第77話 ねぇ、もう寝たの。

橋本が部屋を出てから小一時間、二泊三日の修学旅行に僕は有る事を心配していた。

快食快眠快便、それと同じくらい重要な快精かいせい自慰オナニーが毎日のルーティン

これは性欲の解消でなく、睡眠中の夢精予防に就寝前の自慰と、体育の授業や不意の刺激で男子の起立を防ぐ為に、朝の生理現象から一度は放出する。


修学旅行中に自慰が出来ない不安に橋本ハッシーが居ない、僕一人の今は好都合と自慰後の処理を考えて、水に溶けないティッシュでなくトイレに流せるペーパーを折りたたみ準備して一回抜き、翌朝に捨てようとベッド横の床に落とした。


これも個人差が有ると思うが、放精後は心地良い疲労感から眠くなるのは男子の心理。


そして背の高い僕が上を向いて寝ると、普通サイズの掛け布団から足先が出る、その所為せいで身体を丸めた横寝の癖が付いた。

その後に帰ってきた橋本へ背中を向け、顔は壁側を向いた僕の後ろからベッドを揺らす。

「今日は疲れた、眠いから悪ふざけは止めろよ、橋本ハッシー

それに返事は無いが、背中を向けて眼を閉じる僕のベッドに進入してきた。


女子部屋から戻った橋本から女性用の香水か、柔軟剤の様な甘い香りが僕の嗅覚を刺激した。

それと同時に背中を向けた僕の耳元へ、

「ねぇ裕人君、もう寝たの?」

その囁く様な女性は、聞き覚えのある声に驚いて飛び起きた。


「あ、天野サヤカさん、いったいどうしたの?」


「どうしたのって、私が吉田サユリさんと同室だから橋本君と鍵を交換してもらったの」

橋本が女子から誘われたのは彼女の吉田サユリさんからか、更に修学旅行中で開放的だとしても、天野サヤカさんの大胆な行動に驚いた。


「それで、何の用ですか?」

旅先の部屋で若い男女がスル事は一つ、それを期待しないとは言わないが、ホワイトデーの誓約書に署名捺印した僕は、


「もしも天野さんがアレの積りなら、今日じゃなくて、約束した18歳になってからが良いな」


僕が言うアレとは、女子からの夜這い、通い妻か逆レイプを含めて尋ねた。

「勘違いしないで、私が来た目的は今日の事を訊きたかったの」


天野さんが勿体付けいるとは思わないが、僕には心当たりがない。

「何を知りたいのか分からないよ」


「え〜私 『ウニバ』で裕人君と手を繋ぎたいって言ったのに、なんで小池先生と手を繋いでいたの?」


質問の主旨はそれか、元はコケシちゃんこと小池先生の迷子から不安で、見つけた僕に『はぐれない様に手を繋いでほしい』の願いを叶えただけ、

そして『この事は誰にも言わないで』を コケシちゃんと約束した。


更に僕がお世話になっている看護師の奈央ねえさんから『小池しおりは私の親友だから助けてあげて』と頼まれていた。


「特に意味は無いけど『修学旅行中に逸れたら、背が高くて目立つ僕を見つけて集まる』みたいな規則ルールが出来て」

ホームルームの冗談から笑われたシーンを利用させて貰う。


「そんなのあり得ないよ、裕人君」

こんな説明を疑うのは当然だよな・・・

「天野さんが嘘だと思うなら四組の女子に聞いてよ」


「分かったわよ、裕人君がそこまで言うなら信じるけど、教師と生徒の『禁断の恋』は止めてよ」

僕は自分の耳を疑った、


「ちょっと待って天野さん、小池先生が何で『コケシちゃん』か知っているの?」

「それは氏名の『小池しおり』を短縮してでしょう、裕人君」

本当の意味はそれじゃ無い。


「女性の容姿弄ようしいじりは良くないが、丸顔に小さい瞳とショートボブ、小柄な小学生体型から温泉土産の『コケシちゃん』なんだよ」


「それがコケシちゃんの理由でも、裕人君は年上の女性が好きでしょう、安心出来ないよ」

「大丈夫、僕は天野さんと将来を誓う書類にサインしたでしょ」


「そうなんだ、私は裕人君に勉強を教えてくれる奈央なおさんの親友が小池先生だからと想像してた」

え、僕から奈央ねえさんと小池先生が高校時代の同級生と話してないのに、どうして天野さんが二人の関係を知っているの。


僕の疑問が表情に出ていたのだろう、それに気づいた天野さんは、

「私、松下エミちゃんと仲良しだから、裕人君が奈央なおさんと松下エミちゃんとスイーツからカラオケに行ったって聞いたわよ」


僕の知らない女子友は口止めしないと、世間話で情報を交換するらしい。


天野サヤカさんは友達が多いね、これで用は済んだね」


「うん分かった、もう一つだけ教えて」

天野さんが言う教えてとは、なんだろう、期待より不安の方が大きい。


「質問です、自意識過剰かも知らないけど、私って普通の女子より可愛いでしょう?」

それは自意識過剰より大きな謙遜けんそんだよ、日本中の中三女子で天野さんが一番可愛い、僕は本心からそう思う。


「その通りだね」

天野さんに心を読まれない様に僕は言葉を濁した。


「それじゃぁ裕人君は何で私を求めないの?」

オレンジ色の間接照明で薄暗い部屋の中でも天野さんの頬が少しだけ赤い。


「キスは15歳、エッチは18歳に成ってから、僕と天野さんで決めたでしょ」


「だけど、前倒しでも良くない、理由が有るなら私を納得させてよ」

僕はNBA選手に成る、其れが一番の目標だが、愛する女性と幸せな家庭を築きたい、なんてとても恥ずかしくて言えない。


「メロンやフルーツには熟した食べ頃が有るでしょう、天野さんの食べ頃が18歳と思うから僕は我慢しているんだよ」

女性の身体を果物に例えるのは失礼と思うが、他には思いつかなかった僕へ、


「裕人君のエッチ変態、私の事を『完熟なマンゴー』なんて卑猥ひわいよ」

そのトロピカルフルーツは放送禁止用語に似ているが意味は違う、そんな天然ボケの天野さんは頬から耳まで赤くしていた。

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