第50話 奈央さんと初詣。

僕が住む街には、仕事運しごとうん金運きんうんを招く『黒金くろかね神社』、家族運と子宝が授かる子孫繁栄の『赤金あかかね神社』、そして未来の伴侶と出会える恋愛運れんあいうんを引き寄せる『白金しろかね神社』の三社が、約1kmの距離で正三角形を描く様に建っている。


その年の初めに自分の望みに応じた神社を選び、初詣で手を合わせる。

その三社を一度に回ると欲深さから神様の怒りをかって何の願いも叶わないと、都市伝説的に言われている。

欲深い人間には神の御加護も無いのだろう。


両親が不在な一月二日の朝、奈央ねえさんから誘われた初詣はつもうでに気持ちが高ぶり、いつもより早く起きた。

僕は遠足に行く子供かよ、なんて自虐しながら朝食を取り・・・


テレビで見る気象情報では、太陽が出てお天気は良さそうだが、冬の北風が冷たいらしい。

いつもはスポーツ用のジャージで過ごす僕の外出着がいしゅつぎはGパンかチノパンツに、フリースにライトダウンを重ね着、今日は北風対策に昨年のバーゲンで購入したサッカーの試合で見るオーバーサイズのフード付きロング・ベンチコートを始めて着用する。


冬用の暖パンは裏起毛でタイツを必要としない防寒タイプ、足元は冬用ソックスとワーク・ワンの厚底シューズ、上半身は厚手のネル生地のシャツにフリースとライトダウン、その上から膝下までのロング・ベンチコートで防寒対策は万全、手袋はネオプレーン素材のオレンジ色作業用は御愛嬌。


約束の午後二時に遅れないよう、逆算してカップ麺と父が焼いたバゲットで昼食を済まして、奈央ねえさんのマンションへ徒歩で家を出た。


奈央ねえさんが勤務する総合病院の近くに建つマンションを、過去に何度も訪れた僕は、オートロックのエントランスでインターフォンを押した。


「裕人君?」

「はい僕です、マンションの前に到着しました」


「もう少し掛かるけど、いま開けるから入って」

インターフォン越しの会話から奈央ねえさんの部屋へ向い、ドアから入室した。


ワンルームの奈央さんはいつもと違う和服を着付けて『これで最後の帯締め』と言う。

成人式で見かける袖の長い振袖でなく、正式な名前を知らないが、奈央ねえさんが着るピンク色に桜の花柄の和服は留袖か訪問着のどれだろう。


「裕人君、どう、似合っているかな?」

うん、いつもの奈央ねえさんは看護師の職業的にノーメイクに近い薄化粧が、今日は清楚なアイメイクからピンクの口紅をさして、その姿は『白赤歌合戦』に出場する演歌歌手か映画女優の様に見えるけど・・・

それよりメイクした奈央ねえさんは朝ドラで昭和の男性作曲家の妻を演じた音さん役の女優にソックリと思う。

朝ドラの役名で女優を記憶する僕は、俳優の名前を知らないから人との会話に困る。


「今日の奈央ねえさん、凄く綺麗です、大人の女性って感じです」

「ふふふ、折角初詣に行くなら和服が良いかなって?裕人君に誉められて嬉しいな」


奈央ねえさんは自分で着物を着られるの?」

「うん、学生時代に着付けを習っていたから少しね、さあ出かけましょう」


奈央さんは着物の上から薄い上着を羽織り、赤い巾着袋を持ち、玄関で草履ぞうりいた。


その姿に見惚れる僕は着物に夏用と冬用が有るのか、完全防寒の僕と比べて奈央ねえさんは寒くないのかと考えていた。


白金神社までいつもなら徒歩で十五分ほどだろうが、今日は和服の奈央さんは草履で歩幅が小さく、それに合わせて僕はゆっくり歩いた。


元日よりは少ないと思うが、正月二日の今日も恋愛成就を願う若い女性と、男女カップルの参拝客が多い参道を人の波に流されるように歩く。

鳥居までの両サイドには縁日の出店が並び、醤油やソースが焦げる匂いが僕の食欲をそそる。

帰りにはたこ焼きか焼きそば、それとも何かを買い食いしたい。



これから進む参拝客と戻る参拝客がすれ違い、近くを歩く若い女性の二人組が、

「ねえ、着物の女性ひと、女優の二階堂クミさんじゃない?」

「違うよ、有名な女優が地方の神社に来るはずないでしょ、でも並んで歩く大きな男性がボディーガードなら、本人かもね」

奈央ねえさんを見て朝ドラ女優に似ていると言う二人組の言葉で、丸い顔と大きな瞳の女優を『おと』さんと役名で記憶して僕は二階堂クミさんと知った。


混雑する流れにすれ違う人と肩が当たる事が何度も有った。

僕は左横に並んで歩く奈央ねえさんへ、

「すれ違いで人とぶつかるから、僕の後ろを歩いて」

南から北へ続く参道は冬の向かい風が冷たい、標準より大きい僕の身体が奈央ねえさんにすれ違う人と風除けに成れば良いと勧めた。


「うん、鳥居から社殿まで混雑しているね」

奈央ねえさんは素直に僕の後ろを歩いた。

前に人が少し進み、それに続いて最前列まで到着から賽銭を取り出して、賽銭箱代わりの白いぬのへ投げないように静かに入れて、二礼二拍手一礼で神様に新年に掛ける思いを願った。

