第55話 敗北の悔しさから。

橋本の浮気騒動になったあのクリパが切欠で、男子バスケ部の何人が槇女のメンバーと交際を始めた。

彼氏の部活動を見学に来る槇女の彼女を羨ましく思う後輩たち、元々は地味で目立たない女子生徒も『槇女』に入れば、天野さやかの基礎美容で美肌に成り、身体からだは大きいが女性に優しい男子バスケ部の彼氏が出来る噂から、槇女へ入会希望者が増えて中学公認の部活申請も有るとか無いとか、片や男子バスケ部の中では槇女の彼女が居るイケメンでシャイな内田ウッチーを含む数名を、鬼嫁的な彼女の吉田さんに行動を管理されている橋本ハッシーは羨ましそうに見ていた。


そんな男女交際からバスケ部の活動と公式戦の結果を報告しよう。


小柄なPGガード橋本ハッシー内田ウッチー快足スピードスター、他校のCセンターより背が高く空中戦にけた僕の活躍と言わないが、新年中学バスケ市大会を圧倒的な力差で決勝まで勝ち上がった。


第4クオーターまで、三十二分の試合終了までに僕を含めた五人の先発スターター出場時間は十五分足らず、二年のサブメンバーと一年の来期主力候補の活躍も有って、決勝戦では80対19の大差で実力の違いを見せつけた。


翌週から始まる県大会の初戦も楽に勝利できた。

中学生の男子バスケ部員は勝つことで自信が付き、今まで苦しかった練習の成果を実感したが、ベスト8に勝ち上がれば対戦相手も県下有数の強豪校に、68対70で惜敗したが、僕達に取って勝利の嬉しさより負け試合の悔しさは遥かに大きい。

あれは3Pシュートが得意な内田へパスを出せば良かったとか、もっと積極的にドライブからシュートに行くのが最善だったのか、反省と後悔でタラレバを考えればキリが無い、試合に出場した誰もが勝てる試合を取り逃がしたと思う。


自分達には未だ未だ足りないものがある、チームワークも大事だがゾーンディフェンスを禁止された中学バスケでは、マンツーマンディフェンスのレベルアップには個々のフィジカル・パフォーマンスを上げる必要と思う。


P&Sガードの橋本ハッシー内田ウッチーにこれ以上のスピードアップを望めないし、試合後半に3Pシュートの精度が落ちるのは仕方ない。

今までは体重が増えると高く飛べない理由で、ハードな筋トレを避けていたが、橋本や内田の瞬発力に劣る僕は、下半身の筋力アップとプロバスケ選手の太い腕を目指して自己流なトレーニングを考えた。


円城寺商店街で岡野精米店を営む3代目、26歳の岡野 みのるさんは中学時代まで地元で有名なヤンキーだったらしい、精米店の先代の父親が円城寺商店主会に入会したばかりの若き父へ、息子の素行不良を相談して呼び出した息子へ、

