第93話 勉強合宿前の里帰り。
「裕人は受験勉強で忙しいから、お盆にお爺ちゃん
毎年の年始とお盆は、僕が中学生に成ってからは父母と三人で日帰り帰省していた。
「え、日帰りでしょ、今年も行くつもりだけど」
それが当たり前のように答えた僕に、
「天野さんのお宅で勉強合宿するって聞いたわよ」
「どういう事、誰に聞いたの?」
・・・この日の午後、槇原ベーカリーを訪れてバゲットを購入した
話が見えて無い僕は昨日の事を思い出して、
と同時に固定電話が鳴り、母が受話器を取った。
「天野さん、いま話したけど、うん裕人と代わるね」
母に代わって電話に出る僕へ、
「お久しぶり裕人君、最近は家に来てくれないね」
嘗て、サヤカさんのママは僕が幼稚園時代の初恋の人、10年経った今も年齢を感じさせない美魔女と言っても過言でない。
「は、はい、バスケが急がしてくれ御無沙汰してました」
「そうね、サヤカから聞いているわ、所で裕人君がサヤカと勉強合宿でお留守番してくれるのは本当なの?」
それに付いては『聞いてないよ~』と答えたかったが、電話口の向こうから、
「ママ、恥かしいから止めてよ~」
ママを制止するサヤカさんの声が聞こえてた。
娘のサヤカさんに電話を譲らないエミリさんの説明では・・・
東京本社へ単身赴任中のパパがアメリカの商社と共同事業の責任者に成り、八月旧盆の連休中に本社とロサンゼルスで
しかし、学業優先でモデル休業のサヤカは所属事務所が有る東京へ行く事と、芸能レポーターが大挙して取材するロスの空港へ片道八時間以上のジェット機に乗りたくない、から一人でお留守番すると強情を言い出した。
娘を心配する両親へ『裕人君と勉強合宿する』条件で留守番を認めさせた、らしい・・・
「裕人君にサヤカの事をお願いしても良いかな?」
僕の中では両親の帰省で祖父母に挨拶する予定だったが、エミリさんが話し終えたとサヤカさんは気付き電話に代わった。
「裕人君、お願いよ」
「でも、毎年お正月とお盆はお爺さんとお婆さんの顔を見に行くから」
少しの間を置いてから、
「私もお爺さんとお婆さんに挨拶したい、一緒に行って好いでしょ?」
「ママぁ、裕人君が良いって、私も一緒に里帰りするから」
おいおい、里帰りって言うけど僕の両親の実家だよ、その様子を見ていた僕の母は、
「まあ、サヤカちゃんも私とお父さんの両親に会ってくれるの?きっと喜ぶわよ」
いやいや母さん、そうじゃないでしょう・・・
父さんは黙って頷いた、それも違うよ、何か言って僕の味方に成って・・・
そんな経緯から八月旧の入り盆、日曜の十三日に父の郷で昼食に
年末年始とお盆に連休を取る槇原ベーカリー、父の運転で仕事用のRVで
帰省と言っても片道一時間も掛からない近距離、定年まで数年の
「お嬢さん、始めまして、遠慮なくどうぞ」
祖母の招きに
「お爺さん、お婆さん、始めまして、裕人さんの友達で天野サヤカと申します」
「裕人にガールフレンドが出来たのか、俺も嬉しいけど、あれ、天野サヤカさんって、テレビの「松子の部屋』に出ていた人か?」
顔を見て気付かない祖父が氏名を聞いて、モデル休養の天野サヤカと気付いた。
それに続いて祖母も、
「あれよねナントカ保水液のCMの、嫌だわ思い出せないなんて歳の所為よね」
加齢を理由に自嘲する祖母へ
「お婆様、お歳の所為なんて有りません、私だって忘れ物は多いです、これほんの気持ちです、お納めください」
手荷物の紙袋から経口保水液の『命助カルシウム』を二箱取り出して、祖父母の前に差し出した。
「あ、これよ、熱中症予防と骨粗症予防の『命助かーる』よね、頂いて善いの?」
「勿論ですよ、喉が渇く前に一口飲む習慣で、裕人さんのお爺様とお婆様には長生きして欲しいです」
女優の台詞と思う僕と違い、テレビのCMで見ていた美少女モデル本人からプレゼントされて祖父も笑顔を見せた。
手配された寿司が届き、祖父母と僕の家族三人に
「所でサヤカちゃんは裕人とどんなお付き合いしているの?」
祖母は単純な疑問から天野さんへ尋ねた。
「私は裕人さんと将来を誓った積りですが・・・こんな不束者ですが、末永く宜しくお願いします」
突然三つ指を付いて祖父母に挨拶する
「え~、それは本当なの?」
母の問いに頷くサヤカ、それ見た祖父は、
「こりゃメデタイ、祝杯を上げよう」
舞い上がる祖父も父と同じで一滴も飲めない下戸のはず、
「曾孫の顔はいつ見せて貰えるの?」
明らかに祖母もテンパっている。
「違うよ、天野さんは女優の勉強をしているから、これは台詞だよ」
僕から懸命な言い訳に祖父母と両親も落ち着いて、
「朝ドラでも見たお嫁入りシーンでお芝居の台詞ね」
お騒がせな
「今度は一人で良いから遊びに来てね」
僕達家族と見送られた。
次に訪れる母の実家に到着すると、それまで猫を被っていた母は座敷の畳に寝転び、
「あ~実家は落ち着くわ~」
父の実家では両親に気使い、自分の実家では遠慮なく寛いでいる。
「始めまして、裕人さんの友達で天野サヤカと申します、これをどうぞ」
母の実家では三つ指を付く事も無く、普通に『命助カルシウム』お土産で差し出して、
「お婆様、私がお手伝い出来る事は有りませんか?」
「お客さんは何もしなくて良いのよ、それにしても自分の娘ながら恥かしいったらないわ」
「そうよ、私の実家だからサヤカちゃんもゴロゴロしなさい」
母の誘いに、
「それじゃ、私もお付き合いします」
素直な嫁役を演じる天野さん母はの横に寝そべリ、それを見る祖母も、
「じゃぁ、私もゴロゴロしようね、お爺さん、夕食の準備は頼みましたよ」
祖母と母にサヤカを含めた女性三人は畳みの上で雑談を始めた。
結局の所、母方の祖父と僕の父がカセットコンロの用意から焼き肉とキノコ類、焼き野菜の準備で忙しく働いた。それを見ている僕も当たり前のように手伝った。
毎年訪ねる母の実家は女性上位だと思う、食事が始まると祖父母に混じって母もビールで『グビグビ』と喉を鳴らす。
下戸の父と中学生の僕はそれを冷ややかに見て、母の機嫌を損ねないよう気を使った。
「裕人君、私は大丈夫だから」
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