第109話 女子の朝は忙しい。
早朝三時から父は工房でパンを焼き始め、母は予約された食用パンを受取りのお客様へ六時にはベーカリーを開ける。
僕が小学生の頃は、七時に一度戻った母が起こしてくれたが、
『今日から朝起きるのも寝坊して遅刻も自己責任、学校の忘れ物もそうよ』
中学入学から僕は母に精神的な自立を命ぜられた。
朝の六時三十分、バスケ部の朝練に行く僕は未だ寝ていたい気持ちを冷たい水で洗い流して、マグカップの牛乳とトーストしたバターバゲットを胃に押し込む。
数分の朝食から歯磨きとトイレを済まし、制服に着替えて六時四十五分には家から学校へダッシュした。
そんなバスケ中心の生活から引退して約二ヶ月経過で七時起床、炊き立ての白米が有る朝はパン食より生卵と醤油を掛けて『卵かけ御飯』を朝食にして八時前に家を出る。
時間の余裕が出来た朝のルーティンが、
七時四十分に
「ハーイ、裕人君おはよう」
ママのエミリさんがいつもと同じ笑顔で僕を迎えてくれる。
「サヤカ、裕人君を待たせると悪いよ、急ぎなさい、裕人君迎えに来て貰ったのに待たせてごめんね」
「は、はい、僕が待つのは大丈夫です」
「ほんとにゴメンね、でも女子の朝は忙しいのよ」
エミリさんはサヤカさんの準備が遅れている理由を言わないが、何となく想像できた。
僕の家族と出かける時はいつも母が遅れる、その理由は着ていく服が決められない、化粧に時間が掛かるが理由の多くだが、中学の登校は制服を着て、化粧は校則で禁止されているから
準備に時間が掛かる母のパターンを消去法で考えると『外のトイレに入りたくないから』と出かける直前に用を足すから更に出発が遅れる。
それに付いて父は何も言わないが『母さん遅いよ』と僕が一言でも言おうものなら、
『女性は裕人みたいに便座に座っても直ぐに出ないのよ』
母を含めて女性は便秘が多いと快便体質の僕へ不平を言う。
子供ながらに、そう言うものかと理解して居たが、
八時、天野さんの家で待つこと十五分、
「裕人君、お待たせ、未だ遅刻しないよね」
僕に微笑む
早めに席に着き教科書を開き予習する生徒を見ると、ああこれが受験生だなと思う。
今月の中旬には第二回目の県内統一模試が有り、現実的な志望校を選択することに成るだろう。クラス内の緊張感から誰もが無口に成り、授業間の休み時間でも無駄話をする生徒は皆無になるが、能天気な
「なあ
確かに現時点でバスケ部を最優先なら青竹高校の一択だが、設備が充実した私立の美加茂高校や単位制の県立総合学園も捨てがたい。
「う~ん、そうだな」
訊いてきた
その日の放課後、冬時間で繰り上がった下校時間、三組で僕を待つ
エミリさんが用意してくれた夕食を頂き、天野さんの自室でその日の宿題と受験学習に集中した。
午後九時、
「明日も学校だし、そろそろ帰るよ」
「未だ駄目、この前の続きをしましょう」
前回男女の違いを確認した
「体毛が薄い裕人君は胸毛が無いのね、男性の乳首って小さくて可笑しいし、いったい何の為に有るの?」
そんな事を訊かれても知らない、どうしても気に成るなら医者に訊くかネットで調べてくれよ、まったく。
答えの出ないままサヤカさんの興味は僕の喉仏へ、さらに右の
「ねえ、裕人君の筋肉は固くないの?」
スポーツ経験の無い
「ムキムキの固い筋肉はボディビルダーが見せる筋肉で、アスリートの筋肉は柔らかい方が怪我しない理想だよ」
「へえ、そうなんだ、ポチャポチャして気持ち好いし美味しいそう、ちょっとだけ噛んでも好いでしょう?」
ちょっとでも噛んで良くない、自己流で鍛えて太くなった筋肉でも噛まれたら痛し、強く噛まれればきっと血も出る。
「僕の好みは極普通にノーマルだから、どんなに綺麗な女性に噛まれても嬉しくないし、痛いのは嫌だよ」
「え~、そうなんだ残念、じゃあ腕枕ね、わぁ柔くて寝心地が好いよ」
家に帰って
そんな僕の思いが神様に届いたのか、、僕より先にウトウトし始めた天野さんの頭から腕を抜いた僕は静かに部屋を出て、リビングに居たエミリさんへ、
「ご馳走様でした、おやすみなさい」
そう声を掛けて、
翌日の朝、迎えに行った僕は前日と同様に、
「裕人君、おはよう、今サヤカが準備しているからチョット待ってね」
ママのエミリさんが出迎え、十五分待たせれた。
更に翌日、同じ様に十五分待たされた僕は、三日連続で便秘だと健康面で心配に成り、
「
便秘を心配する気持ちをオブラートに包んでさり気なく訊いた。
「うん、心配してくれて有難う、別に体は平気よ」
「でも毎朝のお通じは大丈夫じゃないでしょ?」
三日連続で十五分以上待たされた僕は、本当の理由を確認する意味で
僕からの問いに頬を赤らめた
「便秘じゃないし、出かける準備に時間が掛かるのは『女子は前髪が命』なのよ」
遅れた理由を告げた。
始めて聞く『前髪が命』を理解出来ない僕は一つ頷き、
隣の三組にサヤカさんを送り届け、四組の自席に座る僕へ『お早う』と声を掛ける
「なあ、
友達の少ない僕は人付き合いが得意な親友に答えを訊いた。
「あ~あれな、前髪に興味の無い男子から見れば違いが分からないけど、女子は毎朝の前髪が決まるかどうかでその日の気分が変わるらしいよ、だから男が気を使って『今日も前髪が可愛い』なんて言うと逆に地雷を踏むかもしれないからな」
女子の複雑な気持ちを僕は知らなかった、それを教えてくれた
「それとな、
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