第98話 ロールケーキとカキ氷。
「裕人君に嫌われたくない、私を嫌いじゃないなら『好き』と言って」
傷付きやすい思春期女子の
『僕は天野サヤカさんが世界で一番好きです』と神様に誓った。
「私から裕人君へ最初のお願いは・・・『新婚ごっこ』をしたい、駄目かな?」
駄目かなと言われても僕はそもそも『新婚ごっこ』を知らないし、それは幼い子供が遊ぶママごとの中学生バージョンなのか、そこを聞き返すより先に『うん、良いよ』と
後から知った『新婚ごっこ』とは、親が海外旅行で不在の期間に幼馴染の男女が新婚夫婦のように暮す少女マンガで、それをサヤカさんの好みにアレンジしたい。
「男子には不評でも、女子はキュンキュンするの」
そういうものか、結局の所リアルママごとだろう・・・
と言っても僕とサヤカさんは受験生であり、午前中は過去問題集で受験対策して、昼食時からサヤカさんが望む『新婚ごっこ』が始まった。
「はい裕人君、ア~ンして」
ランチは僕の好きなカレーライス、サヤカさんは白磁の皿からスプーンにすくって僕の口元に運ぶ。
「え、病人じゃないから自分で食べられるよ」
「病気や怪我人じゃなくても新婚の妻は愛する夫に食べさせたいのよ」
そう言われたら断る理由が無い僕は、恥ずかしさを感じながらも『ア~ン』と口を開いた。
「美味しい?」
「うん、とても美味しいよ、お返しにサヤカさんも『ア~ン』して」
お互いに食べさせあうと思う僕へ、
「恥かしいから無理です」
とサヤカさんは拒否る。
自分が恥かしい『ア~ン』を僕にさせるのか、我侭と言うか理不尽を感じるがこれ以上刺激しないように言葉を飲みこんだ。
流石に気不味さを感じたのか、食事中は何事も無く二人でテレビを視聴した。
朝ドラと大河を録画してから見る僕は久しぶりに民放のCMを見た。
タヌキのポイントカードの青い看板のコンビニ、青森弁の俳優と女優がポーズを取り、それを見ている
「このコンビニスイーツ、美味しそうね」
それは夏限定品なのか、白いクリームのレモン風味ケーキを注目する
「今から僕がコンビニに行こうか?」
「え、外は暑いよ、日に焼けちゃう」
「だから僕一人で行くから、サヤカさんは涼しい部屋で待っていて」
「じゃお願いするね、裕人君も好きなものを買って良いよ、これで支払って」
サヤカさんは自分の
「キャッシュレスの『ポイポイ』は知っているよね」
「使ったこと無いから」
サヤカさんは説明するように僕へ
「これで画面が出るでしょ、コンビニアプリからクーポン画面を出して、『ポイポイ』で支払い完了よ」
始めてみるキャッシュレスアプリに戸惑いながら、
「最初に
「誕生日よ」
確か携帯や銀行カードの契約時に誕生日や電話番号などの予想され易いナンバーは不可のはずだが、
「え、サヤカさんの誕生日?」
「違うよ、裕人君の誕生日、皇室の
僕も忘れていた自分の誕生日が、サヤカさんの
「そ、そうだね、じゃぁ近くのコンビニまで行ってくるよ」
八月十八日、一年で一番暑い時期の一番暑い正午過ぎ、きっと外気温は35℃を超えているだろう、靴底と路面のアスファルト舗装も解けそうな灼熱が足裏に伝わる。
ラジオのリスナー投稿で聞いた『夏のコンビニは都会のオアシス』とは良く言った物だと、改めて感心する。
自動ドアから店内に入ると別世界の様に涼しい、テレビCMで見た白いスイーツと僕はカップのカキ氷を選び『ポイポイ』で支払い、急いで
インターフォンを押した玄関から涼しいリビングへ進み、僕を迎えたサヤカさんは、
「外は暑かったでしょう、まあ、裕人君凄い汗よ、先にシャワーを浴びたら?」
全身から汗が流れる今の僕は、冷たいスイーツよりシャワーの方が嬉しい。
「そうさせてもらうよ」
