第47話 平凡な女子の質問。

橋本ハッシーを含む男子五人が、五人の女子と交代で二回目のキスを始める傍観者の僕へ、隣に座る山村ミウさんが、

「ねえ、槇原君の好きなタイプは局アナと看護師さんって聞いたけど」

槇女内では僕の個人情報が共有されているから、ここでは驚かないが、


「そうだね、知的で清楚な女性が好きなタイプかな」

「じゃぁ、容姿は、髪が短い長いとか、痩せているかポッチャリとか、背が高い低いとか、やっぱり胸が大きい女性が好みかな?」


思春期の恋に目覚めた女子に有りがちな微妙な体のコンプレックスなのか、特別に誰か<天野サヤカ>を想像しなくて、

山村ミウさんが思うより僕は女性の姿かたちに拘らないよ」

身体的に発達途上の山村ミウさんを見て、かどが起たない様に多少の社交辞令を込めて返した。

「槇原君、それって胸の小さい私に気を使ったよね?」

「そんなことは無いけど、胸が小さいのを気にしているの?」


「そりゃ気にしますよ、中学で男子と交際している女子はみんな胸が大きいでしょ?」

彼女を選ぶ基準に胸の大きさは関係ないと、全ての男子は言い切れるのか僕には自信が無い。


「エッチ有り気で告白して交際が始まるばかりじゃないと思うよ」

「ウソよ、それは槇原君の詭弁きべんよ」


「どうしたら僕は女子を胸で判断しないって信じてくれるの?」

「じゃぁさぁ、キス会から離れた壁際で私の小さな生乳なまちちを触ってくれるかな?」

休み時間に教室でうたた寝した僕が『生乳なまちち』と寝惚けた失言を聞かれたのも槇女の三人だったから、これも共有されていると察した。


キス会の輪に背を向けた僕の前に座り、フリースのジップを降ろして、

「此処から槇原君の手を入れて、私のチッパイを吟味して」

胸を吟味とか言われても、僕の手には触覚しかないからと思いながら、山村さんの控えめな胸に触れた。

僕に取って生乳の基準は白桃サイズの奈央ねえさんで有り、それより小さい山村さんの胸はてのひらにすっぽり納まる温州みかんサイズだったが小さくてもとても柔らかいナマチチと思う。


「あぁん、槇原君の手が暖かくて気持ち好いわ」

甘えたような声に奈央ねえさんの『女性の胸は性感帯と同時に急所だから丁寧に扱うのよ』と助言を思い出して、小さな胸のトップを直接に触れず、指と指で挟むように胸全体をブラの様にてのひらで包んだ。


