第28話 野外学習 ②。
足を
野外料理の定番で僕とサヤカの四班はカレーライスに決まり、料理が得意と言う女子二人とサヤカにカレー作りを任せて、残りの僕と男子二人は
昔は
今晩一泊する『県立青少年の家』から貸し出される
初めチョロチョロ、
蓋から炊き上がる湯気がブクブクと溢れ出し、それが無くなると白米の焦げる匂いがして直火から遠ざける。
飯盒の上下を反して上に向けた底をコンコンと叩き、10分ほど蒸らしてから上下を戻して炊けた白米を確認する。
同じ頃に女子三人が作るカレーも完成して(完成と言っても薄切り牛肉を鍋で炒めて人参ジャガイモも炒めてから分量どおりの水を入れて、野菜に火が通ったタイミングで市販の固形カレールーを投入、とろみが出るまで弱火で煮込む超簡単料理)
飯盒から白米を均等に取り分け盛った皿にカレールーを掛けて、(僕は飯盒の底に出来たオコゲを好んで取る)福神漬けとラッキョの甘酢漬けを添えて、
「頂きます」
と四班の男女六人で手を合わせた。
米磨ぎ、野菜カットの下準備から調理は一時間以上を要して、食事の時間は十五分で終了する。
一年を通じて水温が一定の地下水を汲み上げる炊事場で『女性は手が冷えるから、食後の洗い物は男子がやるのよ』と母から強く言われていた僕は、
「カレー作りを頑張った女子は休憩で女子トークしていてよ」
と飯盒と鍋、食器とスプーンの洗い物引き受けて片付けた。
はっきりとは聞こえないが、離れた場所の女子トークで、
「
お世辞も有っての誉め言葉と思うが、
「私は何もしてないよ、挫いた足首をテーピングしたのも、
サヤカの言葉は
「それでも
女子がサヤカに嫉妬しないかと問う。
「あの時は他に方法が無かったから、それに裕人君は私ひとすじだから浮気を心配しないよ」
聞いている僕が恥かしくなる、蛇口を捻り『ジャブジャブ』と水量を多くして、他の男子へ女子トークが聞こえない様にした。
他のクラスも食事を終えて、男子が中心に飯盒と鍋食器の洗い物を始めた。
水場に立つ僕の横に
「マッキー、カレー一杯じゃ足りないでしょう?」
僕の食欲を知るから心配してくれるのか、
「足りないと思って補助食を持参したから大丈夫だよ」
視線を合わせずに
「じゃねえ」
自分の級友が居る所へ戻って行く
「
それはデンジャラスな誘いというか、引率の体育教師に見つかったら学校謹慎レベルの違反を覚悟しろと言うのか?・・・
「早く寝たいから無理だよ」
怪しまれない理由を付けて、誘いを断る僕が芝生広場でテント宿泊すると言わない。
「じゃあ、またね」
野外宿泊の機会に口約束したセフレ女子の誘いを断り、焚き火と夜食を楽しみに男女別のクラス順で大浴場に入浴して、級友達はそれぞれの四人部屋に落ち着いた。
許可された場所に設置されたフィールドテントを確認して、スペック的には二人用だが、どう見ても成人男性が一人しか使えない小さいテントに入り、持参の二人用封筒型シュラフを広げ、100円ショップで購入した小型コンロとメスティン、マッチ一本で点火できる固形燃料と拾い集めた小枝の薪、ハナ食品のレトルト・クリームシチューと槇原ベーカリー<家業>のバゲット<フランスパン>をカットして持ち込んでいた。
僕の他にも物好きな生徒が居て、隣と言っても二十m以上離れた場所にテントを張っていた。
十月の初旬、午後五時を過ぎると日暮れが進み、クラスメイトが宿泊する『青年の家』の建物から届く明かり以外は光源が無い。
百円ショップのLEDランタンを灯して、レトルトのシチューと蕩けるチーズをメスティンに入れて、小型コンロの火に掛ける。
