第13話 女子のリクエスト①。

近隣三中学バスケ部との練習試合は、ベンチの控えメンバーと下級生で3連勝した。

午後三時で試合を終えた三中学の送迎車を見送り、気温に近い温水シャワーを浴びて、灰原中学のバスケ部員で体育館の床掃除と戸締りで解散に成った。


相思相愛と言うのか、キャプテンの橋本ハッシーは女子マネの吉田さゆりさんと手を繋いで帰っていくその後姿を見て『二人が上手くいくと良いな』と心から願った。

「マッキー、3試合とも活躍して、お疲れ様ね」

驚いて後を振り返るそこには、女子バスケ部のキャプテン松下エミさんと篠田ユミさん、清水アキさんの三人が揃っている。

「練習試合を見てたの、県大会出場は駄目だったけど、女子はどうだった?」

興味は無いが社交辞令的に女子チームの成績を訊くが


「一回戦は勝利したけど二回戦で敗退、私たちは課題満載よ、ねぇマッキーは私達に天野さんの無事を頼んだよね、世の中ギブアンドテイク、お礼をリクエストさせてよ」


天野サヤカの転入時に、僕は学年女子カースト上位の三人へ『トラブルに巻き込まれないよう見守って』とお願いしていた。

男女とも人気の三人から『元モデルの天野サヤカさんを阻害するな』と伝わり、サヤカは灰原中学の生活に馴染んでいた。


リクエストされて少し不安を感じるが、些細な事でも借りを残すのは宜しくない。


「僕が何をすれば良いの?」

女子三人で一番背の高い清水アキさんへリーダーの松下エミさんは、

清水アキちゃん、槇原マッキーの気が代わらないうちに言いなさいよ」

高身長な清水さんの背中を押した。

花に例えるなら『黄色いヒマワリ』みたいな、推定身長170cm越えの清水さんは、元モデルのサヤカが望むような小顔で手足が長く、スリムなモデル体型でも気が小さいのか、モジモジ躊躇ためらいながら、


「マッキー、私は高身長がコンプレックスで色々な恋愛モードに憧れるけど・・・」

「だから、何がしたいの?」

少し意地悪な訊き方をしたが、それを見ている松下さんと篠田さんはなにも言わない。

「凄く恥かしいけど、背が高いマッキーで私に『壁ドン』『顎クイ』を写真に撮って」


壁ドンと顎クイを聞いても、それを見たことも無いが、

「どうするのか説明してくれれば善いけど、写真をネットに上げないって約束して」

「有難うマッキー、こうしてそうして、松下エミちゃん、お願い」


清水さんは松下さんへ自分の携帯を渡して、壁に背中を当てたポーズから、僕へ視線で始まりのサインを送る。


「こんなのか?」

清水さんの顔の横に『ドン』と手を突いて静止すると、携帯から連射音が聞こえて、

「次のポーズは顎クイよ」


説明とおり清水さんの顎を僕は指先で摘み、クイっと持ち上げた。

「マッキー、アキに顔を近づけて今にもキスしそうな距離で」

素人カメラマンの松下さんからの指示で、清水の顔をアップで見た、と同時に女の子らしい石鹸の匂いにドキドキした。


「マッキー、顔を赤くして本当の恋人みたいね、はい、次がメインよ」

壁ドンと顎クイだけじゃないのか、松下さんが言うメインって何だよ。


「もう、アキ、自分で言えないのね、マッキー、アキを『お姫様抱っこ』しなさい」

お姫様抱っこってなに?少女マンガや恋愛ドラマを見ない僕に取って『謎のワード』ですと叫びたい。

体が固まり何も出来ない僕へ、松下さんは両手で赤ちゃんを抱えるジェスチャーを見せて、

「結婚式で新郎が新婦を両手で抱っこする記念写真が『お姫様抱っこ』よ」


なるほど、それなら分かりやすいと清水さんの顔を見る僕へ、

「マッキー、私、重かったらゴメンね」

重いとは体重の事か、パン職人の父を手伝い25kgの小麦粉を三袋を一度に持ち運んだ記憶から、

「小麦粉の75Kgなら持てたから、きっと大丈夫だよ」

「幾ら何でも、私、そんなに重くないって」

ちょっと怒ったように清水さんが言う、きっと僕は失礼を言ってしまったのだろう。


「ゴメン、手が滑って落としたら危ないから、僕の首に両手を回して」

僕の右手で清水さんの左腋から右腋へ、左手で膝下を持ち上げる、清水さんは両手で僕の首に手を回して『お姫様抱っこ』のポーズを決める。


木綿の布団はズッシリ重いが、羽毛布団はフンワリ見た目より軽い、それに近いと、

「清水さんは思ったより軽いよ、背が高くても筋肉が少ないのかな?」


僕の何気ない一言でも、清水さんの気に触ったのか、

「マッキー、何度も失礼よ、エイ、キスしっちゃったウフフ」

両手で抱っこした僕の首に手を回した清水さんは顔を近づけ、僕の右頬に唇でキスして報復したらしいが、唇と唇の接吻しかキスと思わない僕は平気に、


「ほっぺにキスって子供っぽいな、それ位で僕は気にしないけど」

壁ドンからお姫様抱っこのスマホ撮影で、清水さんのリクエストは終了した。


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