第54話 親友の危機。

女子三人との新年会で松下エミさんから言われた『とうへんぼく』と『ぼくねんじん』をタブレットで調べてみたが、僕にはその意味が分からなかった。

翌日一月六日、冬期休暇中の男子バスケ部は午前中の体育館で練習する。


前日前々日と練習を休んだキャプテンの橋本ハッシーが新年初めて顔を見せたが、女子マネの吉田サユリさんは今日も顔を見せてない。


集合時間の九時前にフットワークの準備運動アップから身体を温めて、顧問の到着を待ってから、先発スターターベンチメンバーを混合シャッフルして、戦力を同等イーブンにした2チームで試合形式のミニゲームで汗を流す。


一月十五日から全国大会に続かないが、新年バスケ市大会に勝ち上がった中学の参加で県大会が始まる。

「スタメン以外、控えメンバーのパフォーマンスを底上げが必要、実力主義で一年生も積極的に使うからな」

主力メンバーの僕達にも顧問の指導に熱意が伝わるし、期待される一年生の練習振りにやる気が見られる。


後輩の一年生も技術的身体的に成長して、それぞれのポジションに合ったプレイスタイルも安定してきた。

一年生の時期キャプテン候補PGポイントガードの白川、SGシューティングガードの山本、SFスモールフォワードPFパワーフォワードは同じ体格の鈴木と加藤で未だ決まってない、更に僕と同じCセンターの竹田は体重が軽く、ゴール下のリバウンド・ポジション争いに弱い。


二年生の主力と控え選手、一年生から選抜された五人を含め登録された十五人が公式試合に出場できる。


正午まで三時間のバスケ部活が終わり、汗を搔いた体が冷えない様に練習用ビブスからTシャツに着替えて、フリースの上からバスケ用の上下ジャージを着る。


槇原マッキー、ちょっと善いかな?」

帰り支度の僕を橋本ハッシーが呼び止める。

「なんだ?」

「・・・」

空腹で早く帰りたい僕を呼び止めておきながら沈黙する橋本ハッシーは、


「あのさ、槇原マッキーにアリバイ証言を頼みたい、ダメか?」

年末にも有ったアリバイか、橋本ハッシーの頼みなら。僕は平然と嘘も吐いてやれる。


「誰にいつのアリバイ証言かな?」

「バスケ部の練習が終わる時間に吉田サユリさんが来るから、二十五日に俺が槇原マッキーと一緒だったと言って欲しい」


「二十五日って、クリパの翌日か?」

「そうだ、クリパでキスした男女がレド・ランドでグループデートしたんだ」

あ~、誘われた僕と山村ミウさんは遠慮したが、クリパの解散後にそんな事を言っていたなぁ、漠然ばくぜんと思い出したが、初詣で男女の関係に成った橋本ハッシーから吉田サユリさんへ、年末のアリバイを新年になってから頼むなよ。


