第68話 親友の理由。

バスケ部に体験参加する男子一年生の30人に部長の橋本から、

「初めは基礎練習が中心だけど、次からは試合形式のミニゲームを体験してもらいます」


普段のチャラい橋本でなく、体験後の真面目な挨拶に僕達3年生は笑いを必死に耐えた。


「練習後は全員で体育館のモップ掛けとボールも綺麗にして」

橋本に続いて、女子マネの吉田さんから指示された一年生は、2年3年の先輩に掃除道具の倉庫と方法を訊いてくるが、橋本と僕には誰も寄ってこない。


そんな光景を見た吉田さんが、

「部長の橋本ハッシー槇原マッキーの見た目に、一年生は近寄り難いオーラを感じているんじゃない」

と言われても自分では気が付かない。


掃除を終えた一年生へ吉田さんをふくめて、2年3年の女子マネから紙コップのスポーツドリンクを渡され、

「初めての経験に喉が渇いたでしょう、これも舐めて」

クエン酸で疲労回復を期待できる、ハチミツレモン風のキャンディを一年生だけに配る。



スポーツドリンクなど公式戦以外で飲んだ事は一度も無かった僕らはレモンキャンディも初めて見た。


後から聞いた話だと、新入部員が多い部活動にはより多くの予算が頂けるらしい。

『飴とムチ』作戦よりも『飴とポカルスエット』だと思う。


男子バスケ部の女子マネ、吉田サユリさんはキャプテンの橋本ハッシーと交際を始めて半年が経つ。


その切っ掛けに成るのは、お互いの思いを相談された僕のアドバイスに男子の橋本ハッシーから告白した。



槇原マッキーには感謝しているけど、面と向かってお礼は恥ずかしくて言えなかった」

歌劇団の男役に似ている凜とした吉田さんから、感謝の言葉を聞いて驚きと緊張感に包まれる。

そんな場をなごませようと

「いつも調子の善い橋本ハッシーだけど、僕の親友だから仲良くしてね、吉田さん」


冗談混じりの言葉に吉田さんは真顔で、

「前から聞こうと思っていたけど、槇原マッキーはいつから橋本ハッシーと親友なの?私は灰原小の卒業生じゃないから知らないよ」

そう、吉田さんは近隣の城山しろやま小卒業で灰原中学に入学してきたから、当然僕と橋本の小学生時代を知らなくても不思議じゃない。


「僕からは話せない、どうしても知りたいなら直接橋本にいて」

あの事件は僕が話す事じゃないし、吉田さんが橋本の彼女なら彼氏から聞いてほしいと断った。


橋本ハッシーには何度も訊いたけど『槇原マッキーと男の約束』だから言えないって」

それは僕にとって小学生時代の黒歴史くろれきしであり、橋本にはある意味で武勇伝ぶゆうでんに成った。



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