第106話 三者面談。
九月中旬に前期期末テストを受けて、科目ごとの得点に
テストの答案返却から三者面談の数日前に、クラス担任のコケシちゃんこと、小池詩織先生がホームルームで二枚のプリント配り、一枚は三者面談の個別予定表と進路希望確認書。
「三者面談までに御家族で公立高校と私立高校の志望校を話し合ってください、高校受験の分からない事は三者面談で私に質問してください」
小池先生の説明を聞いたクラスメイトから、
「先生、今度の三者面談で受験する高校を決定ですか?」
誰もが始めての高校受験に不安を持ち、些細の事でも担任へ質問する。
「後期十二月の三者面談で最終決定ですが、それまでに心の準備が必要でしょう?」
小池先生が生徒へ伝えたいのは、試合前に気持ちの準備を整えるモチベーションだと思う。
その日の放課後、僕は職員室へ向かいクラス担任の小池先生を訪ねた。
「槇原君、どうしたの?」
「先生、僕も三者面談しなくちゃ駄目ですか?」
正直に言えば、全国優勝が可能なバスケ中心の志望校も決まってなく『高校は裕人が決めたら善いのよ』と言う母の言葉をそのまま受け取り、さらに槇原ベーカリーを休ませる三者面談を母に伝えるのは気が引けていた。
「そうね、一度はご両親と面談した方が良いからね、それとも特別な理由が有るの?」
まだ志望校を決めてない僕が、三者面談を避けられそうに無いと判断して、
「分かりました、家の事情も有るので最後の順番でお願いします」
こんな流れから、帰宅して三者面談のプリントを母へ見せた。
「あ~、来年は裕人の受験なのね、この時間なら早めに閉店して行くわ」
三者面談の予定時間を確認した母は了承したが、
「それで裕人の志望校はどこ?」
バスケを中心に考えると父の母校、強豪校の県立青竹高校だが全国的には二回戦敗退の繰り返しで本気の第一志望と考えられない。
「一応、県立青竹高校だけど、未だ時間が有るから予定は未定と言う事でお願いします」
「裕人にしては
これで母と高校受験の話し合いを終えて、数日後の三者面談に望んだ。
九月最終の週末金曜、給食後の掃除を終えてその日に三者面談が無い生徒は帰るが、僕は教室前の廊下で面談の最終時間に来る母を待つ。
「俺は昨日終わったが、
同じ三年四組の
「成績の良い
それは素直な感想で、嫌味を言った積りは無い。
「俺は
小学生の頃から何度も言われる冗談に一度も笑ったことは無いが、
「僕の身長は親からの遺伝だよ」
「そうだよな、
僕の父は190cm、母は170cmで同世代の標準より背が高い、公称170cmの
橋本が廊下を後にして約十分後、いつもより少しだけお洒落なワンピースを着た母は薄化粧でお淑やかな雰囲気を見せる。
「裕人、お店を急いで閉めて来たけど、遅刻じゃないよね」
前の女子生徒の面談は終わってない。
「うん、予定の時間が過ぎたけど大丈夫だよ」
廊下に置かれた折り畳みのパイプ椅子に母と座る僕は落ち着かなかった。
同じクラス以外の生徒が僕の前を通り、チラリと母を僕を見比べて『バスケ部の槇原は母親に似ている』と思われている視線を感じる。
教室の引き戸が開き、前の生徒と母親が、
「失礼します」
とお辞儀して、
「お待たせしました」
僕と母に会釈して帰っていく。それと同時に、
「次の槇原君、どうぞ」
小池先生の声を聞いて教室の席に着いた。
「始めまして、宜しくお願いします」
小池先生と初対面の母は一つ頭を下げて教室の椅子に腰掛けた。
「あ、やっぱり槇原君のお母さんも大きい人ですね」
この一言に付いて後から訊ねたが、150cmに届かない小柄な小池先生は『何を食べたら大きくなれるのか』を母に質問したかったらしい。
「槇原君の成績です」
小池先生がくれたプリントを見て、数学、理科、体育、技術家庭科の評価が5、社会が4、英語、国語、音楽、美術は3、合計36を確認した母は、
「給食の科目が有れば裕人は5よね」
それは母成りに場を和ませようとボケた積りが、小池先生に伝わらなかった。
「第一志望は青竹高校です」
僕の口から志望校を言い、それを聞いた小池先生は、
「そうね、青竹高校に必要な内申点は34だから安心だけど、統一テストの合格ラインは?」
新聞社と進学塾は開催する模擬試験の点数を情報共有してない中学の先生は知らない。
言い訳をさせて貰えば、二年生の後期テストで合計430点を取れていたが、中学最後のバスケ公式戦に集中して、それ以降テストの合計得点を下げていた。
「模試は五科目で400点でした」
僕の返事に小池先生は、
「青竹高校の合格ラインは370点前後だから、合格率も75%以上ね」
模試の合格判定は、ボーダーライン以上だと75%、ボーダー点数だと50%、それ以下だと30%を機械的に判定される。
それからは順調に面談は進行して最後に、
「槇原君、私立高校はどうするの?」
簡単に母と『青竹高校にする』と話したが、私立の志望校を決めてなかった。
「私立は未だ決めてないです」
僕の返事を聞いた小池先生は、
「バスケ部の先生から『槇原は愛知の名邦高校に合格した』と聞いたけど違うの?」
その余計な一言で母の表情は険しくなり、
「そうそう、そうでしたね、それではこれで失礼します」
先生に話を合わせて三者面談を終えた。
教室から廊下に出た母は僕へ、
「名邦高校の事は父さんと家で聞くから説明しなさい」
「それには僕なりの理由が有って」
勿論それは僕の言い訳だが、それと同じ頃に隣の三組から
「あら、
「まぁ、槇原さん、お留守番では裕人君にお世話に成りました、お店のベーカリーは?」
「今日は面談でベーカリーは早仕舞い、あのお留守番にこんな裕人でもお役に立てたなら、エミリさん、これから夕食の準備?」
「私の家は
「息子の裕人は食べるだけで家事を手伝うなんて女の子が羨ましい、今日はカレーを作ってきたから、天野さん、ちょっとだけお茶しない?」
母とエミリさんは僕が幼稚園からのママ友でも、今では話す機会も無くなっていた。
名邦高校の件で両親から質問より、叱られると覚悟した僕は母から『エミリさんとお茶するから先に帰りなさい、いや、サヤカちゃんを家まで送りなさい』と指示された。
正直に言えば『ママ友のお陰で助かった』しかなかった。
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