第61話 何もしないから。

「何もしないから安心して泊まって、約束するわ」

それは『エッチをしない』と受取った僕はエミさんの言葉を信じて、過去のストーカー被害を経験した松下エミさんのボディーガードで、この家に泊まる事にした。


とは言え『大きなお風呂に心が惹かれてない』と言えば嘘に成る。


「エミさん、大きなお風呂ってどれ位?」

「う~ん、私が小さい頃はパパとママと三人で入れたわよ」


「え、今でもパパとママって呼ぶの?」

「ち、違うわよ、今は父と母よ、もう槇原マッキーの意地悪」

両親をエミさんは『パパママ』、僕の家では『お父さんお母さん』、どんな呼び方をするのか、其々の家庭で違っても不思議じゃないが、エミさんは頬を赤くして文句を言う。


「一度見れば槇原マッキーも納得できるわ、こっちよ付いて来て」

二階に有るエミさんの部屋から階段を下りて長い廊下を歩き、脱衣洗面場から大きなガラス窓から日本庭園が見渡せる浴室へ案内されて、一度に四人が浸れる桧の浴槽を見て、子供の頃に宿泊した旅館の貸切り家族風呂を思い出した。


「本当に広い家風呂うちぶろだね、エミさん」

「私にとってはこれが当たり前だけど、自動お湯張りで二十分掛かるから、それまで部屋でお話しましょう」


お風呂お風呂、旅館の様な広いお風呂、この時点で僕の不安は無くなり、興味はお風呂の一点に成っていた。

エミさんの部屋に戻り、柔らかいラグに座りエミさんと会話を再開した。


「何度も訊くけど槇原マッキー天野サヤカさんと付き合ってないのね?」

「うん、ガールフレンドの一人だけど、特別な彼女じゃない」


「じゃあ、お正月の初詣で見た大人の着物美人は彼女じゃなくて家庭教師なの?」

「うん、そうだね」


「じゃぁ、私とのニセ恋を延長してよ、時々会って愚痴や不満を聞いてくれるだけで良いの」

「話を聞くだけの時々って、どれ位?」


「そうよ二十八日周期、生理前に体調と感情が不安定に成って、槇原マッキーに癒してほしい」


「どうして僕に?」

他人ひとに他言しない槇原マッキーは誰よりもくちが固いでしょ」


「ちょっと気が重いな」

「私のお願いは無理なんだ、話題を変えるけど家庭教師の女性を名前で呼ぶの?」

それは奈央ねえさんの個人情報で『佐藤奈央』の実名から、同級生の『佐藤愛奈』さんの姉とバレル心配も有って、僕なりに誤魔化そうと、


「ねえさんと呼んでいる」

「え、そこは先生じゃないの?」

あ、しまった・・・口が滑った。

「ねえさんは僕を弟のように思うから、ねえさんと呼んでいるのが変かな?」

・・・   ・・・  ・・・  ・・・


不気味な沈黙が流れ、先に口を開いたのは松下エミさんからで、

「じゃぁ、私は槇原マッキーの妹に成る、ねぇ好いでしょ裕人ひろとお兄ちゃん」


姉妹きょうだいの居ない僕は、同じ家で暮らす兄弟姉妹に羨ましさとコンプレックスを感じていた。

厳しい中に優しい癒しの奈央ねえさんも嬉しいが、学年一美少女のエミさんが妹なら悪戯されてもしかれないだろうな・・・


自分では分からないが、僕は目尻を下げてニヤニヤ顔をエミさんに見せたらしい、

「そのニヤケ顔は暗黙の了解ね、学校では妹の素振りを見せないから安心して好いよ」

「エッチをしないプラトニックな義妹に限って、そこだけを約束して」


「ウン、勿論、でも裕人お兄ちゃんがその気に成ったら遠慮しないで好いよ」

学校内では匂わせない条件で、一月に一度、松下エミさんに溜まった不満と愚痴を僕が聞いてストレスを解消させる、誰にも言わない僕だけが出来る役目と無理矢理納得して引き受けた。


それでも一人っ子の僕にニセでも姉と妹が出来た、誰にも紹介は出来ないが悪くない気分だな・・・


お湯張りの二十分が過ぎて、掛け湯から一人で広い浴槽に手足を伸ばした。

カットモデルで美容師のユミ先生から言われた『洗えば落ちるアズキ色のヘアカラー』を思い出して湯舟から出て、備え付けの女性用シャンプーで髪を洗い、お湯で流すと僕の頭から赤い泡が流れていく。


