第70話 三年のクラス担任は。

僕が通う灰原はいばら中学には個性的な先生が居て、その中でも『岩鉄ガンテツ』こと体育教師の岩田鉄男いわたてつおさんは生活指導と柔道部顧問を務める。

当時、学級崩壊で荒れていた灰原中学に校長と同時期に赴任して数年、推定年齢三十代後半の岩鉄先生が、僕と橋本ハッシーが居る三年四組のクラス担任になった。

灰原中学に入学した男子生徒は、体育授業では岩鉄先生から最初に柔道の受身を習う。

板張りの体育館に運動用のマットを敷き、男女別の体育授業の開始。


尻餅を付いて後ろに転んだ時は、直ぐに手を付かずコロンと背中まで転がり、そのタイミングで両手をパンとマットを叩く、一番大事なのは目線はお腹のヘソを見る事で後頭部を強打しない。

つまずいて前に転んだら、最初に付いた片腕へ反対の手を通して肩から背中で前転して、横寝した形で片手でマットを叩く、つまり衝撃を分散して身体を怪我から守る。

柔道部の経験者も新入学四月の体育は柔道の受身だけを習った。

「これはお前達にもしもの時に役に立つから、命を守ってくれる体術の一部だ」


あれから二年が経ち、灰原中学で運動会や体育の授業、普段の学校生活で転倒から大きな怪我をする生徒は殆ど居なかった。


生活態度に問題が無い僕と岩鉄先生の関係は良好で、唯一つだけ松下エミさんの紹介からユミ先生のカットモデルで髪を切った翌月曜の朝に、

「おい槇原は髪を切ったのか、俺が若い頃に流行っていたバッカム・ヘアだな、頭の後だけ赤いな、どうした?」

親子ほど世代が違う僕にソフトモヒカンをバッカムと言われても知らないが、そんな尋問に近い挨拶をされた僕は、


「知り合いの美容師さんに頼まれてカットモデルになって、そのついでに洗えば落ちるヘアカラーの残りだと思います、後頭部は自分で見えないです」

有りのままを正直に話し、岩鉄先生の反応を待った。


「そうか、シャンプーした色残りなら仕方無いな」

「はい、徐々に地毛の黒に戻ると思います」

日頃の生活態度に問題のない僕は指導室に呼ばれる事はなかった。


新学期が始まり、授業間の休憩タイムに橋本ハッシーから、

槇原マッキー吉田サユリさんか親友のアレをかれなかったか?」

それは橋本ハッシーに止められて、僕が『弱い者いじめ』で犯罪者に成らなかった事に、

「勿論言わないし、自分の黒歴史を言えない」

かれたけど俺は言わなかったし、槇原マッキーは親友だから約束する」

あの日暴走した僕の『正義の味方』を忘れたい記憶だが、いましめとして心に刻んだが、

「あの時の扉に悪戯した男子って誰だった?」

「え、槇原マッキーは憶えたないのか?今は『勝ちゃん』と呼ばれている金髪ヤンキーの勝村だよ」


そうか、始業式の日に僕へ絡んできた茶髪ヤンキーを止めて『槇原は俺の友達』とか言った金髪ヤンキーがあの勝村か・・・


槇原マッキー、話は変わるが、初々しい制服の一年に可愛い女子が居るよな?」

小学生時代の橋本は運動会のクラス対抗リレーで活躍して、更に生徒会では会長を務めて年下の女子にも人気が有ったが、今は女子マネの吉田サユリさんと交際している。


「それを吉田サユリさんが聞いたら嫉妬しないか?」

親友として僕の忠告を、

「1年の女子と付き合うわけじゃないし、可愛いと思うだけなら浮気じゃないだろ」

それが橋本ハッシーの持論だと思うが、彼女とトラブルの原因にも成りえる。


橋本ハッシーがそう思うなら構わないけど、でも考えてみろよ、先月まで黄色い帽子を被ってランドセルを背負った小学生だぞ、そんな一年女子を異性として見るのはどうなんだ?」

槇原マッキーは俺がロリコンって言うのか?そう言う槇原マッキーは年上の熟女好きだろ」


休み時間でどっちもどっちの会話、進級のクラス替えで吉田サユリさんと天野サヤカさんの居ない三年四組に、僕と橋本ハッシーは少し安心している。

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