第11話 定期テスト。

定期テスト前の一週間とテスト期間中の一週間は、部活動停止で学習に専念する。

その期間は宿題を出されないから、サヤカの家に行かなくて済むと密かに安堵した。



「裕人君、私の家でテスト対策するからね」

「え、サヤカのうちで僕もテスト勉強するの?」


「裕人君、まさかと思うけど、私と宿題を終わらせても家で予習復讐をしているでしょ?」

「あ、うん、勉強していると思う」


「その口振くちぶりだと一切勉強してないね、今日から毎日、私と一緒に学習するわ、これは命令よ」

サヤカの言うとおり宿題を終わらせた僕は、家でその日に取ったノートを見る程度の復讐で済ませていた。

自宅の怠惰な暮しを図星された僕はサヤカに従い、テスト勉強を始めた。


転校して始めての定期テストでサヤカの学力が分かると僕は期待した。

「うん、再試験で部活禁止に成らない様に頑張るよ」


定期テスト前でも学校の授業は同じ様に6時間目まで有って、体育の時間はグランドや体育館も使用できるが、いつもと違うのは職員室へ立ち入り禁止で用事が有る生徒はドア越しに声を掛けて、該当の先生を呼び出してもらう。


授業中のサヤカは真面目にノートを取り、テストに出そうな要点をまとめて一科目200点の予想テストを作成した。

「はい、裕人君、私が作った予想問題よ、満点の200点を目指して私と競争よ、ヨーイどん」


まともな説明も無く『競争よ、ヨーイどんって』予想問題を作ったサヤカは満点でも始めての僕には無理がすぎる。

マイナス的思考で文句を言いたいが、横に座るサヤカはスラスラとプリントにシャープペンを走らせる。


算数理科は未だ良いが社会はソコソコ、国語と英語は冷や汗を掻きながら苦戦する。


「出来たの、裕人君、私は終わったわ、残りはどれ位?あれれ、今日は調子が悪いの?医者に行かなくて大丈夫?」

あ~何とでも言ってくれ、これが僕の学力なんだ・・・


「ちょっと調子が出ないみたい、本番ではもっと頑張るよ」

「そうよ、裕人君が頑張って私と同じ高校に入らないと寂しいからね」


「サヤカと同じ高校って初めて聞きましたが、どちらを志望なんですか?」

「夏休み明けから転入した私が訊きたいわよ、一番はどこなの?」


この地区から東大京大を目指すなら、偏差値70の黒松高校、次は65の白梅高校、僕が志望する偏差値58の青竹高校は、野球とサッカー、バスケと陸上のスポーツが盛んで、バスケ部は全国大会出場の常連校に決めていた。


「ランキングのトップは黒松高校だけど、僕の志望校は違うよ」

「私と裕人君は高校で別れ別れに成るの?そんなの嫌よ、頑張って一緒に黒松高校へ入ろうよ」


「僕の学力じゃ無理だし、黒松高校にバスケ部が無いと聞いたから、強豪バスケ部の青竹高校に行きたい」

予想プリントを解く僕のペンが止まり、サヤカ沈黙して数秒が・・・


「あのね、裕人君がバスケを上手くても強豪校でベンチ入り出来るの?最後の大会までスタンドで応援するバスケ部員って可能性は有るでしょう?」

そうだよ、中学バスケの県大会から全国大会で活躍して、青竹高校からエリート推薦のセレクションを受けた話を聞いた事が有る。


年間50人以上の新入部員から10人前後が残り、合宿所で上級生と下級生に混じってレギュラーを目指す切磋琢磨の環境に僕は身を置けるのか、不安が無い訳ではなかった。


「志望校に関しては後日、要応談ね」

それから一週間、部活の無い週末の土日は朝から母のお弁当と、父が焼いたパンをお土産にサヤカの家を訪ねて、定期テスト対策に励んだ。


食用パンと菓子パンを受け取ったサヤカのママ、エミリさんは大層喜んでくれて、

「裕人君 のアンパンとコロッケパンに明太子パン、凄く美味しいよ、なにか秘密は有るの?」

エミリさんが訊く秘密って、同じ円城寺商店街の肉屋さんのコロッケと、和菓子屋さんの餡子、魚屋さんの明太子を仕入れて人気パンを提供しているから、もし商店街の店が閉店したら、父の製パン店から人気のパンが消える。