火力の小ささからシチューが温まり、チーズが溶けるまで時間は掛かるが、自分の世界に浸る貴重な時間と思えば、この時間も嫌いじゃない。
遠くに見えるテントから別のテントへ懐中電灯なのか明かりが移動して、そこから此方に二人が向ってくる。
「槇原君、こんばんわ、ちょっと
二人共に顔は知っているが、同じクラスになってないから氏名を知らない男子。
「僕と話をするのね、善いけど話題は?」
僕の疑問から二人へ尋ねると、
「槇原君と話すのは初めてと思う、僕は毛利孝一、天文学が趣味で街の灯かりが無い此処で夜空を眺める為にテント泊を希望したんだ」
ほ~天文趣味とは天の川を見るのかな、的なレベルの僕は毛利君を初めて知った。
「僕は生物部の名和人志、特に昆虫が好きで春は蝶、夏はカブトムシやクワガタの甲虫、秋は鈴虫コロオギ、ウマオイやマツムシの虫の合奏をテントで楽しむつもり」
お~彼は虫キングなのか、僕は虫や星に興味が無いけど、友好的な挨拶に来た二人へ、
「夕食が足りないからクリームフォンデューを作るけど、良かったら食べる?」
チーズが溶けたクリームシチューのメスティンと、カットしたフランスパンを見せて、毛利君と名和君を試食に誘う。
「うん、美味しそうだね、ちょっと待って僕も差し入れするから」
毛利君が言えば、名和君も続いて、
「僕も夜の食料が有るから」
二人は自分のテントに戻り、手に何かを抱えて戻って来た。
小さなコンロの焚き火を囲み、カットしたフランスパンを金串に刺して。チーズシチューに一度だけ浸して口に運ぶ。
「クリームシチューとチーズが美味いねぇ、これって槇原君のオリジナル料理?」
「テレビのキャンプ番組で見た記憶だけど、違うかも」
天文の毛利君に応える僕へ、
「僕はこれ、槇原君、遠慮なくどうぞ」
缶ジュースを渡してくれるが、見た事の無いドリンクに、
「ノンアルコールの酔わない梅酒だよ、飲んだこと無いの?」
「初めてかも」
僕の返事を聞いた昆虫の名和君は、
「じゃぁ、これも初めてかな?スナック菓子だよ」
小さな焚き火と百円ショップのLEDランタンでは照明には不十分で、渡されたスナック菓子の形と色もハッキリ見えなかった。
プシュっと酔わない梅酒のプルトップを空けて、グビっと一口を飲めば喉にピリリと感じる。
「微か苦味を感じるけど、これ本当にノンアルコールなの?」
「そうね、法律では1%以下は清涼飲料の扱いだから、0,9%のこれは合法なんだ」
酒粕漬けでも酔った僕は父の遺伝でアルコールに弱いと感じる。
「槇原君は僕のお菓子に気付いた?」
「え、なにが、塩味の海老スナックっぽくって、芳ばしいかったけど」
味に不快は無かったが、正体を知らない不安を持ちながら、正直な感想を伝えた。
「それ、油で揚げたコオロギ、勿論市販の昆虫食だよ、毒は無いから安心して」
普通の食品に例えると歯ごたえは
「それ昆虫食専門店の自販機で千円だよ」
千円出すなら僕はまともな食事をすると思うが、千円を出す名和君、恐るべし・・・
小型コンロの火が燃え尽きて解散になるが、生物部の名和君は、
「この地区に熊が居るって聞かないよね、冬眠前だと食べ物を求めて里に出るって」
夏の肝試しで幽霊じゃないが、秋のソロキャンプで別れ際に熊の登場を言うのは止めて欲しい。
酔わない梅酒で顔から体まで熱くなった僕は、テントのファスナーを閉めて下着のみで封筒型の寝袋に入った。
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