食品一般が安くて人気のローカルチェーンだけど」
こちらに越してきて一年の天野さんが『カメスエ』を知っているか疑問だが、
「え、知らないお店ね、今直ぐに連れて行って」
どうやら
下校途中で少し寄り道して、100台ほどの駐車場を備えたスーパーカメスエに到着して、玄関を入って直ぐの自動芋焼機を見つけた。
その機械に『焼芋120円』のポップを見た
「焼芋が一つ120円なんてウソでしょ、安すぎるわ」
驚きの余りいつもより大きな声で、悲鳴に近い声量で叫ぶと周りの主婦らしき買い物客の視線を集めてクスクスと失笑された。
「ねぇ裕人君、恥かしいから私の代わりに大きいお芋を選んで買ってね」
自動焼芋機の前で叫んだのに今更恥かしいは無いだろうと思うが、
「分かったよ、一つで善いの?」
「二つ欲しい、私だけ食べるのは恥かしいから裕人君の分も」
「お
女性は焼芋が好きの一般論でサヤカさんへ訊ねた。
「ううん要らない、ママは友達と会うから今日は留守なの」
それでも帰宅したエミリさんの為に買っておけば善いのに、これは余計なお世話かもしれない
焼芋を二つと言うのは
僕が焼け上がったサツマ芋を三つ選び、その場を離れると買い物中の主婦と中年男性客も焼芋を選び、買い物カートのレジカゴに入れていた。
そのまま精算レジに向う僕へ、
「嘘だぁ、裕人君、なんでオニギリが一個49円なの、これは価格崩壊だよ」
母のお使いで何度もカメスエを利用している僕はそれが当たり前と思うが、
「そうだね、49円は練り梅とコンブにオカカのオニギリでしょ、他のスーパーより安いね」
それを聞いた天野さんは、
「何で裕人君は冷静に答えるの?東京育ちの私にはカルチャーショックよ、これも買いたい」
「
焼芋三個のレジカゴに49円のオニギリを三個入れて精算レジに並ぶ、周りの買い物客から視線が気に有るが、きっと休業中のCMモデル、
「あの学生服を着たお兄ちゃん、凄く大きいね」
ママとレジに並ぶ幼稚園児らしき子供が僕を見て声を上げた。
どうやら僕の勘違いらしい、そう納得したが別の子供が、
「あのお姉ちゃん、メッチャ美人、大きなお兄ちゃんと綺麗なお姉ちゃん映画の『美女と野獣』みたい」
何となく自分でもそう思っていたが、人から言われると少しだけ傷付く・・・
「そんな事を言っちゃダメよ、ごめんなさいね」
子供を連れた若いママは僕達に謝るが、
「子供は正直ですので大丈夫ですよ」
身に着けたCMスマイルで微笑み、その場の空気を
レジの女性スタッフがバーコードで商品を読み取り、合計金額とセルフレジの番号うを指定して支払いに進む。
「ちょっと、裕人君、合計金額が違うんじゃない?」
「あぁ、赤いカードを提示すると各商品ごとに3%を割引されるんだ、だから120円の焼芋は3円引きで117円に消費税だよ」
「じゃぁさぁ、49円のオニギリは?」
「小数点以下はカットするから、一円引きの48円と消費税のはず」
僕の説明に驚き、開いた口が閉じない
「何でそこまで安いの?」
「カメスエは広告やチラシを作らない代わりに価格を抑えている、らしいよ」
そんなやり取りでスーパーを出て
彼女が言うようにママのエミリさんは不在で、部屋着に変えたサヤカさんはケトルで湯を沸かしてお茶を用意する。
「僕はお水で」
カフェインを取りたくない僕は水と麦茶と牛乳しか飲まないので緑茶やウーロン茶や紅茶、コーヒーを遠慮する。
ダイニングテーブルに着き、
「頂きます」
と元気な声を出す。
同じ様に僕も焼芋を手に持ち、食べ易いよう二つに割ると、僕が好きなホクホクな焼芋じゃなく、最近流行なネットリ系の柔らかい焼芋に思わず手が止まる。
「それは安納イモか紅ハルカね」
これは困ったな、柔らかい焼芋はちょっと苦手だ、目の前の天野さんは未だ熱い焼芋を美味しそうに頬張るが、
丁度そんな時に玄関から廊下、ダイニングへ足音が聞こえて、
「ただいま、予定より早く解散になって、あ、お芋を・・・」
ママのエミリさんが焼芋に夢中の娘を見て驚きの声を出した。
僕に取ってこれは好都合と、
「良いタイミングで帰ってきたエミリさんのお芋も有りますよ、これをどうぞ」
僕が二つに割った焼芋を元に戻して、帰宅したエミリさんへ差し出した。
「私が貰って善いの?」
僕がハイと答える前に
「ママの分はこっちよ、それは裕人君から私が貰うの」
自分用に二つ買った焼芋の一つをママのエミリさんへ渡して、僕の手から二つに割った焼芋を取り上げた。
「え、サヤカは焼芋を二つも食べるの?絶対に太るわよ」
思春期の女子に『太る』は禁句であり、エミリさんも同じ道を通ってきたと思う。
「良いもん、裕人君は少しポッチャリした女性が好きって言ってくれるから」
同姓の母とある年齢に達した娘は対等に会話をするらしいが、経験値の高い母は、
「男性はポッチャリが好きって言うけど、女性が思うポッチャリと男性が思うポッチャリは程度が違うのよ、それに気が付いた時は後の祭り、なんてね」
「はい、これ」
その言葉は娘に大きなダメージを与える会心の一撃に、男性が言うポッチャリの意味を知ったサヤカさんは僕から取り上げた焼芋の半分をママへ差し出した。
どちらの味方にも成れない僕は黙って静観するしかないが、ママのエミリさんは堂々として、
「これお土産ね、ショッピングモールの物産展を見て買っちゃった」
その赤い紙袋に見覚えはあるが、最近はお目にかかってない『天津甘栗』に懐かしさを感じる。
「天津甘栗は珍しいですね」
最近は食べやすいムキ栗ばかりで、美味しいけど手が汚れる天津甘栗は貴重品と思う。
「ね、そうでしょう、でも女性の手だと力が弱くて食べるのに一苦労するのよ」
そんな話の流れから、
「僕が剥きますよ」
「嬉しい、裕人君は優しいね、好いお婿さんに慣れるわ、私のお口に頂戴、ア~ン」
エミリさんは無邪気に口を開く、それを見て睨む娘のサヤカさんは、
「なんで裕人君が栗をママにア~ンするの、私にでしょ!」
「なによ、サヤカはお芋を食べているでしょ、だから裕人君、私にア~ン」
焼芋でもめて、甘栗でもめる母と娘に僕は、
「僕が二人分の甘栗を剥きますから、喧嘩しないでください」
子供の頃に再放送の時代劇で見た、婿の気持ちが今になって理解できた。
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