第29話 野外学習 ③ 夜の訪問者。

0,9%アルコールの酔わない梅酒で頭はフワフワ、体はポカポカする僕はテントのファスナーを少し開けて秋の夜風に涼む。


そこから見える『県立青少年の家』の窓灯かりが消えて、消灯時間の午後九時と知った。


不意に思いだした僕はテントから顔だけ出して、星空を眺める毛利君と虫の声を聞くと言った名和君を探すが、ここからでは見つけられない。


枕が変わると眠れない、なんて神経質では無いが、最初の予定ではお腹いっぱい夜食を食べてから一人エッチで二回抜き〈個人差は有るが男性は放出すると眠くなる本能?〉翌朝まで熟睡する積もりだったが、怪我した女子を背負い山を下る想定外のことに、いつもとは違う背筋を中心に疲労感が残る。


羽毛入りでない春夏秋用のダブルサイズ寝袋に入り、体が火照った僕はシャツとボクサーブリーフの下着姿で目を閉じた。


虫の声を聞きながら三十分か一時間くらいは眠ったのだろう、サクサクとテントの外から何かの歩く音が聞こえる。

まさか食料を狙いに来た野性の熊じゃないよな、そんな不安の中、

槇原マッキー、未だ起きてる?」

聞き覚えが有る女子の声に安堵するが、夜の訪問者を歓迎出来ない僕は、

「もう寝てます」

ボケる積もりも無く思いついたままに答えた。


「私から話が有るの、取り合えず寒いからテントに入るね」

声の主は学年で一番人気の女子、実年齢より大人っぽい松下エミさんがファスナーを開いてテントに進入してきた。

「僕に話が有るって何?」

三日月の薄明かりで松下エミさんの顔がいつもよりセクシー見える。


「テントの中でも意外と寒いね、槇原マッキーの布団に入れてよ」

「え、これに入るって、布団じゃない寝袋シュラフだよ、二人用でも狭いよ」


「寒いから狭くても構わないし、逆に密着できて嬉しいでしょう?」

松下エミさんは人気者にんきものゆえに少々強引な所がある。


封筒型の寝袋へ進入する松下エミさんは僕の下着姿を見て、

「え、槇原マッキーは何でシャツとトランクスだけ、一人エッチの途中だったの?」

中二男子の性欲を見透かした様に言う美少女は、下着姿の僕へ躊躇ためらわずに話を続けた。


「昼間の洗い場で『話が有るて』私の部屋に誘ったでしょ、槇原マッキーが来てくれないから私がテントに来たのよ」

「それは申し訳ない、ところで僕に話ってナニ?」


槇原マッキーが怪我してまで私を守ってくれたストーカーを覚えているでしょ、あの大学生が塾講師を辞めたけど、それに心当たりが有るかなって?」

あの翌日に診察に訪れた整形外科で偶然に遭遇した付きまとい大学生へ『塾講師を辞めて松下エミさんの前に現れるな』と注意した件なのか、それさえもうろ覚えの僕は、


「僕の所為せいじゃないと思うし、きっと良心の呵責かしゃくで身を引いたんじゃないかな?」

「そうかな、でも結果オーライね、もしマッキーが私の為に何かしてくれたならお礼しなきゃね」

松下エミさんから『お礼しなきゃ』と言われると、あのエッチな夜を思い出す。


「それをく為に来たの?」

「それも有るけど、槇原マッキーはセフレの私へ『おでんを食べたい』って合言葉あいことばで誘ってくれないのね」


元ラブホのシティホテルで松下エミさんと初体験した僕は翌日、篠田ユミさんから目撃されていた不安から、それ以降は松下エミさんを誘えなかったし、逆に口止めの約束で篠田ユミさんとエッチした後ろめたさも有った。


「顔の怪我と都合が合わなかったから、松下エミさんを避けていた訳じゃない」

「じゃあ槇原マッキー、今からここで私とエッチする?」

筋肉痛と顔と身体が火照る僕は、


「今日は疲労して体中が痛いから、次の機会を楽しみにしたい」

「あ~あれね、槇原マッキー佐藤アイさんを背負って山を降りてきたアレね、女子には評判よ『自分の彼氏に他の女子をオンブさせた天野サヤカさんは尊敬できるって』聞いたわ」


