第110話 プレゼント。

土日以外の祝日を楽しみに待った僕でも、九月敬老の日と秋分の日を忘れる位に時が早く過ぎた。


昔は十月のスポーツの日に運動会を開催したらしい、それが五月に移動しても温暖化の影響で五月の紫外線が強く、熱中症で倒れる児童生徒の急増が理由で、順位を付ける全員参加の徒競走からクラス代表だけがが走る50m走、ハンドボール投げと走り幅跳び、走り高飛びもクラス代表が参加する午前だけのスポーツ祭に変更された。


勿論怪我を不安視する組体操は『もしも子供達の人生に影響が残る怪我を負ったら、組体操を指示した校長、教頭、体育教師を民事で訴えます』とモンスターペアレント様のクレームでプログラムから削除された結果、スポーツ祭の開会式では全校生徒がラジオ体操をした。


余談的に、陽気でお祭り好きな橋本はクラス代表で50m走の決勝まで走り、陸上部のエースに勝った。

『自分独りだけのクラス代表は寂しいと』橋本ハッシーは僕を『ハンドボール投げ代表』に推薦した。


クラス対抗ハンドボール投げに、隣のクラスから野球部のエースが、その隣のクラスからは柔道部の主将や陸上部の砲丸投げ選手などの腕力自慢が参加する。


僕はバスケットボールより小さいハンドボールが手に馴染まないが、取りあえず全力で遠投してみた。

くじ引きで僕が最初に投げる、計測された記録が55m、それが良いのか悪いのか、分からないまま四組の場所に座った。


暫くして隣に座る女子から、

「槇原君、今スピーカーで名前を呼ばれたよ、優勝だって」

表彰される僕へ野球部のエースは、

「野球よりハンドボールが重く大きくて不利だった」

子供みたいな言い訳を、柔道部の部長は、

「やっぱり球技は苦手だけど、190cmオーバーの怪物モンスターはルール違反だよな」


僕を人外と言うのか、それは身体的ハラスメントだよ・・・


種目優勝と言っても特別に賞品があるはずも無く、スポーツ祭は閉会して給食時間の後、午後から通常の授業を受けた。


帰りのホームルームで担任のコケシちゃんから、

「橋本君が50m走で、槇原君がハンドボール投げで優勝しました、みんな拍手してください」

職員室の多機能プリンターで印刷された光沢紙のB5サイズ賞状を受け取った。

正直に言えば、こんな腹の足しに成らないのは要らん、何処で処分しようかと下校時間まで持っていた所、


「裕人君、ハンドボール投げで優勝したね、おめでとう」

一緒に登下校する天野サヤカさんが嬉しそうに笑顔を見せる。価値観と言うのは人によって違うけど、受け取った表彰状を可燃ごみと思う僕は、

「有難う、天野サヤカさんが良ければこの賞状を貰ってよ」


「え、好いの?実はね、同じ三組の吉田サユリちゃんが橋本君に50m走の優勝賞状を貰って嬉しそうに言うから、私も欲しかったんだ」


あ~流石人気者の橋本ハッシーは彼女へ気配りが出来ている、それに比べたら僕は正に『捨てる神<紙>あれば拾う神<紙>』だよな。


と言う事なら天野サヤカさんは僕の女神様かな?本人には言わないけど・・・



『腹の足し』で思い浮かぶのは、部活を引退して朝と放課後の練習へ参加しなくなり、それまでは給食だけで満足できなかったが、今は空腹を感じない。

それが普通でも、将来的に身長二百㎝が目標の僕は成長が止まる不安を感じている。


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