第49話 年始の出来事。

父母と僕の三人家族、4日まで年始休業の槇原製パン店、元日から父方の祖父母を訪ねて、新年の挨拶から祖母が準備したお節料理とお寿司に蟹鍋の昼食を頂く。


「はい、裕人、どうぞお年玉よ」

先に渡してくれるのは祖母からで、受け取る僕は、

「お婆さん、有難う、必要な物を買いたい為に貯金します」


「これは俺からだよ、裕人の欲しい物は何だ、お年玉とは別に買ってやるぞ」

祖母と張り合う父方の祖父は、大手自動車系の一部上場部品製造で部長らしい。


「今すぐに欲しいバッシュじゃないので、お年玉は貯金します」

孫に甘い祖父母は何処にでも居ると思うから、多少の気遣いで遠慮する。


中学校の生活や、バスケ部のレギュラーに成れたのかと聞きたい祖父に、雑談を交えて報告する。

「バスケを続けるなら、お父さんと同じ青竹高校を志望するのか?」

地区一番のバスケット強豪青竹高は、全国大会出場常連校で県内中学バスケ部員の志望一位だった。


「お爺さん、志望校は未だ決めてないし、分からないよ」

「そうか、もし裕人が青竹高校でレギュラーに成れたら、お父さんと同じバッシュを買ってやるぞ」

パン職人の父が青竹高校で全国大会に出場したと聞いたが、お爺さんにバッシュをプレゼントされたエピソードは知らなかった。


「え、どんなバッシュ?」

父の選手時代より当時のバッシュに興味が有り祖父へ尋ねた。


「あ~、たしかマシックスのポイントゲッターだったな、定価は28500円のカンガルー皮でバスケ漫画のキャラが履いていたバッシュだったな、あれはどうした?」

祖父は祖母へ、今もそのままの父の部屋にバッシュが有るのかと訊いた。


「箱に入れたまま有りますが、二十年近く前の靴が使えないでしょ」

僕は使いたい訳じゃないが、見るだけで満足する好奇心から、

「僕も一緒に探すから見せて」

祖母は父が使っていた部屋からバッシュを入れた箱を取り出してきて、蓋を開けた僕は実物のポイントゲッターを始めて見た。

「これって、宮城リョウのバッシュだ、貰って良いかな?」


此処までのやり取りを見ていた父が、

「裕人、表のカンガルー皮が硬化して試合じゃ使えないぞ」

「うん、皮用クリームを塗ってから練習だけ使うから、頂戴」


有り意味でお年玉より嬉しいレトロなバッシュをゲットした僕は、一時いっときも早く家に帰りたかったが、昼食後は母方の実家へ向う予定が決っていた。


父が運転する仕事用のミニバンで三十分の距離、帰省した母の実家で国産和牛のすき焼きで夕食を終えて、同じ様に祖父母からお年玉を頂き、

「お爺さん、お婆さん有難う」

孫の僕は『元日の帰省はお年玉の回収日』に申し訳なさを感じるが、父と母が言うには『裕人の顔を見られてお爺さんとお婆さんも喜んでいるから良いのよ』と言う。


飲酒しない父と違い、お酒が好きな母はお爺さんの晩酌に付き合う。

「一月四日の昼頃迎えに来ます」

心地良く出来上がった母を実家に残して僕と父は帰宅する、正月帰省の母は翌日から旧友と同窓会&女子会を予定しているらしい。

一度僕と帰宅した父も、高校のバスケ部OB会にミニゲームから宴会に参加から帰宅時間は翌日かは未定と言う。

それは自動的に、家に僕が一人で留守番は孤独なホームアローンよりも好きな事が出来る天国が嬉しい。


「お父さん、母さんも居ないんだから、のんびり『命の洗濯』をしてきなよ」

ミニバンを置いてバスで出かける父を見送り、僕はリビングへ急いだ。

いつもは母が占領しているHDDレコーダーに録画した『高校バスケットボール全国大会』通称『ウインターカップ男子決勝』を再製する。


すこし前は東京や大阪、愛知や北海道と福岡など大都市の有名私立高が決勝まで勝ち上がる。

将来はプロバスケ選手を目指す僕は、四年後にウインターカップ決勝に出ていたいと思うけど、高校野球と違って全国大会の決勝まで進まないとテレビ放送されないバスケットボールの不平等を残念と思う。


