第78話 あの部屋には戻れない。
修学旅行二日目、僕が眠るツインルームに、
「用事は済んだでしょ天野さん、先生に見つかる前に戻らないと」
「ここから追い出されても部屋には戻れないよ」
「どうして?」
「だって、いま吉田さんと橋本君が何をしていると思う?」
そうだよな、恋人の二人は愛の行為に励んでいると想像するのが普通だな。
「
「満足したら橋本君が呼びに来てくれるから、それまで居る」
そんな取り決めとは、僕は驚きながらも成る程と感心する。
「それなら仕方ないね、じゃあ隣のベッドで休んだら?」
「嫌よ、裕人君と一緒が良い」
胸やお尻以外でも女子の体は柔らかく、僕の肩や肘関節に天野さんの柔らかい指が触れるだけで、そこに意識が全集中する。
「ねぇ、裕人君、ベッドの横で丸めた紙を拾ったけど、これってトイレットペーパーじゃないの?」
それは少し前に僕から抜いた体液を包んだペーパーで、その時に処理なかったことを悔やんだ。
「僕は花粉症かな、明日の朝に捨てるからゴミ箱に入れて」
「その鼻水を拭いたのね、でもこれ塩素臭いけど、あ、私が来る前にオナったね」
天野さんは来た最初から僕が処理したペーパに気付いていたのだろう、自慰を指摘され、精神的にマウントを取られた僕は、
「うふふ、こうして裕人君と一緒に眠れるなんて楽しいな」
イヤイヤ、狭いシングルベッドの中で
人の嗅覚は数分で匂いに慣れてくる、そして僕の背中に密着する女子の存在も気に成らなくなり、ゆっくりと寝落ちしていく。
◇
人はレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返すらしいが、やっと深い眠りについた僕の顔面に激痛が走った。
その痛みで目を覚まして理由を考えると、スヤスヤ眠る
なんて寝相の悪い女子なんだ、これは罪の意識が無いなら仕方無いと再び目を閉じた。
それからどれ位の時間が経ったのだろう、天野さんへ背中を向けて眠る僕の
天野さんが寝返りを打った際にその足が膝蹴りで僕の
二度三度の寝返りで、その度に攻撃された僕は予想通り朝まで熟睡できなかった。
結局の所、
そこし遅れて来た
「
「私はもう良いって言うのに、
「まあ、それは羨ましいですね」
天野さんは本気でそう思うのか、それと単なる
そんな
「サヤカちゃんは眠くないの?」
自分達と同じ様な夜を過ごしたと想像する質問に、
「ショートスリーパーの私は4時間くらい熟睡できれば大丈夫なの」
そう言ってケラケラ笑う
いつもより食欲が無い僕は、バイキングタイプの朝食を強制的に胃から脳へ栄養を送り込み、きっと良く無いと思う自分の顔色を誤魔化した。
今日は大阪から京都へバス移動、その後に幾つかの神社仏閣の拝観から帰路に向う。
約一時間半のバス移動で仮眠して寝不足を補う積りの僕へ、引率教師の小池先生が、
「槇原君、今朝は顔色が良くないね、私が昨日迷惑を掛けた
コケシちゃん、それは違うから、僕に声を掛けないで京都まで眠らせてよ。
「平気です、少しだけ静かにお願いします」
僕の返事を邪魔者扱いと受け取ったのか、コケシちゃんは僕の気持ちを悟ったらしい・・・
その後の京都では記憶に残らない社会見学から新幹線で地元へ戻り、中学のグランドで解散した。
後日談・・・
「裕人君、大阪のホテルだけど、橋本君と吉田さんは朝までトランプで『神経衰弱』をしてたらしいよ、もう
なんて馬鹿馬鹿しい話だ、バカップルめ・・・
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