あの一件は全てサヤカの手柄に成っているらしいが、サヤカから頼まれなければ僕が佐藤さんを背負う事は無かったからそれも仕方無い。


偶々たまたまの偶然だよ」

「もしも私が怪我したら槇原マッキーは背負ってくれるかな?」

若しもって、想像の範囲だと思うが、

「僕の前で松下エミさんが怪我したなら背負って歩くよ」

「嘘でも嬉しいわ、その時はお礼するから、あ、予定の時間が過ぎたから戻るね」


松下エミさんが言う予定の時間ってなんだ、松下エミさんが去り、これで静かに寝られると思う間もなく、

槇原マッキー、起きている?」

次は誰だよ、成るべく簡潔に済ましたいから、

「起きているよ、用件はナニ?」

そう言いながらテントのファスナーを開いて、第二の訪問者を招きいれた。


「こんばんわ、篠田ユミです、槇原マッキーが怪我した佐藤アイさんを背負って1km歩いたって聞いたわ」

「そうだね、サヤカが好評だろ?」


「そうだけど、天野サヤカさんは嫉妬しないのかな、私は佐藤アイさんが羨ましかった」

ただの感想なのか自己主張なのか、取り合えず小柄な篠田ユミさんには、

「もし篠田ユミさんが僕の前で怪我したら、躊躇ためらわず助けて背負うよ」


こんな言葉だけで納得してくれれば良いと思うが、

「嬉しい、約束してね、ところで『チーズピザ』の約束セフレを憶えている?」

「ゴメン、一人エッチで欲望を解消していたから、約束セフレを忘れていた訳じゃない」

これは完全に僕の言い訳だが、篠田ユミさんに今はこれしか言えない。


「そっか、私に飽きたと思っていたけど違うみたいね、次に期待して良いのね」

「そうだね、エッチできるタイミングが合うと善いね」


「うん、もう遅いから私は女子部屋に戻るね」

「ユミさん、おやすみなさい」

二人目の訪問者は短時間で帰ってくれた、これで眠れると安堵するが、


槇原マッキー、未だ起きているでしょ、ちょっとお邪魔するわよ」

僕をマッキーと呼ぶ女子は三人、最後は気弱な高身長の小顔でモデル体型の清水アキさんが僕のテントへ訪ねてきた。


秋の夜風が寒いから第三の訪問者をテント内へ招いた。

清水アキさんの用件は何?僕が女子を背負った事なの?もし清水アキさんが怪我したら僕が背負うよ」

「嬉しいけど私は背が高いから迷惑を掛けるよ」


清水アキさんより僕の方が大きいから大丈夫、それで用件は何?」

「あのね・・・」

清水アキさんからの話では、松下エミさんと篠田ユミさん、清水アキさんと僕が知らない藤井マイさんの四人部屋で女子会が始まった。


最初の話題はファッションとスイーツから、推しのタレントとアイドル歌手へ、妄想恋愛の語り合いに、藤井マイさんは実際の恋愛事情を報告する。


『高校生の彼と付き合っているけど、エッチな動画を見た知識で同じ事をして欲しいと願う』らしい。

それは『彼が出したモノを飲み込んで』とか『マイのお尻を使いたい』と要求する。


「ねえ、槇原マッキーはどう思う?彼女が出来たら同じ事を求めるの?」

エッチ動画の行為をしたいかと訊かれても答えに困る。


「それも男の願望に一つと思うけど、相手の同意が無い無理やりは犯罪だね」

「そうか、男性の願望ならパートナーの女性は応じるのかな、私と今からスル?」

口に出すとかお尻を使うとか、エッチがプロの役者が撮影する動画でしょ、野外の狭いテントでは無理だから、


清水アキさんはバージンでしょ、練習しないと高度な行為は無理だよ」

「そうだけど、心だけは恋愛エッチ熟練者ベテランよ、私の約束エッチを忘れないでね」


中学を卒業したら僕と清水アキさんがエッチを確認して女子部屋へ戻っていった。

昔の武将が言った『三本の矢は折れない』では無いが、僕の睡眠時間が減る不安を恐れた。


名和君毛利君と焚き火を囲んだ時より、月の位置が随分変わり午前零時に近づいた。

酔わない梅酒で火照った顔と身体も醒めて、これで眠れると思う頃、


「裕人君、もう寝たの、寝ていてもテントに入るね」

僕を裕人君と呼ぶのは、幼馴染で元モデルの天野サヤカただ一人。

「起きているよ、サヤカの用件はナニ?」

「うん、昼間のお礼に来たけど、先客が有ったみたいで遠慮したわ」


「え、いつ来たの?」

「ええっと、全部で三回、裕人君に悪いと思ったけどテント越しに話を聞いた、三人の夜這いを断ってくれたのね」

松下さんと篠田さん清水さんとの会話をサヤカに聞かれていたのかと思うと、全身に悪寒が走る。


「そうか、テントの外は寒かったでしょ、風邪を引く前に戻ったが善いよ」

「ううん、他の女子が来ると嫌だから帰らない、朝まで裕人君と居る」

そう言うサヤカは僕の寝袋シュラフに入って目を閉じた。


「引率の先生に見つかったら大変だよ」

「善いもん、裕人君と一緒なら退学や転校も平気よ、おやすみなさい」

これは僕の想像だが、女子三人とエッチな話をして居た僕へサヤカは嫉妬から可愛い報復に違いない、まぁ、成るように成れと二人用の寝袋で一緒に眠る。


以前にサヤカから貰った一人エッチ用のハンカチと同じ匂いがして、明け方近くまで眠れない夜を過ごした。

中学卒業までキスしない、高校卒業から進路が決まるまでエッチしない、僕とサヤカの約束は守られていた。

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