橋本ハッシー、そのアリバイ工作を僕には無理だと思う」

「え、なんでだよ、もう吉田サユリさんには『その日はマッキーと一緒だった』って言ったんだ」


「そのお昼に天野サヤカさんが僕の家に来て、吉田さんに『前日は橋本と一緒だった』と電話で話したから、その時間に僕の証言は無理がある」

「え・・・どうしよう?」


「ひたすら謝れ、額から血を流すくらいに全力で土下座して謝れ、所でグループデートの後はどうした?」

「もちろん謝るけど、グループデートしてから何も無く解散したよ」


小中八年の友人、橋本ハッシー危機ピンチを助けてやりたい、キス以上の後ろめたい事は無いなら、橋本ハッシー吉田サユリさんに誠意を見せて謝るしかない。


約束した時間に合わせた様に、他の部員が帰った体育館に私服の吉田さんが登場した。

槇原マッキー、待たせてゴメンね」

「吉田さん、開けましておめでとうございます、今年も宜しくおねがいします」


「こちらこそ、宜しくお願いします、用件を橋本ハッシーから聞いた?」

「あぁ、聞いたけど、おい、橋本ハッシーから本当の事を言えよ」

吉田サユリさんに嘘を吐いた橋本ハッシーかばうアリバイが成立しない状況で、僕は親友の謝罪を見守るしか出来ない。


それを修羅場と言うのか、橋本ハッシーは体育館の床に額を付けた土下座で、

吉田サユリさん、二十五日は槇原マッキーと一緒じゃなかったです」

「じゃぁ誰と一緒だったの?」


「ええっと、内田ウッチー達と一緒でした」

「他には誰と何処で?」


「・・・」

「言いたくないなら言わなくて善いわ、レド・ランドで橋本ハッシーを見たって教えてくれた友達が居るよ」

吉田サユリさんの言葉に詰まる橋本ハッシーの代わりに僕が弁護するように、

「あの日は何も無かったみたいだから、許してあげてよ」

橋本ハッシーを許す吉田サユリさんの寛容な心を願った。


「そもそもだけど、槇原マッキーが『橋本ハッシーは良い奴だから信じてあげて』なんて言うから初詣の帰りに私の純潔をあげた、責任の半分は槇原マッキーにも有るよ」


吉田サユリさんの橋本ハッシーに対する怒りの矛先ほこさきが、僕の方に飛び火してきた。


「結果的に僕が吉田サユリさんを騙したみたいで、それに付いては謝りたい」

前日のクリパで僕は一緒にいた事実を証言したが、翌日の橋本ハッシーは彼女の吉田サユリさんに隠れてグループデートしていた事を今日まで知らなかった。


「嫌よ、槇原マッキーも許せない」

吉田サユリさんの怒りはおさまりそうに無い所へ、


槇原マッキーは関係ないから許して欲しい」

橋本ハッシーが余計な一言を挟む。


「そういう男の友情で擁護し会うのね、一人で怒っている私だけが馬鹿みたいじゃない」

女性の意見に同意すると良い方向へ進むらしい、何かのラジオで聞いた事が有る。


「謝罪の証しに『吉田サユリさんが望むなら何でも従う』これで怒りを鎮めて」

勿論それは橋本ハッシーへのペナルティの積りで言ったが、


「そうね、それなら二度と浮気をしない為にも槇原と私のエッチを動画撮影して、それを橋本ハッシーに見せる『リベンジNTRネトラレ』なら許してあげる」


おいおい、この件について僕はそこまで関与してないし、吉田サユリさんの無茶振りも大概にしておけよと、橋本ハッシーの方へ振り向いた。


「そうだね、知らない男に彼女をNTRネトラレるなら、親友の槇原が良いな」

お~い、橋本ハッシー、妙に納得するなよ、お前の性癖も変態レベルなのか。

槇原マッキー、今から私の部屋で報復エッチを始めましょう」


それが橋本ハッシーの謝罪を受け入れる吉田サユリさんの条件だとしても、僕の意思を無視して勝手に決めるなと言ったところでくつがえりそうに無い。


「一つ提案だけど、橋本ハッシーも同席させて生でエッチを見せるのはどうだろう?」

「その方が橋本ハッシーには辛いかな?」

吉田さんは疑いも無く僕の提案を受けたように答える。


再製動画より肉眼でNTRエッチの息遣いや喘ぎ声で臨場感が半端無いし、行為の途中に僕から橋本ハッシーへアイコンタクトを送り、吉田サユリさんの後から下半身へ橋本が、大きくても小さくても女性の胸が好きな僕は、白黒ハッキリさせたい勝気な吉田さんを優しいマッサージで蕩けさせてみたい。


この策で上手く行けば『一件落着』と想像する僕は、思わず笑みが零れた。

僕の油断を吉田サユリさんは見逃さなかった。


「いま笑ったよね、あ!槇原マッキーが前から、橋本ハッシーが後から二本挿しで私を犯す積りね?」

いやいや、それはアダルトな動画の世界でしょう、吉田さんも結構な趣味マニアだよ・・・


「そこまでは考えて無いけど、男二人と3pが願望なの?」

槇原マッキーは知らないと思うけど、橋本ハッシーは始めての私が『痛い』って言うのにエッチを止めない猿なの、匂いフェチで犬みたいな槇原マッキーと犬猿にヤラレるなんてゴメンだわ」


「じゃぁ、この件は落着という事で」

「なんか槇原マッキーに上手く誤魔化ごまかされた気がする」


吉田サユリさんがそう思うなら、取りあえず橋本ハッシーの浮気防止で下の毛を剃ったら、どうかな?」


「それ善いね、ツルツルなら他所の女性に見せられないね、これから剃るわ」


吉田サユリさんは嬉しそうに、橋本ハッシーは悲しそうな表情で吉田サユリさんの家へ向った。


「あ、そうだ、槇原マッキーって女性の小さい胸を揉むのが上手らしいね、女子達の噂に成っているみたいよ」

後足で砂をかける吉田サユリさんの捨て台詞せりふに僕は驚いたが、女子の誰が誰にクリパやグループデートの情報を漏洩リークしたのか、どうでも良くなった。


それでも橋本ハッシー吉田サユリさんは『雨振って地固まる』、恋する二人のハッピーエンドに万々歳と思う。

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