第52話 新年の部活動開始。

一月四日、昨年末に急性虫垂炎で手術、入院したバスケ部顧問の教師が復帰した。


午前九時から十二時までの部活動でも、以前と違って椅子に座ったまま指導する先生は病み上がりで声も小さい。

それよりもキャプテンの橋本ハッシーが不在で、更に女子マネの吉田サユリさんも顔を見せてない。

元日に橋本ハッシーから僕の家電に連絡が有って『彼女の吉田さんとエッチした』と言ってのに、何かが有ったのだろうと心配するより『連絡が無いのは無事の知らせ』と気に掛けないようにした。

時間が正午に近づき、バスケットコートの床拭きから、使用したボールを軽く磨いて片付けが終わる頃に、


槇原マッキー、ちょっと良いかな?」

女子バスケ部のキャプテン松下エミさんとサブキャプテンの篠田ユミさん、そして清水アキさんの三人から声を掛けられた。

「え、なに?」

「この後に何か予定が有るの?」

何も無いが、家に帰ってシャワーで汗を流して昼食を取るだけの僕は、

「お腹が空いているから早く帰りたい」


「五分、いや十分じゅっぷんだけ時間を頂戴、このプロテインバーで我慢して」

松下エミさんは、部活用のサブバックから小さなパッケージを僕に手渡した。

運動後のたんぱく質摂取は筋肉の為に良い、と聞いたがプロテイン食品を摂るのは初めての経験だったが、

「え、これぜんぜん味が無いけど、健康的な無塩のタイプ?」

「あ、本当に食べるんだ、うちのジュリアが好きだけど、私は食べた事が無い」


「ジュリアって誰?」

「二歳のラプラドール・レトリバー、ドッグランで走った後にそれを喜んで食べる可愛い女の子よ」


「このプロテインバーは犬用なの、道理で味がしないと思った、それで僕に話って?」


「今から十分じゅっぷんね、槇原マッキーがクリスマス会を開いたって聞いたけど、私達は女子の中で槇原マッキーと仲が良い方よね?」

そうさ、松下エミさんと篠田ユミさんはその場の勢いでエッチしたし、清水アキさんとはエッチする約束をしたが未だしてなかった。

「そうだね。君達三人とは仲良くしてもらっているね」


「じゃぁ、なんでクリスマス会に誘ってくれないの?そもそも『槇女』なんて地味な女子を集めてグループを作って可笑しくないの?」

松下エミさんの意見は僕も正論だと思う。


そもそもクリパ発案の橋本ハッシーから参加者には口止めしたはずが、誰から情報が漏れていたんだ、元々『槇女』は天野サヤカのファンクラブみたいな存在で、名前こそ『槇原女子会』から『槇女』と呼ばれているだけで、僕には関係ないしクリパの参加メンバー決定は橋本ハッシーの希望からだよ・・・


「誰かが『槇女』の数名を誘って、そこに僕も呼ばれたからメンバー選別の権利は無かった、これは嘘じゃない」

「それならクリスマス会の件はこれで終わり、次は一月二日に白金神社へ行ったよね、綺麗な大人の女性と一緒に」

第二問は松下エミさんから篠田ユミさんに代わって僕を事情聴取する。


和服を着た奈央ねえさんと初詣に行った僕が目撃されたのか、これこそ言い逃れが出来ない、覚悟を決めて、


「実は、あの人は僕の勉強を見てくれている個人教師なんだ、いつもお世話に成っているお礼で、初詣にボディーガードを務めたんだ」

「本当にそれだけ?」


「それ以上に何が有ると思うの?」

「私達にそれを否定する証拠は無いから、槇原マッキーの説明で納得するわ」

第二質問者の篠田ユミさんは疑問を治めてくれた。


「次は私よ、仲間外れにされて悔しいから、槇原マッキーと新年会をやりたい、男女参加メンバーは私達が選ぶから、明日の午後二時に篠田ユミさんのカラオケルームなら騒いでも叱られないよね」


三番目の清水アキさんが言う篠田ユミさんのカラオケルームって、僕が篠田ユミさんの処女バージンを頂いた家のパーティー用の防音室、篠田ユミさんはそれで良いのかな?


「僕が行かないと言う選択は有るのかな?」

「嫌なら来なくて好いけど、クリスマス会と綺麗な女性と初詣の噂を学校で拡散するわよ」


それじゃ断る訳に行かないし、高が数時間の新年会くらい平気だよな・・・

「分かった、明日の14時ね、出来れば僕が知らない人が居ると緊張するから、ほら僕は人見知りだから」


「任せなさい、槇原マッキーの知らない人は呼ばないから」

これでバスケ部の誰かが来てくれるなら心強い、イケメンで実はシャイの内田ウッチーか、女子に対して優しい森と小川と想定した。


あの部屋の大きさから想像して、男女それぞれ五人なら他の女子と男子は誰だ・・・

翌日の一月五日、午後二時、約束の場所へ到着した僕の予想は根底からくつがえさせられた。


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