横に並び拝む奈央さんを見ると、合わせた白い両手が小さく震えて、やっぱり着物だけでは寒いのかと思う。

石段を下り鳥居をくぐり人波が少なくなる所で、僕はオーバーサイズのベンチコートから左手だけ脱いで、回した腕で小柄な奈央ねえさんの腰を引寄せた。


160cm弱の奈央ねえさんは頭までベンチコートの中に納まり、小さな声で、

「裕人君、有難う、とても暖かいわ」

往路と同じ様に復路も奈央ねえさんの歩幅に合わせてゆっくり歩き、ベンチコートに包んだ奈央さんを支えるようにマンションの部屋まで帰った。


寒さで白かった奈央ねえさんの手は血色の良いピンクに成り、鍵を開けた部屋のエアコンを入れたが、

「裕人君、あんな事は他の女性にしちゃダメよ」

少しだけ機嫌を損ねて文句を言うから、

「え、どういう事?」


「人よけと風よけで前を歩いてくれて、寒いからってコートに入れて暖めてくれるって,『この人は私が好きね』って裕人君に悪気が無くても勘違いされるよ」

寒さに震える奈央ねえさんを救いたい僕のお節介に、好意を感じる女性の受け取り方は違うと思う。


「そこまで考えてませんでした、気を悪くさせたなら謝ります、ゴメンなさい」

「簡単に謝らないでよ、私が裕人君に嫉妬して意地悪したみたいでしょ、もうこの話は終わり、そうだクリスマスはどうしてたの?」


自分が言い出した小言に気不味い奈央ねえさんは、話題を仕事のシフトで会えなかったクリスマスに変えて訊く。


「バスケ部の友達とクリスマス会をしました」

「もう少し詳しく教えて、女子も居たの?」


「それって、女性の勘ですか?」

「そうよ、男子だけじゃクリスマス会は盛り上がらないでしょ」

僕は山村さんがジュースにウオッカを入れた悪戯を伏せて、プレゼント交換と成り行きで僕以外の男子が女子とキスした、僕は一人の女子から胸が大きいとか小さいにこだわらないの証拠で『私の小さい胸をさわってよ』と言われて、その後に『槇原君の大きな手で気持良くして』と意味不明な願いをされた。

此処までを奈央ねえさんへ報告した。


「男女でキスとか、小さい胸を揉むとか、思春期の欲望と勢いに流されたのね、他には?」

翌日の25日に天野サヤカさんが来て、赤いミニスカ・サンタと黒いバニーガールのコスプレを見せられて、僕は何も反応しなかった。

この件は奈央ねえさんに黙っていた。


奈央ねえさんの機嫌を直して欲しい僕へ少し時間を置いて、

「裕人君の手が大きくて指も長いでしょ?」

「うん、親指から小指まで24cm、中指は10cmくらいと思うけど、それが?」


「そうね、これから裕人君へ医学的な性教育を始めます、照れないで聞いて下さい」

現役看護師の奈央ねえさんから医学の知識で性教育とは、学校の保健体育とは違うのだろうか、僕には疑問しかないけど照れないで聞いても気に成る。


「はい、お願いします」

「あのね、隠語を使うより正式名称が恥かしく無いから使うね」

奈央ねえさんの医学的な性教育とは、

女性の性器は膣口から子宮へ膣管は平均7cmから8cm、繁殖時に男性の勃起陰茎は平均13cmから15cm、自慰経験がある女性に男性の太く長い指は自分では届かない奥まで刺激されるから、男性の太くて長い指が好きと思う女性も多いらしい。


それは僕の指で気持ち良くして欲しいの真意なのか、奈央ねえさんの性教育で初めて知った。


「裕人君、座学はここまで、次は体験講義よ」

「座学と体験って?」


エアコンで部屋が暖まり始めて、奈央さんは着ていた着物を徐々に脱いで、僕の手を取って、

「ここが膣口、少し奥にGスポットが有って、裕人君の指なら子宮まで届くでしょ」

実技で湿る女体の構造を教え始め驚く僕は、


「え、奈央ねえさん、いったいどうしたの?」

「一方的だけど、今すぐに裕人君が欲しいの、未成年ナントカって犯罪になっても構わないから、私とエッチして」

女性にも性欲が有るって聞いた事が有るけど、それはエッチな動画かエロ漫画の脚色と思っていた。

そして好きな奈央ねえさんを犯罪者にさせられない僕は、

奈央ねえさんの気持ちは分かった、けど犯罪者に成ってほしくないから、今日は僕が姉さんを強姦レイプする、これなら加害者は僕だから奈央ねえさんに罪は無いでしょ」


「それだと裕人君が罪に問われるよ」

「十四歳の僕を少年法が守ってくれるから心配要らない、どうすれば良いか教えてね」


僕の提案に頷く奈央ねえさんはキスから順番に男女の交わりを教えてくれた。


過去に松下エミさんと篠田ユミさんと避妊具装着のエッチを経験したが、

勿論『今日は安全日だから』と二人の間をさえぎ避妊具ゴムを使用せず、奈央ねえさんと人生初の生身で女性と交わった。



先週の大掃除で疲労した僕は自慰を忘れた禁欲生活から、瞬間的に果てた僕へ、

「若い裕人君は一回じゃ済まないでしょ、好きなだけ好いのよ」

その言葉に甘えて、僕は奈央ねえさんの部屋で日付が変わるまで、思春期の欲望が尽きるまで性教育の体験講義を受けた。


帰っても家に両親は不在だから、僕は奈央さんのマンションで朝を迎えた。


僕の外見は変わらないが、精神的な大人に成ったと自覚した。

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