髪色が戻ったと一安心して、もう一度桧風呂に身体を沈めて目を閉じる僕の耳に、

「お兄ちゃんと一緒に入ろう~」


旅番組で女優の入浴シーンみたいに、白いバスタオルを身体に巻いたエミさんが浴室に侵入して、掛け湯から湯船に入るが、

テレビの入浴シーンはタオルの下に水着のはずでも、濡れた白いタオルではエミさんの白い素肌が透けて見える。


「ちょっと、いくら仲の良い兄妹でも中学生では混浴しないでしょ」

「そんなの分からないでしょう?他所よそ他所よそうちうちよ」


人前で良い子を演じるエミさんは元々S気質に加えて、妹と言う小悪魔の免罪符を手に入れて、偽兄の僕を全力でからかう心算つもりなんだろうか・・・

「プラトニックを約束したのに困るよ」


「ぇ、何を困るの、ヤダぁ妹の裸でアソコを大きくして、お兄ちゃんの変態!」

エミさんより先に入浴した僕は逆上せたらしく、気を失いそうで生暖なまあたたかい鼻血が垂れた。


そこから身支度した記憶が怪しく、湯呂上がりのスポーツドリンクで回復するまでの情けない姿をエミに見られた。


部屋に戻り、『もっと話したい』と言うエミさんへ、

「今日は疲れたから、もう眠らせて」

カットモデルやエミさんのウインドウショッピングに付き合い、通常の生活にない疲労を感じた僕はエミさんの部屋のリビングで床暖房に布団を敷いて目を閉じた。


一日三回食事を摂る様に自慰しないと夢精を心配する僕は、この日は朝一回抜いてからシテないが眠気に負けた。

枕が替わると眠れない、何て聞くが僕には無縁と思っていた、しかしエミ

部屋は女子の甘い匂いが漂い、変な夢を見るかもと思う。

変な夢を見る、僕の不安は的中した・・・

一度目を閉じたら朝になっている、夢を見るかもしれないが忘れている、それがいつもの僕だった、けど今日の夢はリアルな舞台、テレビのcmで見たのでなく、僕は竜宮城へ招かれて、鯛やヒラメの舞踊りが無くて、乙姫様から指が沈むくらい柔らかいクラゲとアワビやカキで持て成されている。


バケツの水を被ったりプールに落ちる夢は尿意のサインで、そこで起きないとオネショの危険がある、それと同じ様に僕は体の一部が変化していると目覚めた。


離れたベッドに寝ているはずのエミさんが僕の横でスヤスヤと寝息を立てている。

静かに起きて長い廊下からトイレへ向い、アソコが治まるまで過ごしてエミさんの部屋に戻る心算が広い屋敷に迷った。


「こっちよ、きっと迷うからトイレに行くなら私を起こしてよ」

「申し訳ないです」

添い寝された事を問い出せずに、そのまま床に入る僕へ、

「寝ているお兄ちゃんは私の胸を好き放題に揉んで、凄く大胆だったよ」

エミさんが言う意識の無い行為に反論できない僕は、

「寝てて憶えてないけど、勝手に触ってゴメン」

鏡で確認出来ないが、恥かしさで顔が火照った僕は赤面しているだろう。


「うふふ、うそピョン、気にしないでお兄ちゃん」

「・・・」

返事が出来ない僕へ、


「私が好きなタイプはくちとアソコがかたい男性よ、ここ笑う所よ」

僕をからかう小悪魔の妹はエミさん・・・




後日談的な・・・

約束どおり中学校でエミさんは妹の素振りを見せない、さらに僕と目線も合わせないシカト状態で生活しているが、ある日の昼休み時間に松下エミさんの友人、篠田ユミさんと清水アキさんから呼び止められて、

「ねえ槇原マッキー最近松下エミさんが前より綺麗に成ったと思わない?」


「え、そうなの、僕は分からないよ、本人に理由をいたら?」

「訊いたけど、微笑むだけで『知らない』って誤魔化すのよ」


篠田ユミさんと清水アキさんが言うには、今の松下エミさんは身体ともに『リア充』らしい・・・

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