第94話 勉強会で留守番。

年末年始と旧盆に僕は両親と其々の実家へ帰省する。

小学生だった三年前までは順に父方の家へ挨拶を済まして、父は帰るが僕は母方の家で二日間を滞在した。

父は青竹高校バスケ部のOB会に参加し、母は幼馴染の女子会へ出かけた。

祖父母宅に残された僕は地元の夏祭りや新聞社が主催する花火大会を見に行った。


それも僕が中学に入ると、部活動や宿題を理由に日帰りの帰省に変わり、半年に一度再会する祖父母は190cmに育った『裕人は大きくなったね』と笑顔を見せてくれた。


今年の帰省は天野サヤカさんも同行して、母の実家で夕食後に僕と天野さんを父が車で送る予定だったが、実家で気が緩む母は飲酒から尻が重くなっていた。

「未だ帰りたくない」

と駄々を捏ねる母は、

「裕人とサヤカさんを送るから、嫌なら置いていくよ」

父の一言で、

「分かったわよ、立ち上がるから手伝って」

そう言って手を差し出す母を父が抱き上げて、仕事用ワンボックスバンの後席に座らせた。


出かける前に僕は勉強合宿用のテキストと、一週間分の着替えをバッグに詰めて車に積んでいた。

父が運転するワンボックスは、其れほど自宅から離れて居ない天野さんの家に到着して車から降りた僕は、

「父さん送ってくれて有難う、車から寝ている母さんを降ろすのは大丈夫?」

父を気遣った僕へ、

「なあに平気だ、男なら惚れた女房を運ぶくらい朝飯前だ、心配するな」


尊敬する190cmのワイルドイケメンの父が言うなら大丈夫だと納得する。

「今日はご馳走様でした、送って頂き有難うございます」

僕に続いて天野サヤカさんも、祖父母に挨拶できた事と食事の礼を告げた。


父のワンボックスを見送り天野サヤカさんの家に入ると、ママのエミリさんが出迎えて、

「裕人君、無理を言ってゴメンなさい」

東京本社とロスの支社で共同プロジェクトのリーダーを務める天野パパと夫人同伴のレセプションパーティーに参加で、出かけるエミリさんは娘を心配して僕に留守番を依頼した。


「ママ、着替えてくるね」

そう言ってサヤカさんは自室へ向い、残された僕はエミリさんから、

「若い男女が一週間も同居すると我慢が出来ないよね、もしもの時はこれを使って」


エミリさんは僕に小さな箱を手渡し、それには『薄々0,02m、Lサイズ』とプリントされたアレだった。

「これって男性用ですね?エミリさんに御心配掛けますが僕なら我慢できます」

自信は無いが、十八歳までエッチはしない約束を忘れてない僕は見栄を張った。


「裕人君じゃなくて、サヤカが暴走したらコレを使って最悪の事態は避けて欲しいの」


「体力に自信が有る僕は力尽くで阻止します」

「裕人君はサヤカの泣き脅しの涙に勝てるの?」

あ~そう言う事も有りえるのか、涙は女の武器と言うな・・・


「それじゃ、使う機会は無いと思いますが一応預かっておきます」

手渡された小箱をジャージのポケットに入れたと同時に、モフモフの部屋着に替えたサヤカさんが部屋からリビングに戻って来た。


「ねぇ裕人君、ママと何を話していたの?」

まさか、今の話を聞かれてないと思うが、ポケットの中を気にしながら、


「今日から一週間のお留守番を頼まれた理由だよ、テキストはコレで良いかな」

パパの仕事で会話したと誤魔化し、トートバッグの教材を見せた。


「そうなんだ」

僕の説明に納得しないサヤカさんへ、

「あら、もうこんな時間ね、今からノゾミで東京へ向うから後は宜しくね」


時刻は十九時、ママのエミリさんは迎えに来たタクシーで新幹線駅へ向った。


取りあえずリビングに着替えと勉強用テキストのトートバッグを置いた僕へ、

「裕人君、勉強する?お風呂にする?それとも私にする♡?」

今は笑えないコントだよ・・・


「じゃあ先にお風呂を頂こうかな?」

母の実家で食べた焼き肉の臭いが気に成るし、今日一日で髪がベトついている気もする。

「やっぱり私と混浴はダメかな?」

初日に混浴したら僕の理性はきっと崩壊するだろう。


「ねえ、天野サヤカさん、無茶振りで僕を困らせて嬉しいの?」

「うん、困った裕人君の顔が好きなの、やっぱり私ってSかな?」


Sかな?じゃなくドSだよ、天野サヤカさんの可愛い顔を見て言えないけど・・・

「そう言うのも女性なら有ると思うよ」

「裕人君は理解あるのね、じゃあ、お勉強を始めましょう」


と、その前に入浴を済まして、髪を乾かした僕はハーフパンツとTシャツに着替えた。


サヤカの自室でなく、リビングテーブルで向かい合い、テキストを開いた。


「裕人君のテキストって、県立入試の過去問でしょ、それよりこっちを使おうよ」


サヤカさんがテーブルに取り出したのは、僕が見た事の無いテキストで、

「コレって何?」

僕は思ったままを単純に訊いた。


「これは全国的に有名な私立高校の過去問題集よ」

それは東京かいせき高、兵庫ナマ高や鹿児島ラメール高など、有名私立高校のテキストで初見の僕には解けない難問だった。


「いや、いや、県立の入試にコレは無いでしょう?」

「だから、よりハイレベルな問題を経験しておけば、本試験でも焦らないでしょう」

確かにそうだけど、バスケを優先して志望校を決めてない僕には不要と思うが、しものしか・・・


「あのね、さっきの事だけど、裕人君のお父さんが言った『男なら惚れた女房を』って格好良いよね、それでも起きている母さんに聞かせたかったと思わない?」


なるほど、それも女心なのか・・・

「父さんは気付いてないと思うけど、母さんは寝たふりで聞こえていた思うよ」

僕の推測を聞いた天野サヤカさんは、

「え、なんで?」

驚きを隠せない。


「あのまま母さんが寝た振りしていたら、父さんにお姫様抱っこされて家に入れるでしょ、その後はきっと『お父さんが着替えさせてよ~』的な展開からラブラブモードに」

これも推測だが、僕が不在なら母の暴挙も父が答えるだろう・・・


「裕人君のお母さんって、肉食女子なの?」

「女子じゃないけど、、僕に弟や妹が出来ないのが不思議なくらい父にベタ惚れだよ」


「倦怠期で仮面夫婦が多いって聞くけど、素敵なご両親ね、凄く憧れるわ」

憧れるって言うけど、性欲が強い両親から生まれた僕は本当のエッチに目覚めてない。

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