第88話 出世払い。
県内から勝ち上がった十六校が神山ビッグアリーナに集合して、三十分弱の開会式から第一試合が始まる。
A、Bのバスケットコート二面が取れる体育館、その二階は一回のフロアを囲むような観客席は二千人以上が収容できて、第一試合の中学を応援する生徒と家族が待機している。
午前中の第一試合から第四試合の八試合でベスト8が決まり、昼休みの
僕達の灰原中は第二試合のAコートで、無敗の白ユニフォームを着て初戦を迎える。
1Q8分、インターバル2分、2Q8分、ハーフタイム10分、3Q8分、インターバル2分、4Q8分が公式戦の試合時間で、第一試合のハーフタイムに第二試合のチームが練習と調子の確認で身体を動かす。
二時間以上のバス移動と標高700㍍の環境に慣れようと自分の体調を整える。
「なんかさぁ、思っていたより涼しくないよな」
僕の疑問に
「夏だし気の所為だよ、俺たちの地元より多少は気温が低いんじゃないか?」
気持ちの問題だと言うが、
「神山市は盆地だから、夏は暑くて冬は寒い、小学生でも知っているよ」
下級生から女将さんと揶揄される女子マネリーダーの
コートに立つプレーヤーは試合中に味方のベンチ前を通る時に、絶好調で元気モリモリなら左手でジャンケンのパーを、まあまあ疲れたらチョキを、交代したいときはガス欠のグーでサインを出す。
勿論対戦チームとの兼ね合いもあるが、早めにベンチメンバーと交代さてくれる。
女将さんというより『同級の女性監督』と信頼している。
そして今日の初戦に対しては、
「初戦の勝利は大前提だけど、次戦を考えて得意技は見せないから
正に名監督ですね・・・
「ハイ!」
スターターの五人は声を揃えて
「
僕達が乗ってきた観光バスと同じデザインのバスが計三台駐車場に停まっていた。
「さぁ?何処かの中学が偶然に同じバスを利用したんじゃないの?」
今の僕には感心のない事で、
第二試合開始のジャンプボールで僕はマッチアップする選手の身長、主に肩の位置と腕の長さを目測で予想して、審判が上げたボールが最高点から落下してくるギリギリで勝てる様に半分の脚力で飛んだ。
いつの様に右手で左サイドにポジションを取る
その瞬間に逆サイドの
10秒足らずで先制点と試合の主導権を取った。
勿論そこはインサイドプレーヤーの
少しだけ中学バスケの説明を、ゲーム中に
狙ったわけでは無いが過去には
順調に勝利した僕達灰原中は、午後からの第二試合も無敵の白ユニフォームを着用するらしい、吉田さんは他の女子マネに、
「水洗いで善いから、近場のコインランドリーで乾かして、
テキパキと指示する凛々しい姿は申し訳ないが『老舗旅館の女将さん』だよ・・・
ゲームジャージとパンツを奪い取られた僕達は、着替えのチームTシャツと上下バスケ部のジャージを着て、昼食前にビッグアリーナ付近を散歩した。
「
年上に見える可愛い女性が僕に声を掛けるが、なぜ名前を呼ぶのか、
緩くウエーブしたショートヘアが明るい栗色、目元の明るいメイクも赤いリップが似合う、朝ドラの夏ちゃん女優を思わせる丸顔に心当りは無い。
「どなたですか?」
「私よ、
え、エミさんなの、って言うよりここは100㎞以上離れた神山市だよ、答えが見つけられない僕へ、
「
廃業したラブホをビジネスホテルに転用したとは聞いたが、今の状況とは繋がらない。
「あのさ、バスのデザインに『matushita リゾート』を見て気が付かないの?」
「まさか、お父さんの会社のバスなの?」
再製ホテルを全国展開する『松下リゾート』が
「そうよ、都市の駅から各地の『パラソニックホテル』に無料送迎のバスを借り出したの、
「え、え、え」
としか言葉が出てこない僕は、橋本が言っていた『同じバスが三台』を思い出して、
「同じバスの二台は?」
「あれね、男子バスケのファンクラブを乗せてきたのよ、次の試合に勝てば同じホテルで宿泊だけど、迷惑だった?」
混乱する思考を整理して、別の疑問を思い出して、
「
僕達男子バスケ部と同様に、毎回初戦敗退の女子バスケ部も最後の公式戦に臨む。
一試合でも勝ちたい女子バスケ部からアドバイスが欲しいと僕達に願った。
今からでは時間が無いから、攻撃力アップより守って勝つ守備力の向上を提案した。
チームの高さが足りないなら低く構えるディフェンスで、楽にシュートを打たせない、相手の隙を見てパスカットやルーズボールを確実に拾う、それにはフットワークが大切で快足の橋本と内田の指導が実を結んで、初戦で初勝利したが二回戦で敗退したという。
「市大会の二回戦で負けたけど、男子には感謝しているわ、その代わりじゃないけどパパに無理を言って送迎バスと宿をサポートして貰った」
「あの、パパに無理って、何を」
「そうね、パパに『私のボーイフレンドが県大会に出る』って言ったら、インテリアデザイナーのママが興味を示して『エミの彼を見たい』流れから、話に乗らないパパには、もしかして『将来のお婿さんかも』って言ったら、いつもは冷静なパパが慌てるから面白くて」
「僕は御両親に挨拶するの?」
「ううん、パパとママは隠れて試合を見ていたから大丈夫よ」
「前より
「そうよ、
こんなに成るとは想定外過ぎるが、試合後の興奮から醒めない僕は悪い気がしない。
「男子バスケ部のファンクラブまで支援してくれるなんて、僕に出来るお礼は?」
「そうね、もし
冗談でもバスケ部OB会の主催と松下リゾートのCM契約を期待されて、NBAへのモチベーションと0,01%の可能性が0,02%に微増した。
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