第38話 凄い事に成る。

ひょんな事から姉と弟の約束した佐藤 奈央なおさんと僕は中二の槇原裕人。


奈央ねえさんの受験指導で僕に学習意欲が芽生え、美味しい食事で食欲を満たされ、弟役を溺愛する甘々あまあまの姉は心地良い耳搔きや思春期男子の欲望を抜いてくれる。

とても居心地の良いワンルームと奈央ねえさんに僕は癒されている。


水曜の夜に奈央ねえさんの生乳なまちちに触れて、その柔らかさに驚き、月曜の今も手に感触が残っている。


水曜土曜と定期的に会える看護師の奈央ねえさんは、同僚の急用で土曜の夜勤を交代したから『次は水曜の十八時』と僕のタブレットにメール連絡が入った。


『後悔しないと誓えるならエッチしても善いよ』と言うが、何か有っても責任の取れない中二の僕が奈央ねえさんに女体からだを求めるには、『臆病者と言われても躊躇ためらいと言うか、後ろめたさと背徳を感じて、その先に進めない。


もしも出来るなら、世間一般の仲が良い姉弟きょうだい千組にアンケートを実施して、実際に肉体関係が発生するのか知りたい。


そんな妄想をしながら目を閉じて昼休みを過ごしていた。

机に伏せて半分眠りかけて居た僕は独り言で『なまちち』と口から出し、それを自分の耳で聞き驚いて目覚めた。

顔を上げると面識は有るが名前の知らない他組の女子が三人横並びで僕の前に立っている。

今の寝言なまちちを聞かれてないか、そんな不安な僕の前で、

「ヒロミ、早く言いなさいよ」

学年カースト上位、松下エミ篠田ユミ清水アキの女子バスケ部三人と違って、その容姿は普通の女子中学生、髪はショートボブ、丸顔に中肉中背の三人を例えるなら『団子三姉妹』。


ヒロミと呼ばれる女子は目に涙を溜めて今にも泣き出しそうな顔で、

「槇原君、ゴメンなさい」

搾り出すように言葉を告げる。


「泣いてちゃ分からないよ、最初にその訳を教えて」

三人の女子は順に『近藤サキ』『土方トモミ』、そして泣き顔の『沖田ヒロミと名乗り、近藤サキに背中を押された沖田ヒロミは謝る理由を話し始めた。


・・・沖田ヒロミが制服で通う学習塾に近隣中学の男子、蟹江君から『沖田さんは灰原中学だね、僕はバスケ部だけど橋本君と槇原君を知っているよ、もし良かったら僕と付き合って欲しい』とバスケ部を強調して告白された、その蟹江君を好きなタイプじゃない沖田ヒロミはその場で断ったが、次の塾で何度も告白されて、『私、槇原君と付き合っているから無理です』と僕の名前を無断使用し、それを謝罪に来たらしい。


