第101話 アイコンタクトで意思疎通。
八月最終の金曜日、6時に起床して、バスケの公式戦と同じ消化吸収の良いミートパスタで朝食にした。
昨夜、眠る前にスポーツバッグにマシックスのバッシュとゲーム用のロングパンツ、レイサーズのジャージ、その他、ソックス、タオル、凍らせたペットボトルのスポーツドリンク、名邦高校まで往復の交通費を含めた小遣いを確認してベッドに入った。
中学生が単独で校下外に出る時は校則で制服着用を義務付けられているが、生徒手帳に記載されていても守るはずが無い。
更に夏服の白シャツと黒ズボンでは、ここより街中の名邦高校を訪ねるには恥かしい。
迷うほど種類を持ってないが、サイドボタンを開くとバッシュを履いたまま脱ぎ着ができるサイドオープンのバスケット用ロングパンツと、同系ブルー色のTシャツを着用した。
今日僕が名邦高校の
私立名邦高校の校舎は外観から綺麗で会場のバスケ部専用の体育館も立派だった。
その受け付けで手続きを済ました僕へ、
「九時からAコートでスタートします、それまでに着替えてアップを済ましたください」
僕と同じくらいな身長の名邦高校バスケ部員らしき生徒の案内に、三学年で百人を越えるらしい名邦高校の先輩は一年か二年なのか、若しかして十二月のウインターカップまで引退しない三年生かもしれない。
なんて余計な事を想像して、更衣室で着替えて二面有る体育館のAコートへ向った。
市立灰原中学の古くて汗臭くて暗い体育館に慣れている僕は、二階の観客席こそ無いが県大会で訪れた神山ビックアリーナに似ている綺麗な施設に驚き、さらにエアコンで空調されている乾いた空気に、さすが経済的に裕福な私立の名邦高校だと驚いた。
ここに集められた中学生の中に僕の知る顔は居なく、同じ県内ではない他県のバスケ選手かもしれない、そして推定193cmの僕より高身長の選手が二人居て、中学バスケ界の選手層は広いと納得した。
「はい、集合、今から幾つかの基礎的な動きから順に五分ほどシュート練習を見せてください、フリースロー、3Pスロー、レイアップ、得意なシュートタイプで構いません」
僕を含めてAコートに十人ほど集められた中学生へ、今回は女性のコーチが手にしたファイルで所属中学と経験したゲームポジションを確認しながら指示を出した。
ここで言う基礎的な動きとは、走力、パス、ドリブル、シュート、リバウンドの五つをミニゲームで見定めるらしい。
僕達十人の受験生を二つのチームに別けて、高校生チームと中断しないランニングタイムのミニゲームが始まる。
基本に忠実、それを心がけてミニゲーム参加する、ただし対戦相手は名邦高校のバスケ部員で、身長体重ともに
僕が組まれたチームのセンタープレーヤーとアイコンタクトを交わして、ゴール下のインサイドへ入るタイミングを計ったり、ガード&フォワードの選手から受けたパスをポストプレイでフリーの味方選手が3pシュートを打てるパスを送る。
僕が得意なフックシュートだけでなく急造チームメイトの3pや、ゴール正面から後へ飛びながら打つフェイダウェイを決また選手と僕もハイタッチを交わす。
今日が初対面のチームメイトでも、バスケセンスに優れた選手はお互いの動きを予測できて、セレクションの緊張よりも心地良いミニゲームの時間を過ごせた。
勿論、高校生チームの
明るい照明、除湿された空調、そしてバッシュのグリップが良くてキュッキュと響く体育館の床に、今回のチームメイトと名邦高校で全国大会を目指したいと思う。
僕はセレクションの緊張感よりここの環境の良さに陶酔しているが、
女性コーチの横に先ほどは居なかった中年男性が、きっとヘッドコーチだと思う人が女性コーチへ話しかけて、女性コーチがミニゲームを止めて、
「そこの君、オフェンスリバウンドからダンクシュートを見せて」
僕に直接プレイスタイルの指示を出した。
それまでは普通にミニゲームをしていたチームメイトと高校生チームの足が止まり、それを聞いて悟った一人が3pラインからシュートを放つ、ゴールに向うボールが不規則な回転でリングに入らないと思い、リバウンドポジションを取るとそれまでは緩い相手のディフェンスが強くディフェンスポジションを譲らない。
橋本が言っていた動画サイトの件だと思うが、あれは火事場の馬鹿力で万事休すの偶然、今の状況で同じ事を再現出来ないと思う瞬間、『この
上手く行けば、視界から色と音が消えて、相手選手の動きがスローに成る。
肉体的な
あの先輩も僕が知る特別なゾーンを経験しているのか、
結果的にオフェンス・リバウンドからダンク・シュートは入ったが、あの時の様に危険回避でゴールリングにぶら下がれなかった。
「はい、終了、それまで」
ミニゲームを含めた
同じチームで受験した男子中学生から、
「お互い合格出来ると良いな、その時はライバルでチームメイトだよな、今は名乗らず再会を楽しみにするよ」
男前のコメントに良い奴と思い、上手く返事が出来ずに頷くだけの僕だった。
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