第25話 エッチしない理由を考える。

愛を確かめ合う若いカップルが多い、中島公園をパトロールする警察官から逃げるよう走り、息を切らして公園外で笑いあった僕と清水アキさん。


「ねえマッキー、どうして公園でエッチするの、野外が好きなカップルは他人に見られると興奮するとか?」

そんな趣味の人も居ると思うが、僕は別の意味で考えて、


「社会人なら経済的に余裕が有るけど、学生にラブホ代は厳しいと思う」

「え、どうして、自分の家だと駄目なの?」

家族が留守ならチャンスも有るが、平均的な戸建では家族に聞かれたくない声を我慢出来ないと思う。


「普通の家なら自分の部屋からエッチの声を聞かれるし、もし家族が留守でもいつ帰ってくるか心配じゃないのかな、僕も知らんけど」

「なんや、知らんのかい それならこの話は横に置いて話題を変えましょう」


どんな話題に変えると言うのか、少しだけ不安に成る。


「土曜に篠田ユミちゃんとキスしたでしょ、それを日曜の昼に私へ嬉しそうに報告したけど、月曜の朝は何も言わず、火曜の朝は篠田ユミちゃんの雰囲気が変わっていて、私がマッキーのキスを訊き返したら『そんなの忘れた』って言うの、二日で心変わりするって不思議すぎる?」


月曜の放課後、元ラブホから出て所を目撃した篠田ユミさんを、口止めでエッチした僕とセフレの約束で、親友の清水アキさんにも黙秘していると心で感謝した。


「女心と秋の空って言うから、それじゃないの?」

「私と篠田ユミちゃんは白山しろやま小一年からの親友よ、灰原はいばら小出身のマッキーは知らないと思うけど、多分ユミちゃんはバージンを卒業したと思う」


親友なら初体験の微妙な変化も気付くのか、それとも女の勘なのか。

篠田ユミさん本人に訊いたの?」

「そんな事をけないよ、妙に落ち着いているし、大人の雰囲気で上から目線を感じる」

物理的には低身長の篠田ユミさんが、高身長の清水アキさんへ上から目線は無理だと思うが、ここでは精神的な事を言うのだろう。


篠田ユミさんの個人的プライベートな事情を気にしても仕方無いよ、人は人って言うよ」

「そうだけど、親友が先に経験したら、私一人が取り残された気分なの、マッキーは篠田ユミちゃんの変化に気付いた?まさかと思うけどマッキーでバージンを卒業したの?」

それは女の勘と言うのか当てられてドッキリする、僕は出来るだけ平静を装って、


篠田ユミさんが僕とエッチしたって言ったの?」

「いくら親友でも私の想像だけでは訊けないし、訊けたとしても言わないと思う」


「だったら違うでしょ、いつか清水アキさんにも赤い糸に結ばれた運命の人が現れるよ」

「運命の人と巡り合うより先に身体だけでも経験したい、そうだ、こんな事はマッキーにしか頼めない、私とエッチしてよ、婚約者フィアンセ天野サヤカさんには絶対に言わないから」


え、僕がサヤカの婚約者とは、いったい誰に聞いたのだろう。

「誰が婚約者って?」

天野さやかさんが『裕人君と将来を約束している』と私達三人に言ったわ」

三人とは、松下さんと篠田さん、そして清水さんと思う、そうか、最初にサヤカの無事を頼んだ僕との関係を報告したのか。


そして目の前に居る清水アキさんは、小顔で170cm高身長の九頭身、白い肌に細く長い手足の全てはサヤカが諦めたファションモデルに成れるボディスペック。


この地方じゃなく、東京で暮していれば、きっと何処かのモデル・プロダクションにスカウトされただろう。


もしも僕が清水アキさんとエッチした事がサヤカの耳に入れば、嫉妬よりリストカット自傷する可能性が無くは無い。


清水アキさん、親友が初体験したとしても仲間ハズレにされて無いでしょ、少し落ち着いて考えようね、そうだよ人に聞いたけど、清水さんは美少年 アイドルが好きなんでしょ?」


「うん、私はイケメンが好きだけど、気が弱くて内気で人見知りでしょ、だから恥かしい事を経験者の槇原マッキーに頼むのよ」

「僕が経験者とは?」


天野サヤカさんとキスやエッチをしているでしょう?」

「サヤカとはキスは中学卒業まで、エッチは高校卒業で進路が決まると決めている」


「そうか、親公認の婚約で清い交際って大変ね、じゃぁマッキーは未だ童貞なんだ」


人見知りを自覚する清水アキさんは僕に対して童貞と言って恥かしくないのか、有る意味で失礼だと思うが否定しないし、取り合えずこの危機を回避する為にいつもは省エネの思考を駆使する。


「僕だって無理して人に合わせて会話してるし、親友が一人も居ない人見知ひとみしりだよ」

橋本ハッシー君は槇原マッキーの親友じゃないの?」


ハッシーは君付けで、僕は呼び捨てかよ・・・


橋本ハッシーは親友と言うより、小中まで8年間の腐れ縁だよ、あ、そうだ、制服を頂いた叔母さんにアキさんを無事に送るって約束したから、今日は駄目だよ」


「今日が駄目なら、マッキーはいつなら良いの?」

何時いつかれても悩む頭の中に天使のホワイト・マッキーが『サヤカを婚約者と思うなら愛の無いエッチは出来ないと家に送るべき』と言い、悪魔のブラック・マッキーは『据え膳食わぬは男の恥、一人犯るのも三人犯るのも同じだろ、男の本能で素直に成れ』と囁く。


白い天使と黒い悪魔のどちらに従うべきか、と言うより伏線を張りすぎて今後に回収出来ない不安から、

清水アキさん、約束は必ず守るからエッチするのは卒業式まで待って欲しい」

この場は先送りで、将来イケメンと出会うかもしれない清水アキさんの心変わりに期待したい。

「それ、私とマッキー、誰にも言わない二人の密約なのね」

「勿論、そう理解いただけると有り難い」


夜の公園でカップルのエッチを覗き見して、パトロールの警官に補導から逃走する吊り橋効果から、親友と同じ様にエッチしたい清水アキさんの錯覚と納得する。


『変わりやすい女心と秋の空』に期待して、清水さんを家に送り僕も帰宅した。

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