常々『同じ商店街は持ちつ持たれつ』と父は言う。


数日後、定期テストは終わり、再試験と部活停止の危機を逃れた僕の五科目合計点は400点から430点に上がった。

「裕人君はあれだけ頑張ったのに、何で430点なの?」

「人には向き不向きが有るし、来年の受験まで時間をかけてガンバルよ」


テストが終了した金曜、明日からの練習試合に心が躍る僕は、今日まで部活停止の体育館へ自主的床掃除に来た。


モップを手にして足を滑らせない様に、バスケットコートの塵と埃を拭き取る。

何回か掃除用モップで往復して、バッシュが無いから、体育館シューズで滑らないか確認していると僕の後から、

「マッキー、なんで一人で掃除してるの、ハッシーには声を掛けなかったの?」

女子マネの吉田サユリさんが声を掛けて訊くが、

さやかと過ごしたテスト期間で、旧友ハッシーの存在を忘れていた。


「手伝いが無くても一人で出来るから、それで吉田さんは?」

コレが僕の余計な一言だった。


「特に用は無いけど・・・あ、マッキー、天野さんの件で私に貸しが有ったね」

サヤカが突然に訪れた市大会の事か、憶えているが忘れた振りで済まそう。


「何の事かな?」

「憶えてないとは言わせないわよ、って言うより私の相談なんだ」

相談って聞かなきゃ良かったパターンでしょ、理由は無いが、嫌な予感がする。


「僕に出来る事なら頑張るけど、出来ない事は諦めてね」

十四歳の僕が考えられる精一杯の予防線を張ってみるが、

「出来る出来る、マッキーなら軽々とクリアするよ」


僕の予防線を吉田サユリは軽々と飛び越えてきた。

「はぁ」

「あのね、マッキーってハッシーと仲が良いよね、ハッシーに彼女は居るの?」

とか訊かれても僕の記憶にハッシーの彼女は無い。


「居ないと思うけど、何で?」

「じゃぁさぁ、ハッシーが好きな子って居るかな?」

そんな話をした記憶も無いし、小学生の頃のハッシーは人気者でも誰が好きとは聞いてない。

近隣の小学校が三校集合する灰原中学で出会った吉田サユリは、小学校時代のハッシーを良く知らないのだろう。


「さぁぁ、好きな子が居るとか僕は知らないなあ」

「そこで本題です、マッキーが私とハッシーを橋渡しして、これで貸し借りはチャラって駄目かな?」


いつも強気な吉田さんは照れと遠慮があるのか、少し意地悪と思うが僕は、

「自分でハッシーに告白したらどう?」

女子マネの吉田さんは見る見る顔を紅潮させて、

「私の性格で告白で来るはずが無いでしょ、分かってよマッキー」


ほほ~ん、自分の強情な性格をご存知の様で、良く言えました誉めてあげますねパチパチ、心の中で賛辞を送り、

「少し待って、タイミングを計ってハッシーに言って見る」

「なんて言うの?」


「そうだな、よく見ると吉田さんって可愛いとか、隠れ巨乳とか、ハッシーの好きなアイドルにソックリとか」

「それって詐欺じゃないの?」


「人の好みは其々だから、吉田さんの顔がハッシーにはハマルかも?」

「マッキーって意地悪ね、でも頼んだわよ」

何かを思い出せなくて、後々考えると僕は地雷を踏んでなかった。


床掃除を終えた体育館の鍵を教官室に戻して、この日は一人で家路についた。

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