第64話 偽の姉と妹。
三月の最終週から四月初旬までの春休み、僕が忘れていたお花見に
<桜が舞う春の風と
と地元掲示板の広報ポスターに
からくり人形の
人ごみが苦手な僕でも咲く誇る桜に誘われて、顔には出さないが心が躍る。
「
「それも有るけど、私は裕人お兄ちゃんと花見をしたかったのよ」
そうか、僕は兄役で
お花見は『花も団子も』の言葉通り川沿いの歩道に何件もの屋台も出て、リンゴ飴や綿あめの甘い香りに、醤油やソースの焦げる匂いは僕の食欲をそそる。
周りを歩く桜祭り見物客より食べ歩きの屋台に関心が集まる僕へ、
「あれ、裕人君じゃない、人混みが苦手なのに桜祭りってどうしたの?」
背が高い僕に隠れるような
初詣で僕と一緒の
「始めまして、裕人お兄ちゃんの妹の
それは
「あら、初めて聞くけど裕人君に妹が居たの?私は裕人君の姉よ、だから
え、え、え、
僕の心配を
「女優さんみたいに綺麗なお姉さんが出来て嬉しいです」
元々は人付き合いの苦手な僕と違って、社交的で誰にも笑顔を見せる
「私も
それがお世辞なのか、社交辞令なのか、判断できない僕を無視して、
「私となにか食べに行かない?」
「はい、実はこの後に裕人お兄ちゃんを『春のスイーツ&フルーツフェア』へ無理矢理でも誘う予定でした。
甘味が苦手な僕がスイーツ&フルーツフェアなんて、『
春のスイーツって和菓子の『桜餅』しか思い浮かばないし、春のフルーツって『苺』しかないでしょう?
案内されたテーブル席に着き、高さが30cmを越えるジャンボス・トロベリーパフェをオーダーする女性二人を横目で見て、
「僕は常温の
カフェンを避ける僕はコーヒーや紅茶も飲まないし、いつもは水と麦茶と牛乳から選ぶから、スイーツ&フルーツフェアでの選択肢は
そしてご他聞に漏れず、女性スタッフがテーブルに置いたジャンボパフェをインスタ栄えの撮影してからスプーンで口に運ぶ。
「裕人君も私のストロベリーパフェを
悪気は無いと思うが
それは甘味が苦手な僕に取って罰ゲームと思う。
パフェの苺と生クリームも溶けてしまえば殆どが水分と思うが、小柄な女性二人は30cmを越えるジャンボパフェを完食した。
「これから二人はどうするの?」
とりあえず桜と春祭りの件は終わったと思う僕は解放を願い、さり気なく尋ねた。
「そうね、特に予定は無いけど、ゆっくり
「そうね、私もお姉さんと同じ事を考えていたわ」
そうさ、二人でおしゃべりを楽しんでくれれば好都合と僕は、
「それじゃ、これで僕は帰るね」
「え・・・」
絶句する
「何を言っているの、裕人君が居ないと姉妹が成立しないでしょう?」
「そうよ、あ、そうだ、三人でカラオケに行きましょう?」
絵美さんの提案に僕から、
「歌は苦手だよ」
無茶振りに無駄な抵抗をしてみるが、
「お話が目的だから、裕人君が嫌なら歌わなくて善いよ」
嫌なら歌わなくて善いよと言った
「私は『ニーシャ』が紅白で歌ったアレにする。絵美ちゃんは?」
「私も『みょんあい』が紅白で歌った『僕はロックなんて聞かない』にします」
なんだよ、二人とも歌うき満々じゃないか・・・
「裕人君は何にする?」
「え、僕は恥かしいから遠慮するよ」
「大丈夫、カラオケに来た人は歌いたいばかりで、他人の歌なんて誰も聞いてないよ」
確かにそうだよな、それならと
「桜にしようかな?」
「どの桜?」
「男性が歌う20年くらい昔の桜だよ」
「裕人君が産まれる前の『桜』って?」
「母さんの鼻歌で知ったんだ」
そう、僕が小さい頃の母さんは鼻歌で『スピッシ』や『松多聖子』をよく歌っていた。
令和の時代に平成の歌を、そして昭和アイドルの『白いスイートピー』を歌う羽目に成った。
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