第79話 中間テストと禁断の恋。

五月末の修学旅行が終わると、二学期制の灰原はいばら中学では前期中間テスト前、一週間の部活動停止期間が始まる。


以前は週に水曜土曜の二日が奈央ねえさんの学習指導を受けていたが、3年目の看護師は外来や夜勤のシフト勤務も増えて、二週間に一日の指導も珍しくなかった。


フリーメール以外のSNSが一切使えない僕のタブレットに奈央ねえさんから着信が有り、

<もう直ぐ前期の中間テストでしょ、部活が休みなら私に合わせてくれるよね>

に僕から、

<ハイ、宜しくお願いします>

と返信した。


過去に何度か奈央ねえさんから性教育を含めて教わったが、元彼氏の排泄物で健康チェックしたいの切っ掛けで別れたと聞かされてから、男女の関係を避けてきた。


そして約束の日、約束した時間に奈央さんが借りているマンションを訪ねた。


「いらっしゃい、裕人君、夕御飯は食べたの?未だと思ってカレーを用意したわ」

お腹がふくれると頭が回らなくなる僕は、

「学習指導の後で頂きます」

食べないではなく、終わってから食べますと伝えて、リビングテーブルに座った。


高校受験用の過去問題集を開いて、奈央ねえさんが指摘する重要な問題を中心に解き始める。

中学三年は新しく習った分野と、一年と二年の復讐も含めたテスト形式らしく、基礎に戻った学習の復習も重要と知った。


ひと通りテキストを解き終えた僕へ奈央ねえさんは、

「先月に神戸大阪京都へ修学旅行に行ったらしいね」


きっと奈央ねえさんが高校時代の親友と言うコケシちゃんこと、小池しおり先生の情報だろう、『そうです』とうなづく僕へ、


「初めて引率する修学旅行のお土産を持ってきた詩織しおりが、大阪で迷った時に背の高い男子に助けられたて、普通は生徒に助けて貰うなんて恥かしいでしょう、それを嬉しそうに笑うのよ、まさかと思うけど裕人君じゃないよね」


あの一件をかれても『誰にも言いません』と約束した僕は、

「僕じゃない別の男子じゃないですか?」

「そうよね、私もそう思うけど、私が知る限り高校時代は小柄で男子から人気が有った詩織しおりは自分から告白できなくて恋愛経験が無いから、優しくされた男性に惚れやすい性格なの、裕人君とは違う生徒だと思うけど気を付けてね」


奈央ねえさんと同い年のシオリちゃんは二十五歳で恋愛未経験なのか、あの小学生体型から想定内と思うが、世の中には黄色い帽子を被りランドセルを背負う貧乳少女が好きなロリコンの男性が多いと聞く、


「僕は成熟した大人の女性がタイプですから、奈央ねえさんは御心配なく」

「裕人君、それって私を誘っているの?」


こういう事も有り得ると、僕は自宅で自慰処理してきた。

「今は大丈夫です、奈央ねえさん、それよりカレーライスを頂きたいです」


正直に答える僕へ、

「カレーライスに負けたみたいで悔しい、他に裕人君が食べたいのは私でしょ?」


「そうですね、甘酢ラッキョと福神漬もお願いします」

真面目に答えた僕へ、

「少し会わないうちに意地悪な男に成ったのね、まあ善いわ、そこまで言うならカレーライスをお替りしなさいね」

「勿論です」


奈央ねえさんの部屋でカレーライスのお替りから合計四皿を完食して、満腹で眠い眼を擦り自転車で帰宅した。


『惚れやすい性格の詩織には気を付けなさい』って、僕はどう対応すれば良いのだろう。


それから部活動停止を含めた十日間のテスト期間が終わり、久しぶりの体育館に入る僕へ橋本ハッシーは、

「なあ槇原マッキー、コケシちゃんて小柄な貧乳も幼い顔が可愛いよな、ロリコンと言われても俺のタイプだな」


交際している吉田サユリさんとは真逆なタイプのコケシちゃん、橋本ハッシーのストライクゾーンは広いと思う僕は、

「そうかな、僕はプリティやキュートと違う小さいスモールの可愛いなら理解できるが」

橋本の気持ちとは違うと意見した。


翌日からの橋本ハッシーは声が小さい担任のコケシちゃんを応援するように『静かにして先生の話を聞けよ』と級友クラスメイトに注意する。


それはクラス委員の立場から言うのだろうが、『詩織は優しくされると惚れやすい性格だから気を付けて』と奈央さんに助言アドバスされていた僕は、親友の橋本ハッシーと教師のコケシちゃんで『禁断の恋』は有りか無しか・・・


そして後日談、

小さくて可愛い担任のコケシちゃん、声が小さいから級友クラスメイトは集中して聞き耳を立てて、腕力が無いから重い物は男子生徒が運び、コケシちゃんの手が届かない高い所も生徒が代わって手伝い。


そのたびに、

「有難う、役に立たない先生でゴメンね」

今にも泣きそうな顔で生徒に礼を言う。


「あ〜コケシちゃん、可愛くてキュンキュンしちゃう」

女子に有りがちな『あざとい』より母性を感じるらしい。


橋本以外の男子も、

「コケシちゃんを見ている心配で、っておけない」

「小さくて、あんな妹が居たら楽しいよな」

それはか弱い女性を守らなければの庇護欲ひごよくじゃ無いのか。


生徒と教師の禁断の恋は僕の杞憂きゆうだった。


ただ一つ、生徒から親切にされるコケシちゃんは不安な顔で、

「どうして皆んな優しいの、私が半人前の先生だから?」

く、少しは自覚が有るみたいだが、その低身長と幼児体型に小学生と間違われる童顔からと気づいてない。


こんな場面ではお調子者だがコミュ力の高い橋本ハッシーが、

「コケシちゃんそれは違うよ、コケシちゃんは三年四組のアイドルなんだ、女子はコケシちゃんを応援するファンで、男子はコケシちゃんを守る親衛隊だよ」


物は言いようだと思うが、言われたコケシちゃんは満面の笑顔から涙を流して、

「わだじもびんながずぎだよ」

〈私も皆んなが好きだよ〉と言っているらしい。


橋本のアイドル発言に殆どの生徒は『アイドルは言い過ぎだろ』からの『ゆるキャラでしょ』『リスかハムスターの齧歯目げっしもくだよ』そして最後に『コケシちゃんは四組のペット』に落ち着いた。


まぁ、周りから可愛がられているには違い無いと思う。


少し先の話をするが、翌年の卒業式では、初めて担任を受け持ったコケシちゃんは、いつもしない化粧と女子大生が着る羽織り袴姿で、四組の生徒氏名を読み上げた。


初めて見るコケシちゃんの姿に他のクラスから『可愛い』と歓声が上がるが、四組の生徒は、

「まるで七五三だよな」

最後までコケシちゃんは妹かペット的な存在だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る