第5話 この違和感と冗談。
僕達が通う中学の下校時間は夏期が午後六時、冬季は午後五時と決められていて、それより30分過ぎて校内に残ると部活動の停止を受ける。
練習後の片付けを終えて、急いで校門を出たのが午後六時二十五分。
徒歩十五分で到着したサヤカ
それについてはもう少し様子を見てからと後回しにした。
リビングに学生鞄とサブバッグを置いて、ダイニングテーブルに座る僕へキッチンで夕食を用意するエミリさんから、
「裕人君、食事より先に入浴するなら、着替えを洗面所の籠に置いたわよ」
それを聞いた僕の返事より早く対面に座るサヤカから、
「裕人君、私と一緒にお風呂入りましょう?もちろん今日は泊まっていくよね」
言ったもん勝ちみたいに無茶振りするが、サヤカの背中超しにキッチンからエミリさんは両手でⅩポーズを僕に見せる。
エミリさんの合図に了解ですと、僕はひとつ頷く、
「無理無理、僕は肌が白くて毛が薄いから恥かしいです」
一緒の入浴と泊まれない僕の理由にサヤカは、
「婚約者の裕人君なら私は恥かしくないよ」
強請るサヤカの背後からエミリさんが今度はXポーズをしない、その理由は
「サヤカと裕人君が仲良しで嬉しいわ、そうだ良い事を思いついた、ママも一緒に混浴しましょう?」
僕と三人で混浴とはマジですかエミリさん?ちょっと嬉しいです・・・
サヤカの無茶振りへママの無茶振り反しに驚くのは僕だけじゃなかった。
「そんなは嫌だ、ママの裸を見てニヤニヤする裕人君を見たくない、裕人君先にお風呂へ入って」
お~流石サヤカのママ、エミリさんの見事だけど、大人の心理作戦に感心した。
サヤカの気が変わらない内に急いで髪から全身を洗い、シャンプーとボディソープを温水シャワーで流すが、この家の女性用シャンプーでフローラルの香りに恥かしい。
◇
「裕人君、今晩は和風キノコハンバーグだけど、苦手じゃないよね」
焼きたての合挽き肉ハンバーグに醤油の焦げたキノコソースが絶品で、僕の食欲を掻きたてる。
「はい、大好きな醤油味ハンバーグです、遠慮なく頂きます」
食事中に会話しないのは親の躾けで、無言の僕へエミリさんは、
「どう、美味しいかな」
「はいエミリさん、とても美味しいです」
「良かったわ、ねえ裕人君の好きな料理をリクエストしてよ」
「それなら、中辛の麻婆豆腐を白米に掛けて、山椒でピリリの麻婆丼です」
「明日の夕食は麻婆丼にするね」
「有難うございます、残ったキノコソースで御飯のおかわりをお願いします」
和風ハンバーグを食して、二杯目の白米に残るソースを掛けた味飯も完食した。
「私、これからお風呂に入るから、裕人君、もう一回入る」
「ごゆっくりどうぞ、サヤカが出たら宿題をやろうね」
着替えとバスタオルを持ったサヤカはダイニングから廊下へ、その先の洗面脱衣場のドアを閉めた。
「裕人君、言いたい事が顔に書いてあるよ、サヤカは長風呂だから最低でも一時間か掛かるよ」
エミリさんの問いに、僕の違和感を尋ねようと話を切り出した。
「失礼ですが、この家に男性の匂いと言うか存在を感じられません、サヤカちゃんのパパは居ないのですか?」
他人の家庭には其々に事情が有ると思うが、サヤカが入浴している今しか訊けない。
「そうね、裕人君には言ってなかったね、サヤカのパパ、私の夫は出張先の上海で事故に合って、私とサヤカは東京からこっちに戻って来たのよ」
エミリさんはシングルマザーで、娘のサヤカを育てていると察した僕は全力で、
「辛い事を訊いて申し訳有りません、もしも僕で出来る事が有るなら何でも言ってください、重い荷物を運ぶとか高い所の電球を交換するとか、エミリさんの為なら喜んでやります」
人生初の告白した。
「裕人君、有難うね、私が寂しいときは慰めてくれるの?」
「僕、エミリさんが好きですけど、あの経験が無いから教えてくれたら頑張ります」
「いやん、裕人君エッチね、私の胸がドキドキしちゃう・・・ゴメンね」
何がゴメンなんだ、微笑むエミリさんが僕に謝る理由は?・・・
「この家に夫が居ないのは東京本社で単身赴任なの、上海の事故は私の嘘ピョン」
嘘ピョンって、美人のエミリさんなら許されるのか、僕の純情な童貞心を返してくれ・・・
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