第24話 夜の公園。

 清水アキさんの紹介で伯母さんを訪ねた僕は、息子さんが高校時代に着ていた学生服を頂いた流れで夕食をご馳走になった。


 僕が学生服を取りに来たかと、伯母さんを訪ねた清水アキさんも一緒に食事して、用は済んだから一人で帰ると言う。


 僕を清水さんの彼氏と信じている伯母さんは、

「槙原君、帰りはアキナちゃんを家まで送ってあげて」

 高身長のコンプレックスで、気が小さい清水アキさんは僕に遠慮すると思う。


「そうね、伯母さんの言うとおり、女子一人で帰るのは不安だから槙原マッキーに送って貰うわ」

 意外な返事に少し驚くが、もし一人で帰る清水アキさんに何かが有ったら取り返しがつかない。


「はい、僕が責任を持ってアキナさんを無事にお届けします」

 中二の男子が取れる責任なんてたかが知れているけど、めいを心配する伯母おばさんを安心させるには充分だと思う。

 ◇

 僕一人なら駆け足で帰るが、ここは女性の歩幅に合わせたペースで歩く。


 九月下旬の午後六時、日暮れてからは昼の暖かさが嘘のように冷える。


「マッキー、何か私に言う事は無いの?」

「そうだ、学生服を探してくれて有難う、でも僕が篠田アキさんの彼氏って何で?」

 何か言う事は無いのとかれ、制服のお礼と彼氏の真意を尋ねた。


「それはアレよ、マッキーが彼氏の設定なら伯母さんに頼みやすいし、マッキーも遠慮なく受け取れたでしょ」

 確かにそうだと納得して、逆にそれ以外は何が有るのか想像できない。


「そうだね、清水アキさんの言うとうり、変な事を訊いてゴメン」

「別に良いけど、私から槇原マッキーに訊きたい事も有るけど良いかな?」


 清水さんが僕に訊きたいとは何の事だろう、言えない事だと答えに困るなぁ・・・

「解る範囲でお願いします」

「事実確認の意味で訊くけど、土曜日に篠田ユミと一緒に焼き肉バイキングと中島公園に行ったでしょう?」


 あぁあれの事か、

「うん、中島公園に行ったけど、それが何かな?」

「イチャイチャするカップルが多くて有名なエロ公園で槇原マッキーとキスしたって、篠田ユミは嬉しそうに私に自慢した、これ否定する?」


 女子は女友達にそんな事も話すのか、ユミ本人の報告ならアキは疑わないだろう。

「うん、僕と篠田ユミさんはその場の雰囲気に流されたのかな?」

「マッキーは否定しないんだ、ユミはマッキーの膝に座ってキスされて、胸を揉まれたのも事実なの?」


 心臓がドキドキすると言われ、僕の手を胸に当てたのは篠田ユミさんからだけど、結果的に同じ行為を否定出来ない。

「そうだね、清水アキさんの質問はもう良いかな?」


「マッキーからユミにキスして胸を揉んだって、本当なんだ、、、ズルイよ」

 え、ズルイって意味不明で清水アキさんは何を言いたい。


「私だってキスしたかったけど、天野サヤカさんに遠慮して壁ドンとお姫様抱っこで我慢したのに」

 ここでサヤカの存在を言われると、サヤカの事を頼んだ僕は従うしかない。


「じゃあ、篠田ユミさんと同じ様にキスすれば納得してくれる?」

「うん、中島公園のベンチでね」

 平等に場所まで指定してのキス再現か、土曜より平日の今日ならイチャイチャするカップルも少ないと気楽に考えた。


「そうだね、今から中島公園に行こう」

「マッキーの膝に座って好い?」

 どうにでも成れ、的な気分で『好きにしてよ』と口走ってしまった。

 ◇

 夜の闇に包まれた中島公園、所々の白色LED照明灯がその足元だけを明るく照らす。

 照明から離れた薄暗いベンチはカップルに人気で既に満席、照明に照らされたベンチは全て空席で、必然的に僕と清水アキさんはそこに座った。


「私、こういう事は初めてだからマッキーからしてよ」

 清水アキさんのファーストキスが僕なんかで良いのか、少し迷うがキスしないと終われないなら、キス決行すると覚悟して『チュ』と唇をアキさんの唇に重ねた。


「よく判らなかったから、もう一回して」

 僕は清水アキさんの唇が柔らかいと感じたが、清水アキさんの唇は鈍いのか、それなら僕も始めての濃厚キスで舌を入れて絡めた。


「アアン、刺激が強くて腰が抜けそう、次は私の胸を揉んでよ」

 あの時は篠田ユミさんの胸を揉むと言うより、心臓の鼓動に手を当てたレベルを清水アキさんの『胸を揉め』と言うのか、


 どう成っても知らんぞ、松下エミさんと篠田ユミさんで女性を経験した僕の理性は性欲と戦っている。


 キスと同時に清水アキさんへ服の上から上品な左胸を揉んだ。

 女性のオッパイは大きくても小さくても柔らかい、僕的には茶碗サイズがベストと思う。


 これで清水アキさんは満足したと思う僕へ、

「ねえ、茂みの向こうにカップルが見えるけど、あ、女性が下半身半裸で男性が後から腰を振っているよ」

 眼鏡が必要ない僕でも半裸のカップルが見えないけど、清水アキさんは夜目が効くのか、


「ねえマッキー、もっとカップルのエッチを見ましょう」

 見ましょうって、イチャイチャ行為はテレビや映画じゃない、これは覗きだよ。


「公園の奥まで行くと暗くて危ないよ」

「マッキーが命がけで私を守ってくれるでしょう?」

 性的好奇心を抑えられない清水アキさんは、僕の手を引いて公園の奥へ進んでいく。

「もしもの時は僕が時間を稼ぐから、清水アキさんは先に逃げてよ」

「え、槇原マッキーは悪人と戦わないの?」

 僕は勧善懲悪のヒーローじゃない、殴られれば痛いし、人を殴れば自分の手も痛いからバスケが出来なく成るのはゴメンだ。


「逃げるが勝ちって、昔の人は善い事を言ったと思う」

「分かったわ、マッキーを見殺しにして全力で逃げるね」

 それはそれで面白くないが、最低限の被害にとどめる方法に違いない。


 口だけでも僕に守られると安心する清水アキさんは、得意の夜目で見つけたラブラブのカップルに近づき、声を殺して行為を凝視する。


 公園の何処からか、

「パトが来た!」

 男性の叫ぶ声が聞こえると、何処に居たのかと思う数組のカップルが身なりを整えながら一斉に逃げ出した。


 手にライトを持った二人組みの制服警官を目視した僕は清水アキさんの手を引いて走り出し、

「急いで、エッチな公園で補導されたら『不純異性行為』で謹慎処分だよ」

「見ているだけで不純異性行為なの?」


「覗きで補導だよ、公園の出口まで足を止めないで」

 二人三脚じゃないが手を繋いで走るのは一人で走るより遅い、息を切らして公園の外周歩道に出た安心から、僕と同時に清水アキさんも大きな声で笑った。


「マッキー、これって吊橋効果よね」

 吊橋って何だ、意味不明な僕へ清水アキさんは、


「男女が同じ危険に遭遇するとドキドキしてお互いが好意を持つ意味よ」

 ドキドキで僕が清水アキさんを好きに成るのか、それは違うと思うが口に出して否定しない。

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