第116話 高校見学会、その後。
金曜の高校見学会で僕は元々は農林高校だった父の母校、県立青竹高校の農林畜産の実業科を知った。
高校時代にバスケ選手を諦め、現在はパン職人の父は何科を選択したのだろう。
そこについてはいつか父から訊こうと思う。
そして、バスケ部の生徒には上下関係を重んじる安田先生の指導法で昔から県内一の強豪だが、元々は中学で活躍したバスケ選手が集まることで青竹高校は県内屈指のオールスター・チームと言っても過言じゃない。
それでも全国大会では二回戦敗退の善戦止まり、このまま公立高校の願書提出日が迫り答えが出ないまま青竹高校を志望するのか、今の僕には不安しかなかった。
土日の週末はいつも騒がしい
そして月曜の朝、三年四組の自分の席に座った僕へ、
「
「特に可もなく不可もなく普通だよ」
橋本が言う『
「俺の話を聞いてくれよ、来年から男女共学に成る白鳥高校は全員女子生徒で、正門内の花壇に咲く花から好い匂いがしてさ」
それが白鳥高校の第一印象なのか、青竹高校は園芸科の畑で土と花の匂いがしたけど、きっと同じじゃないよな。
「先輩のウエルカムで案内された校舎がまるで女性だけの歌劇団みたいな『清く正しく美しく』が校訓で、清楚で上品な
お~、そこまで褒め称えるとは、それほど
「それで?」
笑顔で報告する
「説明会の後にクラブ紹介が有って、勿論女子だけの運動系クラブで、俺の第一希望はテニス部で、部長の北中条アヤミと副部長の小松崎菜奈さんは二人とも小顔で九頭身の高身長美人、コンビを組むダブルスで『蝶々夫人』と呼ばれているらしい、どうだ
これは既に
「そうだな、可愛い声のユキちゃんと花子ちゃんだな」
「一時期流行ったキラキラネームじゃない昭和チックな塩塩ネームだな、それとな俺が入学したらテニス部に勧誘されて
何か裏と言うか、恐ろしい闇を感じるが、
「
「え、何言ってんだ
それなら、入学早々に使用人か奴隷として歓迎されるに違いない、橋本の無事を祈るが、
「
「いや、そこは武士の情けで他言無用でお願いしたい」
始業前の十分で
「裕人君、一緒に帰ろうよ」
高校見学の為、金曜日は登校してない僕は四日ぶりに
日暮れが早くなった秋から護衛の意味も含めて
「裕人君、高校見学会はどうだった?」
朝の始業前に
「特に可もなく不可もなく普通だよ」
「え、普通って何よ、私が裕人君が体験した感想を聞きたいのに、それに青竹高校は普通科の高校じゃないでしょ?」
油断した僕は
「ごめん、僕の正直な感想を言うね」
「そうよ、最初からそう言えば良いのに、私は裕人君を心配していてのよ」
「最初から言うと、四十五分掛かる片道15km以上の自転車通学は厳しい、牛や豚を飼育する生物科の畜舎はやっぱり臭いし、草花や作物を育てる園芸科の農園にはミミズや虫も出て、なにを学べば良いのか分からない」
「大学受験しない実業高校だよね、それより私が一番気に成るのは可愛い女子生徒が居たの?」
「作業着の先輩はノーメイクの農業女子だし、想像より女子中学生が多かったな」
「その中に可愛い子は居たの?」
「うん、可愛いと思ったのは、白ヤギのユキちゃんとホルスタインの花子ちゃんかな?」
「何よそれ、ふざけないで裕人君」
「これは真面目な話だよ、でもね、白ヤギのユキちゃんは四角い目が怖いよ」
「確かにそうね、裕人君が言う山羊の目は怖いね」
☆
後日談、その日帰宅した僕は九時には就寝する父へ、
「お父さんは青竹高校で何科を専攻したの?」
自分が感じた疑問を素直に尋ねた。
「俺は食品科学で微生物と酵母の食品醗酵を学んだ」
「でも父さんはお酒が飲めない
「裕人、お酒だけが酵母発酵じゃないぞ、味噌や醤油、納豆もヨーグルト、イースト菌を利用するパン製造も同じ様なもの」
そうか、青竹高校で食品科学を学んだ父が高校バスケを引退して、パン職人を選らんだ理由を僕は始めて知った。
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