第46話 ボッキー・ゲームから。

灰原公民館の借りられる和室は午前は九時から十二時、午後は一時から六時までを選べる。

カラオケや句会の老人会や地域の親睦会には時間が長い午後が人気と言うが、クリスマスイブの午後に予約は入ってなかった、と言うより橋本ハッシーの祖父、市会議員の忖度から会場を無料で予約できたと想像した。


冬至に近いクリスマスイブは日暮れ時間が早いから午後5時で解散と、夜は家族とクリスマス会をする女子の帰宅を気遣って橋本ハッシーが企画した。


冬の空は今にも雪を降らせそうでクリパの進行を急がせる。


「さぁ、ボッキーゲームを始めましょう」

昔と違って今は『男は愛嬌、女は度胸』と言われるが、ここでも女子の近藤さんが男女の参加者へ声を掛ける。


この時点で僕は『ボッキーゲーム』のルールを知らない。

男女二人でボッキーを咥えて食べ進み、より短い所まで顔を近づけたペアが勝ちなのか、それともペアの男女で先にボッキーを放したら負けの対戦ゲームなのか?


誰もがルールについて質問しないまま『ボッキーゲーム』は始まったが、ゲームに参加しない僕と山村ミウさんは離れた場所から傍観者となった。


プレゼントを贈られた男子と向かい合う女子の安藤さんとバスケ部の森、同じく女子の沖田さんとバスケの小川、近藤さんと橋本ハッシー、島野さんと内田ウッチー、土方さんと橋本の友人から野球部の田中が細いチョコ菓子のボッキーを咥えて見つめ合う。


ボッキーゲームの不可抗力でキスになってもアクシデントで笑えると、男子は期待するが、女子チームの五人はボッキーを加えたまま食べ進まない『待ち伏せ作戦』で、しかもキスしてOKのサインで目を閉じた。


いたたまれない状況にゲームへ参加しない僕は、偶然の幸運に救われたと思った。


恋愛経験が豊富なイケメンの内田ウッチーはボッキーを食べ進めて、平然と女子へキスするだろうと想像した。


キスまでを期待してゲームに挑む橋本ハッシーは一口二口食べて、これ以上先に動けなくなった。


勿論、彼女の居ない森や小川、野球部の田中は目を閉じた女子の顔を真近まじかに見て動けない、更に耳まで真っ赤に赤面している。


ある意味で混沌カオスな世界に暖房とアルコール疑惑のカクテル飲料も手伝い、沈黙の時間が流れる中で、最初に声と言うか悲鳴を上げたのは、

「あ~出来ない、告白してくれた女子の二十人以上と交際しても一緒に下校して手を繋げない俺にゲームで女子とキスなんて無理すぎる」


恋愛豊富のチャラ男と噂されていた内田ウッチーはヤリチ〇どころか、超シャイボーイでキスどころか、彼女と手を繋いだ経験が無いとカミングアウトした。

それが呼び水に成ったのか、途中まで食べ進めた橋本ハッシーや森、小川、田中も『これ以上は駄目だ』と素直に負けを認めた。


「男子って意気地なしね」

男子が口から離したボッキーをポリポリと食べる女子は勝ち誇った様にマウントを取り、

「勝者の命令を何でも叶えるのが、ボッキーゲームのルールよ」

初めて聞いた無茶振りのルールに言い返せない男子チームの橋本ハッシーは、

「敗者の俺たちは何をやれば良いの?」

負け犬の様な気持ちで女子に従う意思を伝える。


「そうね・・・あ!あれよ」

女子チームの近藤さんが言う、あれって何だろう・・・


「噂で聞いたけど、男子バスケ部に『皮むきの儀式』が有るって、どんなのか見せてよ」

それは女子へバスケ男子のチ〇コを見せろと言う無茶振り、飲酒疑惑と暖房の温かさからクリパゲームの盛りあがりで、いつもは大人しく地味だが、招待された槇女は私服とアイドル風のお化粧でお洒落して、大胆に成っているのだろう。


この時点でボッキーゲームに参加してない僕は関係ない立場と安心していた。


「俺は野球部だから除外して欲しい」

少年野球の親友、橋本ハッシーにクリパへ誘われて野球部の田中は免除して欲しい視線で言う。

「ダメよ、野球部の田中君も負け組よ」

勝ち誇る女子は強気に出て、田中の要望を却下する。


「もしチ〇コを見せたらご褒美が欲しい」

ヤケクソの橋本ハッシーは陳列の代わりに希望を口に出した。


「え、何をして欲しいの?」

即答する槇女の土方さんへ、

「キスさせてくれるならチ〇コを見せる」


いつも社交的な橋本ハッシーでもキスを要求するとは想定外すぎる、これも酔いが手伝っての暴言なのか?