拝聴しながら思うのは、ジャンプボールのセンターこそ2m級だが、それ以外のスターター選手の身長が180センチ前後と低いと感じた。

さらにプロの『Bリーグ』みたいに45番とか37番の大きな数字を付けたユニフォームも始めて見た。

中学バスケでは一番上手いキャプテンがポジションに関係なく4番を付けて、5番からガード、フォワード、センターまで続く、センター&フォワードの僕は7番を希望して付けている。


息を飲むような試合展開にも、要所要所で三ポイントシュートを入れる選手に注目した。

僕の身体的寸法ボディ・スペックは身長186センチ、開いた手のひらは親指から小指まで24センチ、チームの誰にも明かしてないが、ウィングスパンは両腕を左右に水平に広げた時の片方の指先からもう片方の指先まで205cmの僕は、同じ身長の対戦相手にジャンプボールやリバウンドで負けたことが無い。

手の長さはマッチアップする相手に与えるプレッシャーは大きな武器だと思う。


中学バスケで8分間×4クオーターのフルタイム出場できるスタミナは有るが、橋本ハッシー内田ウッチーのような瞬発力ダッシュが弱い。


高く飛ぶ為に筋肉は必要だが、体が重くなると飛べなくなる。

橋本ハッシーのように少年野球で鍛えた身体は筋肉が邪魔して背を伸ばせないと思うし、プロサッカーのJ リーグ選手にも幼い頃から鍛えすぎて低身長も少なくないだろう。


ウインターカップを見ながら今後の課題を想定する僕へ、家電コールが邪魔する。

実家に帰省する母か、忘れ物した父と思いながらコードレスを手にして、

「もしもし・・・」

携帯を持たない僕へ電話の相手は悪友の橋本ハッシーだった。


「マッキー、有難うね、吉田さんと仲良くできたよ」

何のことだと思い、黙った僕へ橋本は、


「土曜のクリパを吉田サユリさんから疑われた俺に槇原マッキーが『橋本ハッシーは良い奴だから信じてやれないなら別れたら』って聞いたよ、それから優しくなってキスさせてくれて、二人で大晦日から初詣に行ってから前を歩くカップルに付いて行ってラブホに入った、吉田サユリさんは今シャワー中でここに居ない」

橋本ハッシー吉田サユリさんとの初エッチを、僕から助言アドバイスのお陰と彼女がシャワーで居ない時に報告する。


橋本ハッシー、男は兎も角、女性の初めてを人に話すのはダメだよ、僕は話を聞かなかった事にしてくれ」

キスを許さない吉田サユリさんが僕の苦言から橋本ハッシーに身体まで許すとは、余計なことを言ったと申し訳なさを感じた。


「あ、マッキー、吉田さんが浴室から出てくる、これで切るよ」

一方的に通話を終えた橋本ハッシーが幸せなら、友人の僕も喜んで祝福しよう。



そこから録画したウインタ-カップを最後まで見て、88-71で新潟代表が福岡代表を下して日本一と成った。

僕が高校三年生になるまであと四年か、もう四年か、僕に足りないものを感じた有意義な試合だった。


これから自室のベッドで自慰行為で性欲を解消しようと思い、リビングのテレビとHDDのリモコンで電源をオフにしてLED照明も消した。


サポート終了のタブレットでネット閲覧からエロ漫画を読み、無料サンプル動画から無修正の熟女物を拝聴するが、橋本ハッシー吉田サユリさんのエッチを想像して気が乗らない。


そんな僕のタブレットへ奈央ねえさんからメールが届き、

(裕人君、あけましておめでとう、と言っても夜勤明けでこれから眠ります、明日の二日ふつかに私と初詣に行ってくれると嬉しいな)

年末年始の人ごみが嫌いな僕でも、いつもお世話に有っている奈央ねえさんの頼みなら断る訳にいかない。


(了解しました、待ち合わせの場所と時間を指定してください)

僕が返信した直後に、

(準備に時間が掛かるから午後二時に私のマンションに来て、白金神社へ行きましょう)

奈央ねえさんが言う女性の準備とはお化粧かな?

どうせ父も母も不在の正月なら僕も自由にさせてもらおう・・・













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