第85話 親友に報告と実験。
日曜の午後に一週間後の抜糸予定と痛止めを処方されて退院した。
メーカーサポートが終了してツイッターやラインなどSNSを使えないタブレットで、
確かに火事場の馬鹿力は存在し、あの時の僕は色が消えて音も聞こえなく周りがスローで動く体験も記されて、それは身体能力を最大限に発揮できるアドレナリンの分泌らしい。
絶体絶命で死を意識すると人生の記憶が『走馬灯』のように回るらしいが、僕には見えなかった。
瞬間的にパワーを出す武道や陸上競技では、大きな声を出す事でアドレナリンの分泌をコントロール出来ると大学教授のホームページを読んだ。
◇
翌日の月曜はバスケ部の朝練へ家を出た。
軽いフットワークから
「
僕の後から橋本が調子を訊いてきた。
「まぁ、大丈夫だろう、それより誰から聞いた?」
「え、女子マネの
「そうか、その他は?」
高齢者ドライバーがペダルの踏み間違えて、五歳の真衣ちゃんを救った事まで知っているのか、別に知られても構わないが、
「あ、そうだ、
「それは誰から?」
「ええっと、
「それを聞いた橋本は誰に喋った?」
「チームには
中途半端に知識が有る
「まさか五歳の幼女が僕の彼女なんて信じてないよな、
「そうだな、今の
吉田さん経由で天野さんから
「・・・話題を変えよう、
「ゾーンって、超能力的な?」
僕は事故で車を飛び越えた時に視覚から色が消え、聴覚を失い周りの動きがスローになった体験を伝えて、絶体絶命な火事場の馬鹿力とアドレナリンをコントロール出来るらしい、までを話した。
「それって死を覚悟すると走馬灯が回るって、やつか?」
「僕に走馬灯は見えなかったけど、同列の現象かもしれない」
「もしもだな、
確かにその可能性は有るが、色と音の無い世界がゆっくり動き、より高く飛べるなんて一般常識では理解できない。
「親友が殺されて『コクウ』はスーパーヤサイ人に成れたぞ」
それは僕と
「再現実験なんて無理だよな、
「どうやって
少し考えて、親友の命を守る為に走るメロスを思い出して、
「
「俺は170cmだ」
「僕に嘘は付くなよ、
「う、本当は168cmだ、これは信じてくれ」
長年の友としてそこは許容しよう。
「
「親友の為だ、俺は槇原を信じるから、ダンクシュートを真下から見せてくれ」
顧問が来る前の朝練で親友の了解も取った、息子の頭に乗せた林檎を射抜く、ウィリアムテルみたいな命がけの実験に成るかもしれない。
失敗は許されないと思うだけで絶体絶命感が僕を包む、武道で発する気合の様に『オリャア~』と叫び、バスケットボールを両手で掴み、あの事故を思い出しながら
僕に音と色も消えないしスローモーションにも成らない、これは失敗だ。
右足で踏み切った僕の左足が
「おい、
僕の気合と
その中から二年の白川が、
「日頃の恨みを晴らす
他人の目からはそう見えたのだろう、そう思う僕と違って
「おい、白川、何で
「それは
「『親しき仲にも礼儀あり』って言うが、俺と白川は親しくないからな!」
そう言う
◇
翌日の朝練、二年の白川は額に大きな傷テープを張って体育館に登場した。
「どうした白川、転んで怪我したのか?」
「え、美人の彼女が出来ないかって、
馬鹿な発想を笑いそうに成る僕は皮肉を込めて、
「
冗談半分で
「はい、自分はリアルに中二ですよ」
それって白川は真面目に答えているのか、怖いと言う僕を小馬鹿にしているのか。
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