第81話 出場時間ゼロの練習試合。


前期中間テストも終わった六月の中旬、梅雨入り前の青い空に白い雲。

冬の学生服から涼しい白シャツと黒ズボンの夏服に衣替えして半月が経つ。


三十代後半の父が中学生の頃に土日休みの週休二日制に成った。その『ゆとり教育』の反動で、今は月に二度の隔週土曜日に半日授業の為に登校する。


今日は午前の授業だけ、いつもの半分の教科書とノートを入れた学校指定のリュックを背負い、母が用意したお弁当と練習着をサブバッグに詰めた。


登校時は制服を着て部活後の帰りはTシャツとハーフパンツ、時にはジャージを着用する。


学校給食が無い土曜は弁当持ちで午後からの練習試合に他校の男子バスケ部が来校する。


前回の市大会優勝から県大会に出場した僕たち灰原中学バスケ部はシード校に指定されて、他校から練習試合の依頼が増えたと顧問が自慢げに言う。


若い頃は痩せていて足の速い選手だったと言うが、その面影は微塵も無い肥満の中年教師。

体は動かないが、昔につちかった経験と戦略がいまも生きている、らしい・・・


その顧問が公式戦前の練習試合では手の内を隠す為に、本来のスターターを入れ替えてベストメンバーを出さない。

正式なユニフォームでない練習用のビブスを着用し、バスケでキャプテンを意味する4番を副部長の内田ウッチーが着ける。


他校のバスケ部が到着する前に一年生はバスケ・コートのモップ掛けからスコアボードとベンチを並べて、二年生は練習で使わせて貰えない新しい公式球を用意する。


僕たち三年生は、それを見ながらフットワークから準備運動アップで身体を温める。


「今日の試合で橋本はフェイダウェイと、槇原はフックシュートを見せるな」

まだダンクシュートは出来ないが、手の長い僕が得意な片手で相手ディフェンスをガードして、反対の手を伸ばしたフックシュートは左右のどちらでも打てる自信が有る。


「派手なダンクでも地味なレイアップでも得点は二点」

そう言う顧問の先生は、司令塔の橋本を温存すると同じく、僕の代わりに重量級の後藤ゴッチを守備的センターに入れた。


それ以外は二年生エースの白川とか、試合の流れを見ながら選手交代して試合を進める。



バスケ部ファンクラブの女生徒達は練習試合を観戦し、ファールで得たフリースローや地味レイアップシュートでも、灰原中学が得点するたびに拍手で応援する。


そんな女子達から注目されたいキャプテンは、

「先生、俺たちの出番は無い未だですか」

そう尋ねる橋本に顧問の先生は、

「お前と槇原は灰原中の秘密兵器だから未だだ」


その秘密兵器とは、野球で言うところのリリーフエースか、代打の切り札なら試合終盤に出場できるのか?

実力差の大きい練習試合で僕と橋本ハッシーの出場時間はゼロで終わった。


顧問が言う秘密兵器の僕と橋本ハッシーは最後まで秘密のまま温存された。


バスケ部ファンの前で得意の3ポイントシュートどこか、出番がなかった橋本は、

「こんなんなら槇原マッキーと誰か女子を誘って遊びに行けば良かったな」

退屈な練習試合に愚痴と本音が溢れる、おいおい女子マネの吉田さんに聞こえるぞ、僕の不安を橋本は気付かない。


いつもの土曜なら午後一時から五時まで体育館を使用して練習するが、今日は他校を迎えた練習試合で午後三時過ぎにゲストを見送り、っ全員でバスケコートをモップ掛けして解散となった。


いつもは練習で疲れた体をクールダウンしながら帰るが、今日は準備運動アップしてから練習試合に出てない、当然少しの汗も掻いてない。


「まったく不毛な一日だったな、それより話は変わるけど槇原マッキー、昔はキリンみたいに背が高くて手足が細かったのに、今は腕とか足の筋肉が太くなったな」


僕なりに自己流の筋トレで、橋本の目にも身体の変化を感じると言われた。

「秘密の特訓をしているからだよ、よく気づいたな橋本ハッシー


槇原マッキーが特訓か、それより俺んでゲームしないか、やっぱり家に帰って昼寝か?」

小学生の頃から付き合いの有る橋本ハッシーは、僕の趣味が昼寝だと知っている。


「ゲームは遠慮するけど、今日は運動不足だから5㎞くらい走ってから帰るよ、橋本ハッシーも一緒に走らないか」

「誰にも見られてないのに走る意味がないから俺は遠慮する」


橋本ハッシーには即決でランニングの誘いを断られたが、少しばかり疲労したほうが心地よい昼寝が出来る、走るなら中島公園の外周路を思い浮かべて逆の方向へ帰る橋本ハッシーと別れた。





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