第14話 女子のリクエスト②。

清水さんの希望が終わり、残る二人の松下さんと篠田さんへ、

「次の人も壁ドン?」

用件を訊く僕に、

「女子が一人で入りにくいお店に連れてって」

三人の中で一番小柄な丸顔の美少女、篠田ユミさんが言う。


「どんな店?」

「国道沿いの焼肉バイキング、一度も行った事無くって御馳走するから、私の両親も小食だから今後も機会が無いと思う」


灰原中学校から歩いていける国道沿いの『まんぷく牛太郎ぎゅうたろう』は、90分制限の焼肉バイキング店。

牛豚鳥の焼肉からソーセージにコロッケ焼きそば、諸々のお惣菜と野菜サラダ、カットフルーツとプチケーキ、六種類のアイスに自分で作るソフトクリーム、サービスチケットが有ればフリードリンク、過去に僕は両親と2度程訪れた。


「先に言っとくけど輸入肉で美味しくないよ、それと僕は食事に集中するから必要以外の会話しない」

「うん、それで充分、一度体験できれば良いの」


篠田さんのリクエストは焼肉バイキングに同伴して欲しい、しかも色気より食い気の僕に御馳走してくれるとは有り難い、御馳走を断る理由は無い。


もう一人の女子、松下エミさんへ、

「松下さんは?」

「マッキー、私の希望は明日の練習試合後に時間を頂戴」

明日を希望する松下さんは、壁ドンでも食事でも無いらしい。

徒歩の僕と自転車を引いて歩く篠田ユミさんを花で例えるなら、誰からも愛される清純な白いチューリップと思う。


「マッキー、まんぷく牛太郎の注意点って有るの?」

初めて訪れる飲食店のルールを訊くのだろう。


「うん、一応だけど料理のお残しは罰金とか書いてあるけど、支払う人を見た事は無い。

お腹が張るから作り置きの焼きソバとコロッケは取らないで、から揚げとロール烏賊いかも解凍で美味しくないし、寿司も有るけど腹に溜まるから好きなネタだけ選んで、意外にカレーと自分で作るハーフサイズのラーメンが美味しいとか、デザートとフルーツは焼肉に飽きてからから、そんな所かな」


僕の簡単な説明で篠田さんは驚いた顔で、

「マッキーはバイキングの達人なの?」

「そんなの普通だよ、ア、そうだ、料金は入店時に前払いね」


店頭横の駐輪場に停めて入店、篠田さんが料金を支払う横から『これをお願いします』と僕はフリードリンクのサービス券を出す。


女性スタッフからドリンクのプラコップを受け取り、案内されたテーブル席で『あっちのテーブルにして下さい』

僕の希望でテーブル席を代えて座った。


「何で?」

バイキング初心者の篠田さんは僕に理由を尋ねる、

「あそこの席じゃ食材コーナーから遠いでしょ、テーブルの横を客が歩いてうるさいけど、何度も取りに行くから距離と往復の時間が勿体無い」

それがバイキング料理の要領というか、効率的に考えれば誰でも分かる説明に、


「そう言う事ね、それで何から取るの?」

「テーブルから離れる時は貴重品を身に付けて、僕の真似してトレイを持って」

茶色の四角いトレイに白皿を三皿乗せて、最初にお勧め『厚切りリブロース』を二枚、僕はカルビを五枚、女性の篠田さんには脂身の少ないロースを食べられるだけ、時間の掛かる焼きコーンや玉ねぎは後から取って、好きな野菜でサラダを作るが、コストの高いブロッコリーやトマトを中心にチョイスして、僕は好みで和風ドレッシングを掛けた。

短時間でテーブルに戻り、トングで最初は牛肉から焼き始めて、食べ頃までの時間に野菜サラダで胃の調子を整えてから焼けたカルビとリブロースを頂く。


「マッキーって大食いよね、お肉だと何グラムくらい食べられるの?」

「う~ん、スーパーの特売でアンガス牛の900gを食べたけど、食べ放題ならもっとだね、このリブロースが約180gだから6枚は食べないと1kgを越えないな」


「本当に1キロのお肉を?」

「うん、そうだよ、これ食べ頃だよ、焼きすぎると硬くなるから」


食事開始から20分経過で僕は食事を一時休止、対面に座る篠田さんも、

「私も満腹、お肉よりデザートのプチケーキとフルーツで頑張るわ」


一口サイズのチョコケーキとモンブラン、チーズケーキにカットメロンとバレンシアオレンジにパイナップル、白玉ぜんざいにセルフのソフトクリームを乗せて戻ってきた。


僕の母も同じで『甘いものは別腹』と満腹でも、デザートのケーキとフルーツなら入ると言う。

15分ほどの休止で胃の内容物が消化された僕は食事を再開して、五枚めのリブロースと壺漬けカルビ5枚を食して二度目の休憩するころ、デザート類に満足した篠田さんは、

「本当に満腹、私の為に急がなくて善いよ、マッキーが食べ終わるまで待ってる」


二十分の食事と十五分の休憩で1Qクオーター35分のバイキングタイム、2Qクオーターで70分、90分制の残り二十分が最終の第3Qクオーターは7枚目のリブロースと、美味しいカレーライスを二皿とハーフサイズの醤油ラーメンに好物のメンマと刻み葱をたっぷり乗せて、胃の空いたスペースを埋める僕、


「マッキー、私が食べたい物を取ってこようか?」

「それじゃあ、タンパク質の消化酵素を含んだパイナップルとキウイとグレープフルーツを二カットづつと、ドリンクを一杯ほしい、あ、コーヒーは成長を邪魔するからウーロン茶かな?」

誰かが言っていた『カレーは飲み物』を思い出して、同時にハーフラーメンも消費する頃、篠田さんが僕のリクエストしたカットフルーツとウーロン茶を届けてくれた。

「マッキー、気持ち善いくらいの食べっぷりね、惚れ惚れしちゃう」

同級の女子に大食いを誉められるなんて初めてで少し照れ臭い。


最後のウーロン茶で食事終了、両手を合わせて『ご馳走様でした』と食べ物の神様に感謝する。


「凄いね、本当に牛肉だけで1kg以上食べちゃうし、他に豚トロやお寿司とラーメンやカレーライスに山盛りサラダ、リアルな大食いフードファイターみたい」

篠田さんは何度も驚いて言うが、中学生男子で育ち盛りの食欲なら普通と思う。


女性スタッフに入店時のカードを見せて、制限時間をオーバーしてない確認からミント味のキャンディを受け取った。


これで篠田さんのリクエストは終了したと思う僕へ、

「お腹がいっぱいで歩きたくない、マッキー、私を自転車の後ろに乗せてよ」


校則で禁止されている自転車の二人乗りか、土曜の夕方なら誰かに見つかる心配は無いと思い、

「それじゃあ篠田さんまで送るよ」

日が暮れて秋の夜風が食後の火照った顔に涼しく心地良い、自転車の荷台に座り僕の腰を掴む篠田さんは、

「ちょっと中島なかしま公園で寄り道してお話しましょう」


広葉樹の緑が深い中島公園の夜は、イチャイチャするカップルが多い有名なラブスポットを気に成らないわけじゃない。

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