第118話 ◯◯の秋。

朝晩の冷え込みで季節は秋から冬に近づくと感じる神無月から霜月へ。

夏の猛暑が嘘の様に心地良いこの季節は直ぐに過ぎ去るだろう。


僕より遥かに友人が多い橋本ハッシーも最近は話相手に困っているのか、それは受験生故のプレッシャーで橋本の冗談、雑談に付き合ってくれないと思う。


「なぁ槇原マッキー、〇〇の秋って、何を想像する?」

橋本ハッシー、急な話だな、それなら僕は食欲の秋とスポーツの秋かな?」

男子中学生の雑談レベルなら、それが正解と思う。


「そうだよな槇原マッキー、じゃあ秋に取れる美味しい食べ物は?」

橋本は食欲の秋を掘り下げる積りなのか、そこは在り来たりだが、

「秋刀魚、栗、サツマイモ、幾つかフルーツも店頭に並ぶし、あ、ずっと食べてないけど松茸も秋の味覚だよな」

ここで橋本の話題は尽きるだろう・・・


槇原マッキー、答えを全部言なよ、つまんねぇ奴だな、まったく」

ざまあみろ、それともピコちゃんに怒られるか?・・・


「じゃぁ槇原マッキー、スポーツの秋と言えば?」

「僕はバスケ以外のスポーツに興味は無い、橋本ハッシー、これで駄目か?」

少年野球を経験した橋本なら、スポーツの秋でプロ野球のCSと日本シリーズを話題にすると思うが、先に釘を刺しておく僕は意地悪かもしれない。


「ま、まあそうだな、じゃあ、槇原にとって読書の秋とは?」

橋本は未だ〇〇の秋を続けるのか、

「ネット漫画やエロ同人誌は読書じゃないよな、父方の爺さんが貸してくれた『春青の門』が面白かった、昭和時代に炭鉱の町が舞台で幼馴染の男女が成長していく、ちょっとエッチな小説だった」


「それは知らないな、有名な作家の?」

「ああ、大御所演歌歌手の芸名由来がその作家だと思う」


槇原マッキーは意外に博学だな」

偶々たまたまだよ、それより橋本ハッシー、文豪と呼ばれる著名な作家は何で自殺したのかな?」


「え、槇原マッキー、それって誰の事?」

橋本ハッシー、入水の太宰、服毒の芥川、ガスの川端、三島なんて45歳で切腹だぞ」


「それは作家としてやり遂げた満足と精神的な病気とか?」

「国語の教科書に採用されている文豪の、テストの問題に『作者の伝えたい事は?』何て出るけど『自殺する作者の気持ちは分からない』が回答だと思う」


ここで義務教育のテスト問題にクレームを付けても何も変わらないが、問題製作者が一方的に生徒へ押し付ける正解じゃないと思う。


槇原マッキー、話題を変えよう、そうだな芸術の秋と言えば、噂を聞いたぞ」

橋本の急な話題変更に戸惑う、そして僕の噂とは・・・


「僕に心当りは無いがどうした」

「美術部室で槇原マッキーが全裸で橘葵を抱きしめていたとか、いつからBLに成ったんだ、親友の俺より先に女装男子を抱くなんてショックだ」


ちょっと待て橋本、その噂には色々と語弊があるけど、僕の全裸は否定できない。

「あれは橘葵君の依頼で絵のモデルに成っただけで、僕はBLじゃないし、それを誰から聞いた?」


「情報提供者が誰とは、守秘義務から言えない」

橋本、お前は探偵か警察かよ、

どうせ彼女の吉田サユリさんが松下さん達から聞いて、それを橋本に告げ口したんだろう・・・


これは昼の休み時間、僕と橋本の周囲には級友達も居て、視線を合わせないが聞き耳を立てているかもしれない。


橋本ハッシー、下らない冗談にも程が有るぞ、本当の事を知らない生徒が真に受けて信じたらどうする?」


「そうだな、幾ら親友の俺たちでも『親しき仲にも礼儀あり』だよな、でもさ、槇原マッキーは俺に嘘をついて橘と会っていたのは事実だろ?」


「まあ、そうだけど、橋本ハッシーは絵に興味ないって言うから」

「俺は絵に興味は無いけど、仲間外れにされた気分で、嫌味の一つも言いたくなる」


それまでと表情を変えて本音を言う橋本は周りの生徒から注目されている。

流石に気不味い僕は、

「別に仲間外れにした積りは無いけど、橋本ハッシーを嫌な気分にさせたならゴメン」


槇原マッキーに謝って欲しい訳じゃないよ、ねえ君はどう思う?」

橋本は急に隣の女子生徒を見て、無茶振りな感想を求める。


話を振られて慌てた女子はオドオドと挙動不審な態度から慎重に言葉を選び、

「え、え、え、私は橋本君が槇原君に嫉妬していると思うけど、やっぱり二人はBLで恋人なの?それとも三角関係からのNTRですか?」


それが第三者の正直な意見なら、まったくの誤解だよ・・・


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