第62話 どうする、ホワイトデー。
僕の通う灰原中学で三月七日の午前に卒業式が行われ上級生が旅立つ、そして三月九日に県立高校の合格発表から、卒業した中学で入学案内の資料を受け取る。
そこまでの行事が終了して在校生の改装した体育館の部活使用が許される。
コーティングされた床板にバッシュのグリップが良く、ダッシュが苦手な僕も素早く動けると勘違いしそうだった。
*補足*
20年前の父が高校時代に愛用したマシックス社のバッシュ『ポイントゲッター』はゴム底の硬化で使用できなかった。
体育館で再開したバスケ部の終了後にキャプテンの
「なぁ
バレンタインデーに彼女の
「まぁね、でも
バレンタインデーに女子からチョコレートを受け取った男子は、バレンタインデーの四週間後に訪れるホワイトデーのお返しに必ず守らなければならないルールらしい。
「
橋本が貰ったチョコが義理か本命か分からないが、中学生には三千円の出費は痛いだろうなと、お返しを用意してない僕は笑えない。
「
「いや、
まさか市販のチョコに惚れ薬などの混入は無いだろう、とは言え小学時代の
男子バスケ部の隣コートで女子バスケ部の練習も終わり、体育館の床掃除から戸締り後に職員室へ鍵を戻す女子バスキャプテンの
周りに他の生徒が居ないと確認して、あの日から
「えっと、あれから二十八日くらい
「うん、愚痴を聞いてくれるお裕人お兄ちゃんのお陰で、逆にイライラするのが待ち遠しいみたい、今の私は心身ともにリア充よ、色々有難うね
「それなら良かった、僕も安心するよ」
女心が分からない僕でも
「あ、そうだ、春休みになったらお花見に行こうよ」
お花見って梅が終わって桃か桜か、その場所は何処なんだろうかな。
「うん、お花見ね、花より団子の僕だけど」
「
醤油が香るイカ焼と焼きそばの焦げるソースを思うと、今からお花見に期待する。
とは言え、相談できる人の居ない僕は、
玄関から
「裕人君はカフェインの紅茶もコーヒーも飲まないよね」
そう、僕はノンカフェインの麦茶か水、自宅では牛乳を選ぶが、
「僕はお水で良いから、それより
「え、何を訊くの?」
その流れから『ホワイトデーのプレゼントは何が良いの?』と単刀直入に質問したが、
「お返しなんて要らない、裕人君の気持ちだけで好いわ」
天野さんが言う『気持ちだけ』って、バレンタインデーに貰ったノンカフェインのチョコレートに対する感謝の気持ちかな、
「そう言う事なら、バレンタインのチョコレートを有難う」
「う~ん、そうじゃないけど」
感謝の言葉に違うと言う
「じゃあ、僕はなんて言えばいいの?」
僕はこの場の空気を読めないのか、理解が難しい天野さんの女心なのか、
少しの無言から、
「ねえ、裕人君は私を好きなの?嫌いなの?はっきり白黒つけてよ」
え、それは・・・
「モデルの私にスキャンダルを心配する裕人君を知っているから、本当の気持ちを教えて」
僕は天野さん本人には言ってないが、
「そうだよ、僕は天野さんが好きだよ」
これは交際を求める告白じゃないと思う僕の本音に、
「好きだよの『だよ』は要らない、裕人君の口から『好き』『愛している』を聞きたい」
それに拘るのも女心か、気持ちだけで良いと言うなら僕はそれに従おう。
「サヤカさんが好き、愛している」
「有難う、でも『さん』も要らない、『サヤカ』って呼び捨てにして」
彼女でない女子を呼び捨てにするなんて、令和の男子中学生にはハードルが高いと言うか、恥かしすぎて顔が熱くなるが、
「サ・サ・サヤカが好き、これで勘弁してくれる?」
「ふふふ、良く言えました。そうねもう少し上手く言えるともっと嬉しいな、ちょと待って」
ホワイトデーのお返しは気持ちだけで好いと言った
少し待った僕へ、白いレポート用紙に数行の文章を書き、それを差し出して、
「裕人君の好きを文字に残したのよ、これを声に出して読んでね」
<僕、槇原裕人は天野サヤカを
の文章を目で追い、そのまま声に出した。
この状況は告白と言うより
「はい、読み終えて私に返す前に、一番下に署名と捺印して、判子が無いなら
後から思えば、このとき混乱した僕は正気でなかったと思う。
「これは契約書なの?」
「違うよ裕人君、愛の意思を確認よ、私も署名するね」
そう言いながら
<わたし天野サヤカは槇原裕人を一生愛する
に署名と捺印してから、僕に聞こえるよう声に出して宣言した。
「
「裕人君が何人か特定の女子と仲が善いって知っている」
「それを誰かに聞いたの?」
「ううん、その女子が裕人君を見る視線で察した」
それも女性の勘なのか、弁解の余地も無いとはこの事だろう・・・。
それでも全て諦めた訳じゃない僕は、
「でも将来的にNBA選手を目指す僕がどうなるか分からないよ」
「そうね、未来の事なんて誰にも分からないね、でも私は大丈夫よ」
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