第107話 幼馴染と受験対策。

高校受験に向けた三者面談を乗り越え、その後に母はママ友の天野エミリさんとお茶に出かけた。

「サヤカちゃんを家まで送りなさい」

僕は母の指示に従い、天野サヤカさんを家まで送り、自宅に戻ろうときびすを返した。


「裕人君、待って、うちで御飯を食べましょう?」

「僕は家に帰って母さんのカレーを食べるよ」


「私一人で夕食は寂しい」

「ママのエミリさんは?」


「ちょっとお茶すると言っても1時間は戻らないと思う、ママは夜の六時を過ぎると御飯を食べないから、ねえ裕人君、魯肉飯るーろーはんを作るから食べてよ」

食べたことも無く初めて聞く料理の名に興味が沸いた。


天野サヤカさん、魯肉飯るーろーはんってナニ?」

「香辛料が特徴的な豚丼、台湾の国民食よ」


折角の機会を逃したくない僕は天野サヤカさんの誘いを受け入れた。

「それじゃ遠慮なくご馳走に成ります」


「急いで作るけど、魯肉飯るーろはんが出来るまでシャワーを浴びたら?」

「そんなに時間が掛かるの?」


「上に乗せるゆで卵に十五分、豚バラはスパイスとタレを掛けて完成するから」

前に留守番で泊まった時の着替えが有り、料理が出来るまでの時間で汗を流した。


シャワーを浴びてランドリーで髪と身体を乾かしてサパッリした気分の僕に、キッチンから漂う香辛料の香りに空腹を感じる。


「裕人君、テーブルに着いて、いま丁度出来たところよ」

見た目はたしかに豚丼だが、豚バラ肉と茹でた青梗菜ちんげんさい、ニンニクと生姜しょうがに星型の何かが一番強く香る、そこに半分に切ったゆで卵が二個トッピングされている。

僕が知る肉桂にっけいか、シナモンとも違う独特な香りを感じる


「この匂いはナニ?」

「台湾料理では定番の八角はっかく、台湾の飲食店は八角の匂いが充満しているよ」

元モデルの天野サヤカさんは撮影で台湾に渡航経験が有ると思う。


始めましての料理を口に運び、醤油ベースに少量の砂糖とお酢とオイスターソース、数種類のスパイスの香りを味わう。


「始めて食べるけど美味しいよ」

「裕人君が気に入ってくれて良かった、そうだ今日の三者面談で志望校を決めたの?」


すっかり忘れていたが、今日は母と面談を受けた事を思い出した。

「うん、一応は青竹高校を志望にしたけど」

「何か裕人君は納得してないのね」


確かにそうだ、全国優勝を狙える強豪校へ進学したいが、名邦高校以外に声は掛からなかった。

「私に話してないことは無いの?」

「これは誰にも言ってないから」


「心配しないで裕人君、他言無用ね」

僕は名邦高校の選抜試験セレクションを受ける、それを天野サヤかさんに言ってなかったから機嫌を損ねた。

それを思い出して、試験後の名邦高校で神山中学の石川拓実から声を掛けられて『俺と一緒に白梅高校で日本一を目指そう』と誘われた経緯の全てを正直に話した。


「その石川君を信用できるの?」

「正直分からない、悔しいほどバスケは上手いが、性格は悪そうだから」


「人は見た目じゃないって言うからね、あ、裕人君のことじゃないよ」

軽く弄られた気がする・・・

「そうだね、僕が石川を信用する材料が無いから、与太話くらいに思っている」

もしかして石川が僕をライバル視して、弱小校へ入学させる作り話かも知れないし、と思うほど僕は自信家じゃない・・・


「もし万が一でも、裕人君が白梅高校を受験するなら、今の内申点と模試の点数は足りているの?ちょっと成績表を見せて」


担任の小池先生から受け取った成績表と模試の点数を伝えた。

「え、私と勉強していた頃の定期テストは430点だったよね、今の内申点36と模試の400点じゃ白梅のボーダーラインを越えれるの?」


「分からないけど、白梅高校を受けるって決めた訳じゃない」

「その若しもに備えて明日から私と強制的に受験対策ね、そうだ良い事を思いついた」


天野サヤかさんが言う『良い事を思いついた』は僕に取って良い事じゃない気がする。

「何を?」

「もう部活の朝練は無いよね」

「うん、中体連で部活を引退したから」


「それじゃ、裕人君は毎朝自転車でうちに来て私と登下校しましょう、私と勉強して帰りが遅くなっても自転車なら大丈夫よね、それに私のボディガードも出来るよね」


そう、日暮れが早くなり、出没する不審者の対策にも成ると納得させられて、僕は『ウン、分かったよ』と同意した。


シャワーで汗を流してサッパリした、それから大盛りの魯肉飯で食欲を満たした僕は、

「ご馳走様、これで失礼する、ママに宜しく」

この家で用件が済み、天野サヤカさんへ帰宅の意思を示した。


「未だよ裕人君、ちょっと待って」

暫し待たされた僕の前に一冊のテキストを持って戻って来た。


「この前の続きをしましょう」

続きってナニですか???

意味が分からず無言の僕へ、

陰茎いんけいは分かったけど、陰嚢いんのう睾丸こうがんについて知りたいから」


天野さんは手にした『保健体育』のページを開いた。

これも天野サヤかさんは知的好奇心だと理由を付けるだろうか、

返事に困る僕へ、

「だって、私は陰茎も睾丸も持ってないから、裕人君が見せて」

「どうして僕の?」


「将来を約束した裕人君は体毛が薄いから細かい所まで良く見えるでしょ」

あ~、そこは僕が気にしているのに・・・

兎に角、終わらないと帰して貰えないと覚悟しながら、シャワーを浴びて良かったを安堵する。


「ベッドで横に成って」

「触っちゃ駄目だよ」


「出来るだけそうする、けど陰嚢を触らないと睾丸の形が分からないよ」

「二個有るけど小さなラグビーボールみたいだよ」


「裕人君、精巣と睾丸は同じなの?」

「知らない、自分で調べて、天野サヤかさん」


保健体育の教科書で分からないから、ネットで検索して

「おおよそ一緒だった、陰嚢のシワシワはナンでかな?」

天野サヤかさんの独り言は僕に訊くよりネットで調べる為に発したと思う。


「へえ~、睾丸を一定の温度に保つ為に夏は放冷で伸びて、冬は縮んで保温するみたい、裕人君は知っていた?」

確かに僕の玉袋は季節に因って伸びたり縮んだりするが、医学的な理由をしらなかった。


「もう良いでしょ」

「未だ駄目、睾丸は男性の急所でしょ、どれ位の刺激で痛いの?」


どんな質問でも答えないと天野サヤカさんは満足しないだろう、早く帰りたい僕は素直に、

「優しく触れば気持ち良いけど、強く握ったり叩かれると悶絶する」

「テレビで見た野球でキャッチャーの事故?」


野球のファインプレー、ハプニングシーンのそれだよ、もう勘弁してくれ・・・

「ちょっとだけ触るね、ここもプニュプニュで柔くて可愛い、あ、本当に二個有った」


暫く陰嚢を弄った天野サヤカさんは納得して僕を解放した。


「次は裕人君の前立腺を見たい」

男性だけに有って、女性に無い前立腺は外から見えない、絶対に無理ですよ。

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