第71話 中学生は子供か大人か。
僕が中学生に成ってから母は、
『裕人も中学生に成ったら大人ね』と言った数日後に『子供が生意気を言うんじゃないの』と身体的成長から大人と精神的経済的に子供扱いをする。
それは分かっているが僕が思う『大人』ってなんだろう、それを知りたくて『大人の条件』を満たして入ると思う学校の先生に『大人ってなんですか?』と質問した。
先生を親しみを込めて愛称で呼ぶ灰原中学の生徒達、それに違和感を感じる僕は『親しき仲にも礼儀あり』の思いで『〇〇先生』と呼ぶ。
今回、登場する教師は生徒から『ナベちゃん』と呼ばれる理科の
両親の実家から独立して、妻と子供の家族を養う渡辺先生は僕が思う『大人の条件』を満たしている。
二限と三限の間、十分休憩時間に職員室の渡辺先生を訪ねて,
「ちょっと善いですか?」
「槇原君、どうした、授業で分からなかった質問かな?」
「そうじゃ無くて」
理系が得意な僕は自分が思う『大人の条件』を質問した。
僕の疑問を理解した渡辺先生は、
「確かに僕は槇原君が思う経済的に独立した大人の条件を満たしているが、聞きたいのはそこかな?」
「それもですが精神的に大人の、上手く言えないけど、そう、大人の自覚を持ったのはいつでした?」
「教職に就いて経済的に安定した生活と、愛する妻子が居ても大人の条件を満たした自覚は無いなぁ」
大人の渡辺先生は僕が思うより『大人の条件』が多いと言う。
「先生、例えば何ですか?」
「僕の場合なら、仕事は勿論だが子供の成長を見届けて、妻と笑顔の絶えない明るい家庭を続ける、そしていつかは来る両親の見送りまでが大人の義務と思う」
「それってずっと先の事ですね」
「将来を考えると遠く思えるけど、過去を振り返るとあっという間だよ、僕が君と同じ中学生の記憶は昨日の様に感じている、逆に僕から訊きたいが、槇原君は子供かな?」
質問に来た僕へ質問返しされるとは 驚いた、それでも真剣に考えて、
「自分の力で生きていけない僕は子供だから両親には感謝してます」
「それが槇原君の自覚だよ、感謝を言葉にしてご両親に伝えるのも親孝行だね」
渡辺先生の正論に頷くしかない僕は、
「分かっていますが、いざ両親の前だと、その思いが言えなくて」
「その言葉を僕に教えてよ、槇原君」
休憩時間の職員室で周りの先生から視線を感じる僕は、
「え〜っとぉ、僕の誕生日に母へ『産んでくれてありがとう』父には『育ててくれてありがとう』と言える様になりたいです」
自分で言って恥ずかしい、顔が熱くてきっと赤面していると思う。
・・・数秒くらい沈黙した渡辺先生は口を開き、
「僕の子供からその言葉を言われたら嬉しくて泣いちゃうな」
それが子を持つ親の気持ちなのか、と同時に別の疑問が、
「あの〜、先生の子供はいくつですか?」
「今年の七月で一歳だけど、それが何?」
「一歳で『産んでくれてありがとう』って話せるの?」
「今は『あ〜』と『う〜』しか言えないな」
真面目な渡辺先生の天然ボケを我慢する僕へ、他の先生からの笑い声が聞こえた。
「あれ?何か変なことを言ったのかな」
「渡辺先生が面白い事なんて言ってません」
僕が顔を引きつらせながら否定する頃に3時間目の始業チャイムが鳴り出した。
「先生、有難うございました、失礼します」
「槇原、廊下を走るなよ」
男性教諭の言葉を背中に受けて、自分の教室へダッシュした。
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