第102話 高校日本一を目指す。

名邦高校の選抜試験セレクションが終わり、特に寄り道の予定も無い僕は帰路に向かって、名邦高校の校門を目指した。


「お~い、灰原中のマッキー」

後から僕を呼ぶ声に聞き覚えは無いが、取りあえず振り返ってみた彼奴あいつは。


記憶に有るが、言葉を返したくない男がこちらを見て僕を呼ぶ。

「ちょっと待てよ、マッキー」

それは中学最後の公式戦で苦杯を舐めさせられた神山中学のキャプテンで、全国大会準優勝と大会ベスト5に選出された忌々しい奴だった。


「君にマッキーと呼ばれるほど親しい積りは無いが?」

「そうだな、俺の名前は石川拓実いしかわたくみ、イッシーと呼んでいいぞ」


オイ、僕の話を聞け、誰がお前をイッシーなんて親しげに呼ぶものか・・・

「それで石川君は何の用かな?」


「俺も名邦高校の選抜試験を受けて、今終わった所だよ、偶然だな」

僕が居た体育館のAコートと隣のBコートに石川の姿は無かったと思うが、同じ位の身長が多くて見落としていたのか。


「マッキーも終わったなら俺と少し話をしないか?」

「直ぐに帰るから石川君と話をしない」


「あれぇ、若しかしてマッキーは俺の事が嫌いなのか?試合で負けた相手に恨まれるのは慣れているから気にするなよ」

一々いちいち勘に障る奴だが、こいつのバスケ・センスに勝てない僕は言い返せない。


「取りあえず話は聞くけど手短に頼む」

「悪い話じゃないからさ」

神山中学のキャプテン、所々質問を交えた石川拓実の話が始まる。


・・・マッキーは高校バスケをどう思う?名門高校は世代交代しても全国大会の常連だろ?私立名邦高校みたいに施設の充実も有るがコーチの指導力だと思わないか?、そして東京や大阪、京都や福岡と強豪が揃う地域、そんな強豪校に入学して早くても二年生までは下積みだろ、俺たちの地区で一番は青竹高校だが全国レベルでは良くて二回戦敗退、どうせなら一年生で全国大会に出て見たいと思わないか?・・・

こんな雰囲気ニュアンスで石川拓実は僕へ思いを伝えるが


「スポーツ漫画やアニメじゃ有るまいし、そんなのは有り得ないだろ」


「そうだろうな、全国準優勝とベスト5を経験した俺が思うのは、中学の全国大会レベルはチーム力で横浜の中学が優勝したけど、個人的に傑出した選手は居なかった」


県大会で俺がリバウンド・ダンクを決められたマッキーより誰も衝撃インパクトが無かった。

「そりゃ、随分光栄な事で、もう帰って良いかな、石川君」


「待て待て、話はここからだ、ここだけの話で誰に言っても困る」

「じゃぁ、僕は聞かないよ」


「そうじゃないくて、マッキーは東京の帝王高校って知っているだろ」

「知らないな」


「おい、帝王高校を知らないって、インターハイやウインターカップの優勝校だぞ」

愛知の名邦高校で選抜試験を受けた僕が東京の帝王高校を知るわけが無い。

「それがどうした?」


「帝王高校のヘッドコーチを勤める野村先生が今年限りで退職して地元へ戻り、公立高校の教員採用試験を受けるらしい」

それだけだと話の本質が見えてこない。


「その野村コーチの地元って、何処?」

別に石川拓実の話に興味は無いが相槌程度に返事をした。

「それが俺たちの地区で県立高校の教師に成るらしい」


「やけに詳しいな」

「だからここだけの話なんだ、俺の親父が県教育委員会の人事課に居て、野村先生の採用を知った」


「マジな内部情報だろ、そんなのを僕に話しても良いのか?」

「あぁ、野村先生の指導力コーチで県立青竹高校バスケ部を全国のトップレベルにしたいらしい」


「それで石川君は青竹高校を志望するのか?」

「そうじゃない、現在の青竹高校にはあと三年で定年退職の安田先生が居て、野村先生が青竹高校の顧問に成る前に毎回初戦敗退の弱小「白梅高校』へ三年間限定の赴任らしい」


白梅高校とは平成の高校再編成で、女子校から男女共学に変更された文科系の部活動が主で、今でも女生徒の方が多い元女子校。更に言えば同じ頃に青竹高校は戦後に創立された農業林業酪農の元県立農林高校から青竹高校へ校名を変更された、それは僕が生まれる前の話だから、この逸話も商店街の親世代から聞いた。


「それで?」

「マッキー、俺と一緒に白梅高校で全国大会優勝を目指さないか?」

僕が元女子高の白梅高校を志望するなんて夢にも思わないし、だいたい白梅高校に男子バスケ部が存続するなんて聞いたことも無い。


「僕が石川君を信じる理由が無いし、この名邦高校に合格できたら入学する積りだよ」


「だから、名邦高校に入学しても二年間は下積みだろ、俺が県内中学の有力選手を白梅高校に誘っている、だからマッキーの力を貸してくれ」

県ナンバーワン選手と思っていたが実は全国ベスト5選手の石川に誘われて、僕は悪い気がしないけど。


「未だ高校受験まで時間は有るから、一応検討するが期待しないでほしい、話は代わるが石川君はU15や国際大会の日本代表に選抜された?」


「まぁな、代表の練習中に足首を捻挫したから国際試合の経験は無いが、それがどうしたマッキー」


やっぱり僕は石川拓実が嫌いだ・・・


「其れじゃぁ俺からくけど、マッキーの最終目標は何だ?」

石川から突然の質問に警戒心を忘れて、

「NBAプレーヤーだよ」

口から出た後に仕舞ったと悔やんだが、

「俺もマッキーと同じNBAプレーヤーだが、その先に日本代表からオリンピックで金メダルを取る」


『諦めたらそこで試合終了』を信じている僕でも日本代表で金メダルを取る、そう言い切る石川の信念に驚くしか無い。

「マジか」

嫌な奴だと思った石川拓実に少しだけ共感した。


「そうだ、マッキーはロスアンゼルス・レイサーズのキング・ジャージを着ていたな、無表情ポーカーフェイスな見た目で自己顕示が強い目立ちたがり屋なんだな」


選抜試験では誰にも指摘されなかったから、僕自身がキングのジャージを着ていた事を忘れていた。それを目撃した石川が今に成って態々自己顕示欲が強いと言うなんて、やっぱり僕は石川拓実を好きに成れない。



後日談と言うか、その日十五時に帰宅した僕へ母が

「サヤカちゃんから何度も電話が有ったよ、一緒じゃなかったの?」


そうか、僕が名邦高校で選抜試験を受けると知っているのは天野サヤカさんだけだから、僕が出掛けた理由を母が知らないのは無理も無い。


そして間もなく家電いえでんが鳴り、母を制して、

「僕が出るよ」

予想通り相手は天野サヤカさんで、

「裕人君、試験はどうだったの?合格?不合格?どっちなの?」


「今日直ぐに結果は出ないよ」

「それじゃぁ、自信は有るの?」


「これは、神のみぞ知る、だよ」

「え、神の味噌汁って?、今から裕人君の家へ行って善い?」


「今日は疲れたから少し休ませて欲しい」

「裕人君が疲れているなら、今から癒しに行くね」


僕の話を聞かないのは二人目だ、まったく、人の話を聞けよ・・・

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