第89話 経口補水液。

「そう言う事ですか、ところで天野サヤカさんも一緒かな?」

天野サヤカちゃんはCMのお仕事で来れないって、あ、槇原マッキーはテレビを見ないからあのCMを知らないのね」


CMの無い放送局で録画した朝ドラと大河、何が面白いのか分からない『ブラモリタ』を欠かさず視聴しているが、天野サヤカさんのCMをかれも答え様が無い。


「そうね、こんな感じよ」

松下エミさんはCMモデルの天野サヤカさんを真似て、

「お爺さんのトマト、お日様に匂いがして凄く美味しい、けど無理しないでね、サヤカは心配だからこれを送るから飲んでね、の後に経口保水液『命助いのちたすカルシウム』って最後に商品名が流れるテレビCMよ」


最初の風邪薬は『パパ、これで早く治してね』、次のノンカフェイン・エネジードリンクは『お兄ちゃんお姉ちゃん、これを飲んで受験勉強ガンバッテ』から、今回のCMは『野菜を作る祖父の熱中症予防』バージョンみたいな。


それにしても『命助いのちたすカルシウム』とは凄いネーミングセンスと思うし、高齢者向けならソーダやフルーツ味じゃない何味なにあじなんだろう・・・


そんな僕の表情を読み取る松下エミさんは、

「熱中症予防と骨粗しょう症の高齢者に人気のカルシウム入り抹茶味まっちゃあじだったよ」

松下エミさんは飲んだの?」


「うん、天野サヤカちゃんに貰って試飲した、ほろ苦く甘くなくて美味しかったよ」

それなら僕が飲むノンカフェインのミネラル麦茶で充分だろう、


「そのCMが人気で、次は『お盆の帰省バージョン』を撮影するから、サヤカちゃんは一緒に来てない」


一気に多くの情報を得た僕は昼食時間ランチタイムが近いのを忘れていた。


槇原マッキー、午後の試合に勝てばベスト4でしょ、みんなでスタンドから応援してる」

二千人以上収容できる観客席に十六校の中学関係者が居た午前の試合に、灰原中の生徒が駆けつけていたのか、試合に集中していた僕は気づかなかった。


着替えに使うバックヤードか通路で午前の試合に勝ち残った八校が適度に離れて車座でランチを取る。

アリーナの外で松下エミさんと談笑した僕は遅れて仲間と合流した。


槇原マッキー、普段よりトイレタイムが長かったな」

いつもの冗談で、僕が遅れた理由を不要と受け取り、橋本ハッシーに感謝する。



「午前の試合に灰原中の応援が来ていたって知っていた?」

橋本以外のメンバーにも聞こえるように言うと、

「そうだな、男子より女子生徒が多かったし、他校の可愛い女子も見つけた」


そう答えるメンバーは試合に集中して出場したが、二分のインターバルとハーフタイムに大きな観客席から灰原中の制服を見つけたと言う。


遅れた僕はチームメンバーに混じりランチする、その時間を使って女子マネの吉田さんは、自称『戦略ノート』を開いて、


「次戦の相手は県東部の焼き物の町から来た陶東トウトウ中学、私たち灰原中と同じ快足の4番と5番のガードがポイント、他のスターターも俊足だから、瞬発力勝負に不安な槇原マッキーと鈍足の後藤ゴッチを外す」


対戦相手の特徴から自軍のスターターを変更して、

「開始のジャンプボールは誰が?」

槇原マッキーより高さで劣るけど林田リンダが飛んで、二人の代わりに二年の白川と千葉が出て相手の4番と5番を徹底的にマークしなさい」


時期部長と期待される二年の白川に納得するが、『僕って可愛いでしょう?』と笑えない冗談を平気で言う千葉は足も速く、ディフェンス能力が高い。

本人に悪気は無いが、マッチアップの相手にニコニコと笑顔を見せる、それを余裕の千葉から馬鹿にされたと受け取る相手は不愉快な気分で、不用意なファールを重ねる。


相手の快足を封じ込め、ファールを引き出してプレーの質を落とさせる千葉には適役だと思う、そして吉田さんの指示も的確だった。


2Qと3Q間のハーフタイムまでに陶東とうとう中学の4番と5番はそれぞれ三つのファールでベンチに座った。

*バスケでは一人で五回ファールすると退場になる、ファール三回でプレーが消極的になるからコーチに交代させられる。*


快足の主力選手を失った陶東中は控えが出る、仕事を終えた白川と千葉はベンチに下がり、灰原中は高身長の僕と後藤ゴッチでゴール下を支配する。


81対56のスコアで試合終了のピリオド、全て吉田さんのシナリオ通りに快勝した。


勿論 観客席の灰原中応援団も歓声をあげて祝福してくれる。


灰原中バスケ部と応援団が今夜は松下リゾート・神山ホテルの宿泊と夕食バイキングに期待した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る