第10話 本音で語る。

一回戦の上社じょうしゃ中に苦戦しながら勝利した僕達は早めの昼食にした。


持参した母の手弁当や、コンビニで購入したお握りパンでチームのメンバーは数人に別れ、試合の反省と意見交換からどうでも良い与太話よたばなしに花が咲く。


突撃応援で騒動を起こしたサヤカは、女子マネの吉田さんと小松さんに混じって女子会トークで盛り上がっていた。


体育館 そとの木陰で僕は小学校からの友、キャプテンの橋本ハッシーと雑談を始めていた。

「俺、いつも冷静なマッキーのガチな緊張を始めて見て、ちょっと嬉しかったよ」

ハッシーの言葉を理解出来ない僕は、

「それって、どう言う意味?」


「背が高いマッキーの上から目線を感じていたけど、緊張が面白かったよ」

「勝てたから笑えるけど、もし一回戦で負けていたら、人生のトラウマだよ」


小学生の橋本ハッシーは少年野球で頑張っていたが、中学入学時にミニバスケ経験が有る僕へ、


「やっぱり、マッキーはバスケ部に入るの?」

そうだよ、中学のバスケ部にミニバスケの先輩が居て、スカウトと言えば聞こえは善いけど半強制的にバスケ入部となった。


小学時代の橋本ハッシーは成績が良く、級友や教師にも人気の生徒会長で、スポーツ万能でも人に言えないコンプレックスが有った。


「なあ、マッキー、バスケ部に入ったら俺の身長も伸びるかな?」

低身長の男子がバスケ入部で背が伸びると期待する、バスケ部の有る有るでも実際は元々高身長の男子がバスケ部かバレー部を選択する。


極希ごくまれにバスケに入部した低身長の男子が、成長期で年間5cm以上背が伸びるけど、子供の頃から背が高い僕は『身長は親の遺伝要素が大きい』と思う。


橋本ハッシーは中学から始めたバスケで、天性の身体能力からキャプテン就任と160cmから165cmまで背が伸びて、其れなりに納得しているがあと5cm伸ばしたい、満足ではないと言う。


そんな橋本ハッシーは突然に話題を変えて、

「やっぱり槇原マッキーは凄いよな、あんなに美人で有名な彼女と付き合っているだろ」

確かにメイクしたサヤカを今日初めて見た僕はドッキリしたが、学校内では交際してないと主張する。


「色んな意味で違うけど、僕とサヤカは幼馴染なだけだよ」

槇原マッキー、誰にも言わないから、親友の俺とは本音で語ろうぜ」

小中同じ八年を共にした橋本ハッシーは真顔で僕の目を見つめて言う。


その気迫に押された僕は、

「確かに橋本ハッシーは僕の親友だな、絶対誰にも言うなよ」

「ああ、男と男の約束だ、口が裂けても言わない」

口が裂けても言わないハッシーの約束を信じる僕は、


「あぁ、サヤカはモデルに戻らないって言うけど、未来の事は誰にも分からないだろ、もしもサヤカがタレントかモデルに復帰して『昔の元彼です』とか僕の存在がサヤカの迷惑に成る可能性はゼロじゃないと思う」