「今の稔君は将来に何に成りたい?」

「大きなお世話だ、文句がるなら力づくでわからせろ!」

質問した父へ大きく啖呵たんかを切ったらしい。


当時26歳、190cm85kgバスケ経験者の父に15歳のヤンキー中学生は一捻ひとひねりで屈服された。

それからの稔さんは合格圏内の公立工業高校へ進学して、ドラマみたいな不良を更生させるラグビー部に身を置いて全国大会出場の目標を叶えた。


現在も170cmの身長に90kg、ラグビー体型の稔さんは、

「裕人、俺のようなマッチョに成りたいなら筋トレで鍛えてやるぞ」

中学生に成った僕の顔を見るたびに同じ事を言うが、首が短く鍛えた肩から直接に顔が生えているようなゴリラ・マッチョに憧れてないし、精米配達で鍛えられた体型と思う。

「バスケの為に肩周りと上腕を太くしたいです」

冗談半分で言った僕へ、

「じゃぁ、これをやる」

左右の手首足首に巻く1kgのマジックベルトと5kgのダンベルを持たされた。


5kg程度のダンベルなら苦も無く扱える僕は遠慮したが、

「これを持ってラジオ体操第一をしてみろ、結構 腕の筋肉に効くぞ」

先人の知恵と言うか暫く試してみようと思い、ウエイトベルトと5kgのダンベルを持ち帰った。

※円城寺商店街、精米店の岡野 みのるさん、最初で最後の登場で今後の機会は無いと思います※

両手両足に1kgのウエイトベルトを巻いて、5kgのダンベルを両手に自宅前の裏路地で、小学生の夏休みを思いだしてラジオ体操をしてみた。

ラジオ体操の曲は覚えているが、そのスピードに付いていけているのか自信が無い。


きっと買い物帰りだと思う町内のお婆さんが通りかかり、

「裕人君もラジオ体操をしているの?朝6時半の中島公園に集まってラジオ体操に参加しているよ」

その時間の生放送に顔見知り程度の人々が参加しているらしい。

明日は僕も中島公園のラジオ体操に参加してみようと予定した。


翌日六時に起床して、授業と朝練の準備を済まして公園ヘ向かい、ラジオ体操の開始時間を待ち、徐々に集まるシルバーさんに混じり両手にダンベルを持って体操した。

そして、両手両足に1kgのウエイトベルトを着けて登下校して、体育の授業は持久走が多く、ウエイトを外さずそのまま付けて、酸素の薄い高地トレーニングを真似て心肺機能を上げようと不織布のマスクも着けて1500mを走った。

こんな自己流のトレーニングに効果が有るのか、10試して9は無駄かもしれないから、チームメイトの誰にも個人トレーニングしていると知らせない。


同じ様に他のメンバーも新たな課題を持ち、半年先の夏休み前、三年生最後、全国中学大会県予選へ向けて春の到来を心待ちにした。


そして二月に入ると旧正月の節分と立春、海外では春節の民族大移動と爆買いがテレビで報道されていた。

定期テスト前、一週間の部活動停止から学年末試験が始まり、僕は奈央ねえさんに学習指導をお願いした。


奈央ねえさんの学習指導に慣れた僕へ、

「要領は得たみたいね裕人君、今日の性教育はどうする?」

勿論それは嬉しい言葉だけど、僕は最近の不安から医学的知識に訊ねた。


奈央ねえさん、男の成長期っていつまでですか?」

年が明けてからあれほど悩まされていた睡眠中の成長痛が無くなり、朝まで一度も起きなくて熟睡できたが、僕の成長期が終了したと思った。


「学生時代に学んだ成長期は女子は十歳から十四歳くらい、男子は十二歳から十五歳までが急激に育つ二次性長期と言われるけど、これも個人差が有るから女性は十八歳、男性は大学卒業の二十二歳まで成長する可能性を否定できないね」


「そうですか、これからは今までのペースで僕の身長は伸びないのですね」

「そうね、裕人君はもっと大きくなりたいけど、成長ホルモンの過剰分泌は末端肥大症や巨人症という病気で短命の人も多いのよ」

奈央さんの追加説明では、脳下垂体の前葉と視床下部から成長ホルモンが分泌されて、巨人症で有名な昭和の伝説的プロレスラー、200cm超えのジャイアントBBさんは顔の下半分が大きい巨人症の特徴が見られた。


「健康な日本人はどれ位の身長まで伸びるの?」

僕自身の可能性を含めて看護師の奈央ねえさんへ質問した。

メジャーで二刀流の日本人選手は190cmオーバーで、巨人症の特徴が無いから正常な成長と思うし、プロバスケットのBリーグにも身長2mの日本人選手は居るよね」


確かにバスケに限らず、男子バレーボール選手に2m以上の大きな日本人は居る。

ストイックと言われるのは好きじゃないが、精神的身体的に追い込む自己流のトレーニングを続けようと思う。


学年末テストも無事にクリアして、三年生の私学&公立高校受験と中学卒業式から高校合格発表が続く、その前には男女の誰もが緊張する二月十四日のバレンタイン・デーが訪れる。


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