天野家のバスルームには女性用のシャンプーとコンディショナー、ボディーソープ以外にも、僕の洗顔用品や知らないバスアイテムが並ぶ、その中から頭から身体まで使える『オールイン・シャンプー』全身を泡に包んだ。
中学に入ってかは基本的に風呂は一人で寛ぐ僕の後から、
「あなた、背中を流しますね」
え・え・え、戸惑う僕の返事を待たずに身体にバスタオルを巻いたサヤカさんが浴室に侵入して、手にピンクのクシュクシュしたバスネットに泡立てて微笑む。
どうやら『新婚ごっこ』が継続されているらしい、それは突然の事でも中学一年で『皮むき』の儀式を経験した僕は、通常状態のアソコを見られても特に恥かしいとは思わない。
「裕人君の大きな背中ね、前も洗うよ」
流石にそれは恥かしいから、
「そこは自分で洗えるから、親しき仲にも遠慮させて」
「そうね、いきなりグイグイ来られても男性は引くよね」
とは言え、僕の背中を洗うサヤカさんの身体に巻いたバスタオルはシャワーの湯を吸い身体に密着してボディーラインがはっきりと見える。
これ以上の刺激は僕も身体も変化を始める、それを悟られないように、
「有難う、綺麗になったと思うから、もう出るよ」
これで『新婚ごっこ』から解放されたと思う僕へ、
「未だよ、私が裕人君の髪を乾かしてあげるね」
バスケの所為から神は短髪、スポーツ刈りが少し伸びたら僕は、自宅の電動バリカンでツーブロック風にセルフカットしている。
いつもは風呂上りのドライヤーで30秒も有れば簡単に乾くベリーショートに、
「裕人君の髪、直ぐに乾いて詰まらない」
肩より長い髪のサヤカさんは自分のドライヤーと勝手が違うらしい。
「男性のお風呂タイムって女性が思うより短いんだよ」
それを『カラスの行水』と説明できる慣用句は便利だと思う。
そして風呂上りのお楽しみ、サヤカさんはレモン風味のロールケーキを選び、僕はマン中にバニラアイスが入った庶民的なカキ氷のメロンフロート。
何でも聞く所に因ると外気温が33℃を越えると、アイスクリームより氷系の氷菓が良く売れるらしい、今日は午前中に34度を越えたとお昼のニュースで聞いた。
チープなカキ氷には付随するチープな木製スプーンがベストアイテム、プラの蓋を開けてると条件反射的に蓋の裏を舐める。
渇いた喉に今、冷たいカキ氷でクールダウンする瞬間、
「裕人君のカキ氷、凄く美味しそうね、私に一口頂戴?」
元々はサヤカさんのスマホ決済で購入したメロンフロートに僕の占有権は無い、
「半分食べても良いよ」
『一口頂戴』と言うサヤカさんへ先にメロンフロートを譲った。
「ワア、冷たくて美味しい、私もミルク金時のカキ氷にすれば良かったかな?」
半分食べて良いよ、確かに僕はそう言ったが、中心のクリームを囲むメロン味の氷を半分食べたサヤカさんは、
「アイスクリームも半分頂くね」
一口頂戴から始まったボ訓もメロンフロートは見事なくらい半分に成り、その残りは溶けかけて見た目は三分の一にまで減った。
これは既にカキ氷と言うより緑色のクリームソーダしか見えない、喉が乾いた僕は一口で飲み干した。
流石に気不味さを感じたのか、サヤカさんは、
「裕人君に私のロールケーキを半分あげるわ」
甘いものは余計に喉が渇く、ロールケーキより麦茶を飲みたい僕は、
「要らないよ、サヤカさん全部食べて良いから」
「裕人君は怒っているの?」
カキ氷を半分食べられたくらいで怒るほど僕は短気じゃない、それより麦茶が飲みたい。
「大丈夫だよ、これで『新婚ごっこ』は終わりかな?」
「もう少しだけお願いしたい、夜になってからイチャイチャ・ドキドキしたい」
サヤカが言う『夜にイチャイチャ』って、ゴッコじゃ済まないでしょう・・・
あ、サヤカさんのママ、エミリさんから渡された『薄々0.02m』のアレって何処に置いたんだろう???
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