「じゃぁ、槇原マッキー天野サヤカさんの為を思って交際してないって?」


「それに中学生の男女交際って、どこまでがセーフで、どこからアウトなんだ?」

「そうだなエッチしたい男子が求めてもキスまで、それ以上は不順異性交遊だろ」


橋本ハッシーはキスだけで我慢できるのか?」

「その場に成らないと分からない、でも彼女が欲しいけど告白出来ない」


小学生の頃なら足が速い、勉強の出来る男子は女子にモテる、その両方を兼ね備えた当時の橋本ハッシーは女子からバレンタインのチョコを幾つも貰っていた。


僕は橋本ハッシーが告白出来ない理由を何となく分かる、

「告白出来ない理由って、身長コンプレックスかな?」


親友から直球ど真ん中の質問に、橋本ハッシーは苦笑いを見せて、

「そうだよ、槇原マッキーの言うとおり、しかも告白したい女子はマネの吉田さんだよ」

気が強いというか、常識や校則に厳しい吉田サユリ、霊長類最強の女性と名前は似ているが、その容姿は歌劇団の男役女優の凛々しい雰囲気を漂わせる。


「吉田さんかぁ~ 付き合うのは難しそうだな」

「俺が告白しても、絶対に瞬殺で断られると思うだろ?」


橋本ハッシーは若いから一度くらい玉砕しても、何度でも挑戦できるよ」

槇原マッキー、俺が玉砕するって、人事ひとごとだから、簡単に言えるんだろう」


僕とハッシーの雑談は誰にも邪魔されず、午後から2回戦の試合開始に後輩が、

「ハッシー、試合前の練習だよ、あ、マッキー先輩、コート前に集合してください」


「おい白川、キャプテンの俺にはタメ口で、マッキーに敬語って何だよ」

後輩の言葉使いに気付いた橋本ハッシーの言いたい事は僕も分かる。


「マッキー先輩は大きくて顔も怖いし彼女さんは美人で、1年全員は気を使ってます」

そう説明する後輩の白川に僕から、

「人に優しい僕が怖いとは君達の偏見だな、見た目だけで判断するなよ」

「済みませんでした、急いで集合してください」


逃げるように去る後輩を見て、橋本ハッシーは、

「マッキーの顔が怖いって、まじでウケるな、さあ次は確実に勝とうぜ」

気心知れた親友は皮肉を込めて笑った。


午後の2回戦、対戦相手は岩田中学、一回戦の緊張も無く実力を発揮した僕達の灰原はいばら中は82-15で圧勝した。

二回戦を勝ち残った西部体育館の4校と、南部体育館の4校は翌日の準々決勝で決勝を目指す。

翌日曜、南部体育館に会場を移して始まる準々決勝、僕達は清水中学と対戦した。

77-46、試合途中でスターターから全員サブメンバーに交代しての楽勝で、

「俺たちって強いよな」

控えメンバーの意味無い自信から余裕の発言に、

「油断すると足元を掬われるぞ、勝って兜の緒を締めろって言うだろ」


さすがキャプテンの橋本ハッシー、良い事を言うなぁ、僕は感心する。

八校で始まった三回戦の第一試合で勝利した僕らは、第三試合の準決勝で八幡中学に気持ちを引き締めて全力で対戦した。


主力メンバーの1クオーターで15点差リードから試合終了まで逆転されることも無く勝利した。

Aブロック決勝の相手は予想したシード校の白山中学、上の学年は県内有数の強豪校だったが新チームでの対戦は無く、この試合に勝てば県大会出場のプレッシャーよりワクワクした高揚を否定出来なかった。


クオーター八分での第4クオーター、残り5秒で42-44のビハインド、僕達 灰中ばいちゅうの攻撃、ラストワンプレイにSGシューティングガード内田ウッチーは逆転の3ポイントシュートを打った。

ゴールリングへ向けて飛ぶボールを追い、もし外れたらと僕はリバウンドポジションを取った。

入れば逆転勝利の3ポイントシュートは、リングに嫌われたボールのリバウンドを取った僕は瞬間に、同点の2点確実レイアップシュートより3ポイントラインで手を上げる橋本ハッシーへ逆転の望みを込めてパスで繋いだ。


橋本が放つ3ポイントシュートと同時に試合終了ブザーがコートに響く。

ゴールリングに入ればブザービーターで逆転勝利、外れればこの試合で敗退。


ガツンとリングからシュートは跳ねて、灰原中学は県大会へ進めなかった。

Aブロック準優勝の好結果でも初めての負け試合に、僕は『あの場面は2点を確実に』、橋本ハッシーは『俺が3pを決めていたら』と悔いを残した。


後輩も含めたチームメイトはドンマイと声を掛けるが、後悔する僕とハッシーの耳には届かない。

なぜか負けた試合後のコーチは忙しく、他校のコーチと笑顔で相談している。


注<バスケのコーチは野球の監督で、中学バスケのコーチは顧問の教師、バスケ協会の審判資格を取得登録されている>


試合後に集合した僕らへコーチから、

「来週から定期テスト前の部活休止とテスト終了の二週間後、他校と練習試合が連続する、一科目でも赤点だと練習試合に出られないから勉強を頑張れよ」

県大会を逃した準優勝チームには、途中敗退した学校から練習試合を申し込まれるらしい・・・




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