いつもの僕ならきっと『勝手に名前を出すのは失礼だよ』と正論を持ち出すが、奈央ねえさんの言われた『寛容な男の度量』『女心を察しなさい』の苦言を思い出して、

「それって緊急避難でしょ?君が泣く様なことじゃないし、僕は怒ってないから大丈夫だよ」

社交辞令と言うか僕にとって実害が無いから、逆に謝る沖田ヒロミを慰めた。


「でも、槇原君の名前で嘘を吐いたから、私が責められても仕方無いです」

たしかに嘘は良くないと小さい頃から教えられたが、しつこく告白する男子の蟹江も良くない。

今後の対策も含めて、僕なりに最大限な提案を思いつき、


「僕と付き合っていると言うのは嘘だけど、友達の一人で『ボーイフレンド・ガールフレンド』の関係はどうだろう?」

「え、槇原君の名前を出しても良いの?」


「付き合っている恋人なら一人限定でも、女友達ガールフレンドは何人居ても大丈夫だよ」

「噂どおりに槇原君が優しい男子で良かった、ガールフレンドの許可を感謝します」

特別な意識も無く提案した僕へ笑顔で答える沖田ヒロミを見て、僕も安心した。


「私も友達にしてね」

「私だって一緒よ」

付き添ってきた近藤サキ土方トモミも友達申請を口にした。

断る理由も無いから『勿論だよ』と安請け合いをした。


「行き成りこんな事を訊くのも失礼だけど、槇原君は天野サヤカさんと別れたの最近話をしていると頃を見ないけど、中二の女子で結構な噂よ」

二度目の口喧嘩で天野さんが言った『私と別れたら凄い事に成る』をすっかり忘れていたし、それ以来学校やプライベートでも会話してなかった。


「元々、モデルに復帰した天野さんとは付き合ってなかったし、ただの幼馴染だよ」

当たり障りのない僕の言葉に

「じゃあ、槇原君はフリーなの?好きな女性のタイプは有名人だと誰かな?」

食い気味で団子三姉妹の近藤と土方は口を揃えて訊く。


「好みのタイプは顔じゃない、好きに成った人がタイプで、髪型も似合っていればロングでもショートでも構わない、それが僕の持論」


「女性の職業的には?」

深堀で質問を繰り返す、他に用事も無い僕は三人に付き合って、

「そう知的で優しい人、職業なら報道の女子アナか、慈愛の看護師さんかな?」

勿論それは奈央ねえさんを想像して答えた積りだが、受け取り方に因っては『白衣のナースとエッチなお医者さんごっこ』と思われても仕方無い。


「やっぱりね、寝言で『なまちち』を言う槇原君はエッチなんだ」

え、え、独り言の『なまちち』を聞かれていたとは、パニック寸前の僕は全力で言い訳を考えた。


「それは違うよ、ホラあれだよ、スーパーで見る牛乳に『生乳せいにゅう』と『加工乳かこうにゅう』が有るだろ、生乳せいにゅうが天然の『なまちち』なら加工乳は『豊胸手術』した加工乳と思うから『なまちち』と失言したと思う」


「槇原君、それってもっとエッチよ、誰にも言わないから安心してね」

新しいガールフレンドに弱みを握られた気がするが仕方無い、口は災いの元だ。


「最後にもう一つだけ、槇原君はバスケ部の蟹江君を知らないの?」

公式戦で無ければユニフォームよりゼッケンがついたビブスを着用するし、その蟹江君が先発スターターで、ゾーンディフェンスが禁止されている中学バスケのマンツーマン・ディフェンスで僕とマッチアップしなければ顔も覚えてない。


「身長は僕と同じ位?」

「ううん、ずっと小さい」

小さいバスケ部員なら橋本ハッシーと同じガードと思うから、

「他に蟹江君の特徴は有る?」

蟹江君に対して特に興味は無いが、誰だか分からないまま終わるのもしゃくさわるる。


「そうね、中二にしては毛深いのも嫌、指の上に毛が生えて『タランチュラ』みたい」

毒は無いらしいが姿の恐ろしい蜘蛛と認識しているが、練習試合で腋毛がボウボウな控えのガードを思いだした。


「毛深い蟹江君なら知っているよ、それでもタランチュラは酷いな、せめて毛蟹にしなきゃ」

「槇原君、それを言うなら毛蟹でも酷くない?」

蟹江君の耳には届かないが、きっと今頃はクシャミをしているだろう。

その日の放課後、バスケ部活が終わり下校時刻に昼間のデジャブか、


「槇原君、私をガールフレンドにしください」

多分同学年の二年と思う女子二人が友達申請してくる、ここも男の度量と包容力で、

「構わないけど、これってどうして?」


「なんか、嫌な男子に告白されても、槇原君のガールフレンドって理由を言えば断っても大丈夫みたいな、休み時間に噂が聞こえて」

それは女子の間で拡散されているのか、クチコミ評価を一切信じない僕は少し迷い、


「一度に全員の顔と名前を覚えきれないけど」

「それなら会員番号を決めたらどうかな?」


「か、会員番号って、どんな会なの?」

「マッキーガールズとか、槇原女子会なんてファンククラブっぽくて駄目ですか?」

そんな恥かしい事につき合わされるのか、ただただ呆れる僕は、

「言いだしっぺの君が会員番号一番で管理してくれ」


「今入会希望者は三十人を超えて、会員番号一番で会長は天野サヤカさんです」


天野サヤカと別れた僕を告白拒否のツールにしたい女子を集めて、報復するサヤカの高笑いが聞こえてきそうと振り返った僕へ、


「ねぇ裕人君、私と別れたら『凄い事に成った』でしょ」

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