秒で却下されると思う僕の耳に信じられない返事が聞こえた、

「良いわよ、キスしたいなら誰とでも、ねえみんなも良いでしょ」

土方さんから島野さんに代わって女子に同意を取り付ける。


ボッキーゲームに参加した女子五人の誰かとキスが出来るとは、提案した橋本ハッシーも想定外の返事に戸惑う。

「橋本君は誰とキスがしたいの?」

リーダー的な近藤さんが橋本ハッシーに問うと、

「一人を選べないから、女子全員にキスしたい」


橋本の返事に驚く男子と女子、学年位置のイケメンで、シャイボーイの内田ウッチーとキスできるなんて女子全員の顔が緩んだ。


「じゃぁ、下半身だけ脱ぐよ」

橋本の言葉に男子は下着だけ残してジーンズを脱ぎ、ここでも僕には関係無い他人事と信じていたが、

「マッキーも脱いでよ」

橋本と近藤さんの二人が同時に僕へ言う。


「え、なんでゲームの参加してない僕も?」

「これはクリパの連帯責任でしょ」


「嫌だよ」

「ないいで嫌なの、あれが小さいんだ」


「そうじゃないけど、体毛が薄いから見せたくない」

「大人の男性は脱毛してツルツルにしているらしいから、ね、大丈夫」


思春期の好奇心が溢れる女子に口では勝てないと僕は、

「ねぇ、山村さんは見たくないよね」

僕の隣に座り、ボッキーゲームに参加してない山村ミウさんに助け舟を求めたが、


「えっと、恥かしいけど男子のアレを見てみたい」

結局の所、連帯責任と言われる僕も槇女六人の前にアレをさらす事に成った。


傍観者の僕が巻き込まれると、気の毒だが野球部の田中も陳列から逃げられない。


一斉いっせいのせー」

橋本の掛け声で男子はブリーフとトランクスを下ろした。

男子が言われて一番に傷付く『可愛い』を言わない女子の気配り、その代わりに、

「へえ~ 形に個人差が有るけど・・・」

微妙な感想を言う中、野球部の田中は、

「橋本に言われて、風呂でしたけど半分しか剥けてないから見せたくなかった」

毛が薄い僕より半剥け状態をす田中を可哀想と思う。


この時点で男子六人のアレは普通の形態だった。


「さぁ、見せたんだから女子全員とキスさせてくれ」

橋本の要求に、

「仕方ないわね」

許可する近藤さんへ山村さんは、

「私、キスは遠慮させて」

女子にモテるイケメン内田ウッチーが居るのに駄目と言う不思議な乙女心か?


「それじゃあ僕も遠慮するよ」

僕も山村さんに便乗した

「そうね、嫌な人には無理強いしないわ」


僕と山村さんを除いた男女が向かい合わせに数秒のキスを始める。

小学生のフォークダンスみたい時計回りでパートナーを交代して一回りが終わると、

「女子の唇って、想像よりずっと柔らかい」

チャラ男風だが実はシャイな内田ウッチーの素直な感想に気持ちが盛り上がる女子から、

「もう一度しよう」

逆セクハラ的に要求されて、同意する男子は二周り目のキスを始めると、女子に慣れてきたのか、腰に手を回して女子の身体を引く寄せる。

それに答える女子も男子の求めに応じて居る<僕と山村さんから見えないが、男女で舌を絡めているディープなキスかもしれない?>


これも暖房とアルコール疑惑の所為なのか、それともクリパの雰囲気に流された男子と女子の暴走か・・・


「ねぇ、どうして槇原君はアレを見せたのに、女子とのキスへ参加しないの?」

それはキスの後が見えているから、ボッキーゲームからキスして男子のアレが平常からボッキー状態に成ると想像して、僕はキスの輪に混じらなかった。


とか女子の山村ミウさんには説明出来ないよなぁ・・・

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