第6話 心の傷と希望。

サヤカが入浴中にエミリさんから『私を慰めてくれるの?夫が死んだのは、うそピョン』小悪魔なママにかわれて気が抜けた。


「裕人君、私の部屋で宿題をしましょう、ママ気に成っても覗いちゃダメよ」

風呂上りのサヤカから甘い香りを感じる、それは僕が使った同じシャンプーなのか、兎にかく宿題を終わらせないと家に帰れない。一人なら簡単に終わらせるが、サヤカに教えながらでは予定より遅くなると覚悟した。


「裕人君、いつもならどれ位で宿題を終わらせるの?」

「う~ん、一時間くらいかな、サヤカは大丈夫?」

サヤカを心配する僕との立場が五分後には逆転していた。


東京の私立中学に通っていたサヤカの学力は僕より遥かに高く、僕が一時間を予想した宿題を半分の時間で完了して、未だ終わらない僕の手元を覗きこみ。

「裕人君は勉強が苦手なの、前の定期テストは五科目で合計何点?」

「うん、平均八十点で合計四百点くらい、調子が良いと四百三十点の時も有った」


「平均八十点って一科目で二十点も間違えたの?それじゃ来年の受験に困るでしょ」勉強が苦手な生徒達は正解の点数で『テストは出来た』と言うが、成績上位の生徒は失点を数えて『出来なかった』と真逆まぎゃくの感想を言う。


「そ、そうだね、そこまで言うならサヤカは合計何点なの?」


宿題を完了させた時間からサヤカは明らかに優秀と思うが、言われっぱなしの僕は悔しさからサヤカのテスト結果を訊いた。


「前の中学では平均九十五点、合計は四百七十五点だったわ、少女ファッション誌のモデルだから勉強が出来ないって、馬鹿にされたくないから必死に勉強したよ」

サヤカの口から始めてファッション誌のモデルを経験したと聞けた。



「もしも話せるなら、サヤカがモデルを始めた切欠きっかけと辞めた理由を教えてほしい、勿論言いたくない事は言わなくて良いし、無理強むりじいしてまで僕も聞きたくない」

それまでの積極的なサヤカは黙り込み、少し考えてから重い口を開いて、


「そうね、最初はママと原宿でショッピング中にスカウトされた小学三年の春、少女ファッション雑誌に素人モデルで出て、『キュンキュン』って大人ファション誌の少女バージョン、『キュン・レモン』って知っている?」


「ゴメン、知らない、それで?」

「う~ん本当に裕人君が私の事を知りたいの?ママに頼まれたとか」


「違うよ、クラスの男子や女子も人気モデルだったサヤカを知っているから僕も知りたくて、もしサヤカが嫌ないら言わなくて良いよ、でも苦しさや辛さを人に話すと気が楽になるらしいよ」

「裕人君なら嫌じゃないけど、絶対ママや誰にも言わないって約束してくれる?」


「うん、勿論、僕とサヤカ、二人だけの秘密にする」

サヤカは緊張から一つ深呼吸して、


「それじゃあ言うね、小三から五年までモデルのお仕事は可愛い服を着られて楽しかったわ。将来は笑顔を見せないクールなパリコレのファッションモデルに成りたかった、でも十一歳の誕生日を迎えて背が伸びるより胸やお尻が丸くなって、初潮が来て大人の身体に変わる私は、パリコレモデルを諦めたと同時に小学ファション誌から消えて、撮影スタジオやメイク担当とスタイリストのスタッフさんも変わった小六の十二歳で『綺麗なスクール水着だから』って、男性週間誌のグラビアデビューで人気が出たと思う。

中学に入るともっと胸が膨らんで『女子に人気のビキニだよ』って慣れない水着姿を撮られて、次はニプレスが見えるくらい小さいセクシー水着に泣いて撮影はキャンセル、パリコレモデルを目指す為に痩せようとダイエットしたけど、胸とお尻は小さく成らなくて腰だけが細くなるから、もっとエッチなイメージを求められて、心と体の調子を崩して生理も止まって、無期限休業で今は中学二年生の天野サヤカ」


僕がミニバスケに夢中だった頃、水着撮影で笑顔が苦手なサヤカがその水着グラビアで人気が出て、それは皮肉な結果と同情と同時に知らないワードが気に成り。


「あの、サヤカに質問を良いですか?」

「どうぞ、裕人君」


「さっき説明のニプレスってナニ、女性用品なの?」

「う~ん、ノーブラのパーティードレスや水着撮影でオッパイのトップに張るシール、汗とユニフォームで乳首が擦れてるから形が違うタイプを男性スポーツ選手は使っているよ」


汗とユニフォームで擦れて痛いのは僕もバスケの試合で経験した、次の新人戦には準備しようと思う。

「ニプレスは理解したけど、モデルを諦めたサヤカはどんな職業を目指すの?」

「私は裕人君のお嫁さんに成って専業主婦が目標、それじゃあ駄目かな?」


確かに昔の昭和なら結婚を永久就職を言ったらしいが、令和の時代では有り得ない。

「お嫁さんも善いけど、それじゃぁサヤカの人生が勿体無いよ、可愛くて頭も善いし、女優や医師、弁護士の様に社会的地位が高い大人を目指せる、それから僕で良ければ一緒に成れるかな」


「裕人君は私との婚約を認めてくれるの?」

「約束するけど今直ぐじゃない、日本で男女が婚姻できるのが満十八歳、それまでは順序を決めて、両親や家族に認めてもらえるように頑張ろう」

心を病むサヤカに必要以上に刺激させない様に正論を並べた説明から理解を求める。


「僕からサヤカヘの条件は、中学卒業の十五歳までキスを禁止、高校卒業後の進路が決定するまでエッチしない、それと学校では交際していると言わないしイチャイチャも禁止する代わりに、このサヤカの部屋限定で僕は何をされても許す、それが嫌なら白紙に戻すけど?」


「え~裕人君の条件が厳しすぎるけど、キスとエッチ以外はOKなの?例えば裕人君のオナ二ーを見せては?」

「そんなの駄目に決まっているし、女子からオナ二ーとか言うのも禁止する」


「じゃぁ私の一人エッチを見たい?」

「言葉を変えても同じ事だろ、もしサヤカの行為を見たら僕は我慢できなくなる」


心が病んでデレデレしたいサヤカは『ヤンデレ』の面倒な彼女に違いない。

僕だって思春期の男だ、理性で性欲を抑えると言ってもいつか限界が来るはず、

「エッチな要求は全て却下するから、サヤカは他の事を要求して」


「他の事かぁ?そうだ、ロト君に成って?」

ロト君って何だ、何かアニメのキャラクターなのか、何処か地方のゆるキャラか、クイズを解くように考える僕へ、

「あれよ、ベッドの上の熊、あの子がロト君、幼稚園の頃から愛用の縫ぐるみ、裕人君の名前から名付けたロト君と毎日一緒に寝ていたの、今日でロト君とサヨナラして裕人君にハグされて眠るわ」


1mを越える大きな熊の縫ぐるみがロト君で、僕の裕人ひろとから命名とは、そしてハグして眠るって『それは無理です』と言う前にサヤカはフローリングに座っている僕の胸に、顔を擦り擦りして、

「あ~ん、とても幸せ、癒されるわぁ~」

満足したような声で甘えるサヤカの柔らかい身体に、『駄目だ、我慢できなく成る』僕の理性が絶体絶命の悲鳴を挙げた。


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