第75話 ニ泊三日の修学旅行。

五月下旬、水木金曜日の三日間で関西方面の修学学旅行へ。

お天気に恵まれるならさいわい、と迎えた当日の朝は快晴だった。


三年生六クラスの生徒が二百人以上、担任教師と教頭先生と数人の教師が引率する総勢二百四十人の旅行出発は、チャーターしたバスで最寄の新幹線駅へ。


二百四十人を一度に輸送できる鉄道の知識が無い僕は、鉄オタの男子から、

『1両の乗客定員は80~100人、シートの広いグリーン車は少なくて、2列3列の自由席車両は定員が多い、団体予約の車両は3列席が無いから、多分だけど灰原中学の修学旅行は3両の貸切だと思うよ』


本人にとって簡単な説明の積りだろうが、鉄道素人の僕には専門家の講義に聞こえる、配布された『旅のしおり』より難しい。


その『旅のしおり』には必要な持ち物とお小遣いの上限、校則で禁止されている化粧品にプラスして、ヘアドライヤーと携帯スマホの持ち込み禁止に女子生徒から、

「もしも人混みで迷子に成ったらどうするの?」

と正論のブーイングが出て、


その意見に担任の『コケシちゃん』は、

「見学の基本はクラス行動、最小の人数でもグループ行動だから一人で迷子に成らないし、もしも神戸で迷子に成ったら集合場所のポートタワーの下で槇原君が目印で立ているから大丈夫よ、大阪の『ウニバ』なら正門で回転する地球儀の前ね」


おいおい『コケシちゃん』僕は渋谷のハチ公か、名古屋のナナちゃんみたいな待ち合わせ場所のモニュメントかよ・・・

クラスメイトが笑う中で『旅のしおり』を読み進めた僕は驚きと同時に落胆した。


昨年まで続いていた『大阪市内の食べ歩き散策』が映画をテーマにしたシネマランドの『ウニバ』に変更されて、憧れていた『粉もんの聖地巡礼』が出来なくなった。

そんな修学旅行の初日は神戸異人館から・・・

明治時代に建てられたレンガの外壁と尖塔は、国の重要文化財とガイドさんの説明に、『はぁ~ランチは未だかな』と思い、次の中華街は匂いを嗅ぐことも無く素通り、旅行予算の関係からだろう団体旅行に有りがちな、一度に大人数を収容できるレストランでリーズナブルなお弁当タイム、からのポートランド見学の後に今日の宿へバスで向う。


その車中ではクラス委員、橋本ハッシーの権限で『気の合った同士の方が旅行を楽しめる』と班分はんわけされて、なぜか女子が好きな橋本は僕の隣に座る。

「なぁ槇原マッキー、神戸は女優かモデルみたいな美人が多い街だな、ひょっとして有名な音楽学校の女学生かな?」


学びを目的とした修学旅行で街を歩く美女に注目した橋本の目ざとさに、僕は呆れるより感心した。


そもそも僕と同じ班分けは橋本ハッシーの浮気防止で、彼女の『吉田サユリさんから指示された』と聞かされた。



歴史建造物の見学に飽きた一日の最後に期待する、好きな物を食べ放題の『ホテル・ディナー・バイキング』に僕の食欲はマックス状態で挑む。

和牛ステーキから名前の知らない中華料理、美しい景色の神戸は山と海が近くて肉も魚も美味しい、初日の旅行予算を全てここに使ったとしても納得できる。


僕がバスケにしか興味が無いと同じ様に、旅好きな男子から、

「このホテルは一度経営破綻して、某家電メーカー系列の不動産会社がリメイクした観光ホテルだよ、『パラソニック・ホテル』って聞いた事あるでしょ?」

確かに、母が見る韓国ドラマのCMで、なんとかリゾートのリフォームホテルだよな


「そうなんだ、知らなかったよ」

僕の返事に気を良くしたのか、その男子は、

「観光ホテル以外にも駅近の廃業したラブホをビジネスホテルに転用した『ナパホテル』も同じ不動産会社の経営なんだ」


その道のマニアと言うか、鉄オタの彼と同じような専門家の知識に驚いた。


今日お世話に成る宿は観光ホテルタイプで、この部屋は四人から六人が泊まれるサイズ、部屋の入り口近くにトイレと浴室が一体のユニットバスが有る、身体が大きな僕はもちろん大浴場を利用する積りだった、これは一年上の先輩から聞いた話だが『伝統の儀式』で脱皮したバスケ部男子は修学旅行先の大浴場で未開封の男子生徒から驚かれて、その後の『校内カーストの上位』に羨望される、らしい・・・


橋本ハッシーに誘われてホテルの大浴場へ向うが生徒240人の半数、120人の男子が全て大浴場を利用するには脱衣場から空いている。

橋本ハッシー、男子が少ないけど、どうしたのかな?」


「あれだよ槇原マッキー、未だラッキョ・タイプの男子は恥ずかしくて部屋付きの風呂に入っていると思う」

最近は銭湯を利用する子供も少なく、僕達が小学校の修学旅行では水着着用の入浴も可能だったと思い出した。


それでも未開封の男子生徒に混じって大浴場の湯船に浸かる僕と橋本ハッシーは、

槇原マッキーは脱皮していても体毛が薄いから大浴場は好きじゃないよな」

親友の橋本ハッシーよ、『親しき仲にも礼儀有れ』だろ、僕が気にしている事を他の男子が居る前で言うなよ・・・


僕の気持ちに気付いた橋本は、

「体毛が薄いと逆に槇原マッキーのチ〇コがAV俳優みたいに大きく見えるよな、こうして『大の字』になって湯船にかっても、いや大の又に点が有るから『太の字』、より真ん中の棒が伸びて『木の字』だな、あっはっは~」


それはフォローになってない、受けようとギャグの積りなのか、周りから見たらバカ話だろうな、それでも耳を大きくして聞き入る男子が僕と橋本ハッシーの視線に気付いて眼を逸らした。


風呂から上がり脱衣場で髪を乾かす僕へ、全裸の橋本ハッシーが、

「大きな態度で威張っている野球部の星野が未だかぶっていた、俺と目が合ってから逃げるように出て行った」


橋本ハッシー、それは性格が悪いぞ」

「まあまあ、でもあれだな、俺たちに儀式をしてくれた先輩に感謝だな」


確かに僕も橋本ハッシーが言うとおりだと思う。

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