第86話 中学最後の公式戦。

日本には四季が有り、快適な春と秋、寒い冬は体を動かせば暖かくなる、暑い夏は熱中症対策で麦茶かスポーツドリンクを飲む。

しかし春から夏の前にある梅雨に、僕は湿度を嫌う『紙のメンタル』と自虐する。


六月中旬に『今年は例年より三日早く梅雨入りしたと思われます』と宣言が出された。

一ヶ月後の七月夏休みより一週間先に中学最後の公式市大会が始まり、シード校指定の灰原中学は二回戦から出場する。


バスケットボールの試合で一度にプレイできるのは五人に合わせて、ベンチの控えメンバーは十人の狭き門。

いつもは『スターターとベンチメンバーは練習態度と実力主義で選抜する』と言う顧問が、中学最後の公式戦に三年生全員の十三人を出場登録メンバーに入れ、残りの二人を二年生の主力部員を入れた。


僕が入学した二年前の四月、僕をバスケ部に誘った先輩は居たが、小学生のミニバスケ経験者は僕一人で、部活紹介で『初心者歓迎、バスケ部に入ると背が伸びるよ』を信じた一年生は二週間の体験仮入部で半分に減った。


正直に言えば小四からバスケ経験が有った僕は『下手な初心者ばかり』と同級生を見下していた。

例外として親友の橋本ハッシーや中学から一緒に成った内田ウッチーは、元々の運動神経に優れて足も速く、次第にバスケの技術は上達して先発スターターのポジションを勝ち取った。


部長の橋本ハッシーと女子マネ吉田サユリさんの提案からバスケ部のファンクラブが出来て、見学の女子生徒にアピールする男子部員の技術向上スキルアップから、主力メンバーとサブメンバーの技術差は小さくなり、チーム全体の底上げに成った・・・

その理由はそれだけでは無いと僕は後から知った。


夏休みに入る一週間前の土日に、中学バスケ市大会の一回戦が始まり、半数のバスケ部が敗退して、勝ち上がったバスケ部にシード指定の4校が頂点を目指す。


前回の市大会優勝から県大会に進出し、三回戦敗退から練習試合では負けてない

灰原中学のバスケ部は勝ち試合で勇気と自信を付けた。


*バスケットボールの公式試合に参加する中学生チームは、基本的に白と濃色のユニフォームを着用して、灰原中学はその名から黒に近い濃灰色ダークグレーを使用していた。


他校から濃灰色のユニフォームは強豪校に見えたらしいが、白ユニフォームの方が勝率は高く、全回前々回の敗戦はどちらも濃灰色ダークグレーを着用した試合だった。


七月、海の日が過ぎて夏休み最初の週末、僕達灰原中学男子バスケ部は市大会の二回戦から出場した。


市民体育館に集合した灰原中学のバスケ部を応援する制服姿の女子生徒、自信にみなぎる出場登録メンバーの十五人は誰もが晴々とした顔を見せている。


「ようし、派手に一発ぶちかましてヤレ!」

僕たちに気合を入れる顧問の激励に、

「先生、教育者がコンプライアンス的にその発言は問題が有ります」

橋本の指摘に顧問の先生は、

「そうだな、これは気持ちの問題だから、発言を訂正させてもらう」

の言い訳に、この時点でメンバー全員がニヤニヤ笑い、


それを確認した橋本ハッシーは、

「今日は濃灰色ダークグレーを着ているが、俺たちは強い、絶対に負けない、ど派手にぶちかまそう」


気合の掛け声に続いて、キャプテン橋本ハッシーから、

「灰原中、ファイト!」

「灰原中ファイト!オ~」

試合開始前の練習時間に十五人全員で円陣から雄叫びを上げた。


前回優勝の強豪校から声出しに相手のバスケ部は気後れしたのか、試合開始のセンターサークルでジャンプボールを飛んだ僕は右手で左側の内田へボールを落とし、快速コンビの橋本とパス交換から速攻で先取点をゲットした。


それからの灰原中は順調に得点を重ねて、更に厳しいディフェンスで相手チームに試合の主導権を渡す事なく、ベンチメンバー全員が交代出場して83対21で試合終了のブザーを聞いた。


勢いに乗った優勝候補の灰原中学は他校のバスケ部から注目と対策されるが、午後からの三回戦と翌日の四回戦、準決勝から決勝まで一気に勝利した。


ファンクラブの女子生徒へ、整列したメンバーは応援に感謝で頭を下げる、そして女子生徒の右手首に巻かれたグレーのハンカチに、あれは僕達を応援する灰原中のチームカラーと知った。


僕たち世代の灰原中学は県大会優勝に手が届くと確信した。

市大会優勝から一週間後、夏休みの七月末、地区別に分かれて県大会が始まった。


二日間で行われる一回戦と二回戦を勝ち上がり、その数日後に県内ベスト十六の中学バスケ部が、県北部の神山市総合体育館に集合した。


初日午前の試合でベスト8が決まり、午後からの試合で勝利した中学がベスト4へ進出、二日目の第一試合でAコートとBコートの勝利中学で、三十分のインターバル後に優勝戦が始まる。


NBA選手になる夢に繋がると緊張する僕、他のチームメンバーは想い出作りの旅行気分で浮かれていたが、それよりも別の理由は有った。

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