「山村さん、もう、いいかい?」

「もう少しだけ触れていて欲しい」

背中越しの橋本達が静か過ぎるキス会も気に成るが、僕に生乳を揉まれて目を潤ませる山村ミウさんをクリパの参加者に気づかれないと心配に成り振り返った。


和室の畳に抱き合う五組の男子と女子、お互いにエロ・スイッチが入り、キスから先への行為が進んでいく。


「槇原君に顔を見られて揉まれていると恥ずかしい、後ろから抱きしめて左だけじゃなく両方一緒にお願いします」

エッチな要求がエスカレートする山村さん、それはバックハグでしょうと驚く間に素早く身体の向きを変えて、胡坐で座る僕の上に腰を下ろした。


無茶を言う女子の後頭部を見ながら、言われたまま両手を山村さんの前で交差させて、手ブラみたいに生乳を持ち上げるように包んだ。


「槇原君の手が大きいね、おっぱいの扱いに慣れているのね?」

奈央ねえさんしか生乳経験は無いが、『女性の胸は優しく扱いなさい』の教えに従っているだけ、

「もう終わりで良いでしょ?」

「もう少しだけ続けて、顔を見るキスは苦手だけど後からされるのは好きみたい」

中学校では目立たない大人しい女子生徒でも、エッチな情報を女性週間誌で知る現在は昔の人が言う『耳年増』で知識だけは豊富なんだろう。


「ちょっと不味いよ、このままだと僕もその気に成っちゃうから」

実際に山村ミウさんのヒップが座る僕の股間を刺激して、僕もボッキーに強制参加され始めている。


「恋人のイチャラブって、この先はどこをどうするのかな?」

エミさんとユミさんとは勢いだけでエッチしたが、恋人同士のイチャラブを訊かれても答え様が無い。

「そんな事を言われても解らないよ」

「槇原君の長い指で自分じゃ届かない所を気持ちよくして欲しいの」


エロ動画で見た事有るから何となく察しがつくけど、背後には抱き合う男女が居るここじゃ無理だよと制止しようと言う瞬間に、

「ピッピ、ピッピ、ピッピ、ピッピ」

クリパの終了予定時間、片付け時間で午後五時の十五分前に橋本ハッシーがスマホのアラームを設定していたと思い出した。


「もう時間が無いから、続きは出来ないよ」

僕の膝に座る山村ミウさんを立ち上がらせて、背後を振り返り、

「お楽しみの時間は終わりだよ、事務室のオジサンが来るぞ」


キスして抱き合う男女に僕の声など届くはずも無いが、このままじゃ猥褻わいせつパーティーを知られてしまう。

会場を予約してくれた橋本ハッシーのお爺さんと、料理とケーキを提供してくれた内田ウッチーの祖父にも恥を掻かせてしまう。


「急げ、先生が来るぞ」

休み時間が終わり授業開始のよう咄嗟に僕は叫んだ。


驚き飛び起きた女子は乱れた身なりを整え、男子は和室に散らかる座布団を拾い集めて部屋の角に置いたが、五人の男子は股間を膨らませたままだった。


それから数分経過の午後五時丁度に事務室から自治会長の岩田さんが来て、

「下には何も聞こえない静かな同窓会だったな、盛り上がらなかったのか?」


有る意味で若い男女は盛り上がりすぎて、暴走気味のクリスマス・パーティーだったが、それを説明など出来ない。


「カラオケを禁止されたから、予定時間までトランプで遊びました」

男子参加者の中で自治会長と顔見知りの僕が方便で答えた。


階段を下り玄関で靴に履き変える男女へ橋本ハッシーから、

「あのさ、明日遊園地でグループデートしないか?」

燃え残った気持ちを込めて、キスで盛り上がった女子の五人を誘った。


「みんなが行くなら良いよ」

橋本と抱き合いキスした近藤さんは他の女子を誘う、他の四人も同意してスマホでお互いの連絡用アドレスを交換した。


槇原マッキーも行くだろ?」

「ゴメン、携帯スマホを持ってないし、予定が有るからパスするよ」

これ以上付き合いきれない僕のこれも方便だし、スマホを持ってない事が幸いした。


「私も予定が有るから遠慮するね」

山村ミウさんも僕へ同調したが、本当に予定が有るのか訊くつもりは無い。


今夜は雪が降りそうな日暮れの町を自宅へ向う為に、それぞれの方向へ歩き出す。

途中まで一緒の方向へ歩く山村ミウさんが、


「ねぇ今日のクリパは槇原君の好きな『酒池肉林』だったね」

そうだよ誰かがノンアルコール飲料に入れた酒に酔った参加者が、若い欲望を満たした酒池肉林って?


「え?何で?」

「言わなかったけど、書道部の佐藤アイさんは親友なんだ、槇原君が好きな『酒池肉林』を墨で書いたって聞いたわ、盛り上がると思ったけど嗅覚の良い槇原君がウオッカ入りのノンアル・カクテルを飲まないから期待ハズレでした」


犯人探しの僕が気付かなかった山村ミウさんが、微量ながら無色透明のウオッカで参加者へ飲酒させたのか、見た目が大人しそうな女子の本心は怖いと思う。


それから暫く同じ方向へ歩き、途中で別れる山村ミウさんは大きく手を振り、

「槇原君、またね~」

と笑顔を見せた。

または有るのか、あの匂いに気付かなかったら、酒に弱い僕も欲望のまま流されていたと思う。


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