第115話 高校見学会。

「僕は白梅高校の美術科を卒業して美大でなくフランスかイタリアへ留学する」


橘葵たちばなあおい君の決意を聞いた僕はバスケ強豪の県立青竹高校へ見学会の参加を決めた。


週末金曜の見学会、その前夜サブバックに指示された筆記用具とバスケ部に体験参加できる様に、バッシュと上下体操服を詰めて翌日の準備を終えた。


この日の中学では、引退した元バスケ部の親友橋本から、

槇原マッキーは、やっぱり青竹高校を見学か?」

「まぁな、橋本ハッシーは何処の高校?」


橋本の学力と交際する吉田サユリさんと同じ志望校なら地区一番の高偏差値、黒松高校と思うが、本人の意思確認で訊ねる。

槇原マッキー、俺は白鳥しろとり高校に興味が有る」


僕の記憶が正しければ、橋本が言う白鳥高校は文武両道の女子校だが、

「え、あそこは偏差値も高いが運動系の女子校だろ?」

「あぁ、対年度から男子を受け入れて共学校に成るんだ」


「へぇ~、橋本が志望する理由は?」

何となく察しは付くが、あえて橋本の口から志望理由を聞きたい。


「俺の世代が男子の一期生だと、先輩は女子ばかりで同級生も含めて回りはハーレム状態だろ?」

どうせそんな事だと想像できたが、橋本には気が強い先輩女生徒の下僕に成るマイナスのイメージが無いのだろうか、いつも明るいポジティブシンキングに呆れる。


「そうか、橋本ハッシーの健闘を祈るよ」

「じゃぁな槇原マッキー、月曜に会おう」

木曜の放課後、僕と橋本は週明けの再会を約束して別れた。


JRと私鉄の駅が通る市内中心部に住んでいる僕は、鉄道やバスの交通機関が充実しているのが当たり前と思う、県立青竹高校は元々県立農林高校で距離にして15km以上離れてた長閑のどかな地区にある。


僕が生まれる前に市内から繋がる私鉄のローカル線が廃線に成り、当時の学生は朝晩の通学時間限定で民間バスが代行運転を始めたが、その本数が少なく不便を感じていた。

それでも数年前に青竹高校の地区に二千台収容の駐車場を備えた大型ショッピングモールで開業し、そこへの直通バスを青竹高校の生徒も利用できる。


名邦高校への地下鉄程では無いが、バスの排気臭が苦手な僕は青竹高校までの15kmを自転車で走った。


自宅が有る市街地から郊外に向けてペダルを漕ぐ、住宅が建ち並ぶ市内から橋を渡り畑と一戸建ての風景に何処から金木犀の香りが僕に届く、秋を知らせる金木犀の香りをトイレの芳香剤と言う人は居るが、全くの別物でこれを同じと感じるなら耳鼻科を受診しろと思う。


午前九時から始まる高校見学会に遅刻しないように、余裕を持って七時三十分に家を出た。

僕が到着した八時十分には数十名の制服を着た中学生らしき見学会参加者を見た。


正門に立つ青竹高校の関係者から駐輪場を指示されて二重キーをロックして、校舎内の受付で中学校名と氏名確認からパンフレットを受け取り、百人以上を収容できる階段状の講義室に集合した。


定員280人の青竹高校に集合した中学生の男女比率は男子が四割、女子が六割と思う。最近の農業離れで定員割れも珍しくないが、女子キャンプと山ガールの人気と関係が有るのか、農林系高校を志望する女子中学生の多さにも驚く。


高校見学会が開始する九時に講師が登場して元農林高校、青竹高校の説明を初める、農作物の販売を学ぶ流通科、生産した草花で作成するフラワーアレンジを学ぶ園芸科、植林伐採の森林科、微生物を利用して製造する食品科、造園土木を学ぶ環境科、牛や豚の家畜を飼育出荷と野菜果樹を育てる生物科など、橘君の様に高卒後はアメリカの大学へバスケ留学希望で、国内の大学に進学する積りはない僕はバスケ中心で青竹高校を第一志望としたが、農林関係の授業科目を軽く見ていた。

その内容を見て元農林高校の授業科目に驚いた。

その後は各科の現役生徒に案内されて、野菜や果実の生育農場や家畜舎を実地見学する。


畑では低農薬による育成とミツ蜂が主な自然受粉、農地を耕せば昆虫やミミズと遭遇する。さらに畜舎では家畜特有の臭いに包まれる僕達中学生に先輩は『臭く感じるのは最初だけ、直ぐに慣れるから心配ないよ』と言うが、普通の人より臭いに敏感な僕は不安しかない。


こうして二時間の校内見学が経過して、

「希望する部活動の見学は各場所で自由参加です」

僕達を案内してくれた在校生の言葉を聞いて、この場で解散から僕はバスケ部の体育館を目指して敷地内を歩いた。


体育館入り口からバスケ部独特のバッシュが床を鳴らす『キュッキュ、キュッキュ』が懐かしい。


体育館の入り口から覗く僕の後から、

「灰原中学の槇原君だよね」

突然に声を掛ける制服を着た男子中学生は同じ見学会の参加者と思うが、その顔に見覚えは無い。


せめて『僕は**中学の※※だけど、槇原君だよね』などの自己紹介を含めて声を掛けて欲しい。


「あぁ、どうも」

記憶に無い相手にはこれが精一杯の返事で、彼の反応を待った。

「槇原君も青竹高校でバスケ部に入るんだね」

名乗らない彼に、

「うん、未だ未定だけど」

これはバスケ部に入る入らないでなく、青竹高校を受験するかどうかの意味で、それよりもこの不毛な会話を早く終わらせた。


「おい、裕人じゃないか」

僕を下の名前で呼ぶのは、小学校のミニバスに誘ってくれてた熊ちゃんこと、熊田先輩は中学で二年上のバスケ部キャプテンだった。


「熊田先輩、ちわっす」

「そうか、裕人も青竹高校進学か、早く中に入れよ」

これを先輩面と言わずに何と言おう、そう思う僕を見て声を掛けてきた男子も『失礼します』と挨拶から体育館に入った。


当時キャプテンの熊ちゃんに憧れた時期も有ったが、中学を卒業して二年の先輩は身長は推定185cmのままで、推定100kgと横にだけ成長して居た。


バスケ部を見学する男子中学生の数は10名以上、集合した僕達に名前だけは知っている青田竹高校バスケ部の安田先生から、これは父の頃から変わりないベテランの顧問と聞いている。


「僕の持論は『練習は嘘をつかない、高校スポーツは教育の一環だから、資金力で他県から選手を集める私立高校みたいな実力主義でスタメンに選ぶ事はなく、上級生を中心にチームを作るからそこを忘れない様に」

その理屈は教育屋として当然だが、全国大会でより上位の成績を求める教育委員会の管理職には通じるのか・・・


それから僕達中学生を順じ先輩達のミニゲームに参加させてくれるが、『早い大きい上手い』の高校バスケをイメージしたが少し違っていた。

高校バスケでは身長185cm以上が平均的なサイズで、現在191cmの僕は『少しだけ大きい』195cmを越えてやっとインサイドプレイのセンターかパワーフォワードを勤められるらしい・・・


当然だが中学卒から横だけ大きく成長した中学の先輩、現在高校二年生の熊ちゃんは中学当時のセンターポジション、インサイド・プレーヤーでなく、スタメンでもベンチ入りメンバーでもなかった。


農林系授業の大変さとベテラン顧問の高校バスケ指導方法、青竹高校の見学会に来たから分かった事が多くて、そんな自分に知識が無いを恥かしく思った



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