第4話 ママ友の根回し。

サヤカのママ、エミリさんのカツカレーを二皿ご馳走に成り『一緒に宿題しよ』と誘われたサヤカから、

「明日は着替えを準備して、入浴後に食事と学習しましょう」

突然の無茶振りにママのエミリさんも賛成した。


「今日は家に帰って、母と相談します」

二人から逃げるように僕は天野家を出た。

帰り道でエミリさんから感じた『くちなしの香』に大人の色気と思い、サヤカは若い女性の好む『金木犀』かなと帰宅した。


天野さんの提案を相談する母は、

「さっき天野さんから電話が有ったわ、明日から夕食とお風呂の後にサヤカちゃんと宿題するって、裕人の頭で教えてあげられるの?」

僕の母は『女は愛嬌』『天真爛漫』の陽気な性格で、家業がパン屋の父はベーカリー職人と母は店先で接客する二人三脚で槇原ベーカリーを繁盛させている。


「え、母さん、天野さんに返事したの?」

「別に良いんじゃない、サヤカちゃんも転校したばかりで不安でしょう?」

僕とサヤカが幼馴染と言え、安易な母の返事に息子の僕を心配しないのか。


パン職人の父は午後九時に就寝して翌朝3時に起きる、母も十一時には寝る。

両親が眠り静かになった家で僕は独り宿題を終えるまで睡魔と闘うが、明日からどうなるか不安だった。

翌朝六時三十分に起床、急いで朝食を摂り歯を磨いて、通学鞄とサブバックを持って家を飛び出る。

「裕人、着替えを忘れているよ、これは天野さんのお母さんに渡して」

それはベーカリーの白い紙袋で、中には二斤サイズの食用パンと数個のあんパンが入り、エミリさんへのお土産と理解した。

「行ってきます」と母に伝えて小走りでサヤカの家まで急ぎ、玄関前で乱れる息を整えた。

『ピンポーンピンポーン』インターフォンを鳴らして、出迎えるエミリさんへ、

「おはようございます、これ母からおつかい物です、どうぞ」

「あら、申し訳ないわね、槇原ベーカリーの食パンはしっとり柔らかくて、裕人君と同じくらい好きよ」

初恋のエミリさんに『好き』と言われて、僕は朝からデレデレしてしまう。


「もう髪型が決まらないの、待たせてご免ね裕人君、え、ナニそのニヤけ顔は?」

「別にニヤけて無いよ、朝連に遅れるからサヤカも急いでね」


サヤカを迎えに来た僕へ、ママのエミリさんは白い紙袋を持ち上げて、

「裕人君、今日の着替えはこの中なの?」

「そうだと思います、行ってきますエミリさん」


徒歩十五分で中学に到着するが、練習着に替えてバッシュを履いてから体育館でアップする時間が足りないのも有って少しだけ駆けた。


「裕人君、ちょっと待ってよ、女性の私を置いていくの?」

「髪型が決まらないサヤカの所為で遅く成ったから少し急いで、サヤカメ」


校門を抜けて体育館内の更衣室を使うより、校舎との渡り廊下で着替えるほうが早い。僕はトランクス一枚からバスケのロンパンと練習ビブスを着る頃にサヤカが追いついた。


「裕人君、私を亀って言ったでしょ、最初は照れて居たのに扱いが雑じゃない?え~なんで裸なの?」

「雑な扱いじゃないよ、僕はサヤカめって言っただけ、半裸はいつもだから気にしないで、それと体育館に入る時は一礼して、誰かと目が合ったら会釈してね」


そんな流れでバスケ部の朝練が始まり、始業時間までフットワークと基礎練習からシュート練習で汗を流した。


朝練の終わりには頭から水道水を被りタオルで拭き易いから、男子バスケ部員は短髪が多い。


朝練を見ていた元モデルのサヤカは視線が合う女子に会釈はしたが、誰からも声を掛けられなく無事教室に着いた。

僕から学年カースト上位な女子バスケ部の松下、篠田、清水の三人に依頼したお陰と思う。

それでも念には念を入れてサヤカには、

「誰かに僕との関係を訊かれたら『母方の親類でハトコかな?』って誤魔化して」

釘を刺しておくけど、

「何で婚約者って言っちゃ駄目なの?」

いったいどんな小学校生活を送っていたのか、周りと協調できないと虐められる、それとも空気を読めないのか、

「虐めは絶対駄目だけど、人付き合いが苦手とか自己中みたいな虐められる方に理由が無くても、可愛いくて目立つ存在でも虐めの対象に成るから、学力的に玉石混合の中学では波風を立てないで」


「裕人君は見た目より頭が良いね」

それは失礼なサヤカの発言だ、ママ友経由の依頼じゃなけりゃ放置してやるよ。


教師の目が届く授業中に心配しないが、給食から昼休みの掃除時間に元人気モデルのサヤカは女子生徒に囲まれて『東京の何処に住んで居たの?』『J系アイドルのコンサートを見たこと有るの?』『テレビタレントが普通に歩いているの?』地方人のアルアル質問に応えていた。


僕は友好的な女子会を同じ教室の離れた場所から黙って見守った。

その日の授業終了からバスケ部の練習後に、次期キャプテン候補の仲間から、

「マッキー、俺たちもサヤカちゃんと一緒に帰りたい、駄目かな?」

転校から数日で女子生徒と友好な関係を築けたが、元モデルのサヤカへ近寄りがたい男子生徒は僕を頼った。


「うん、僕は善いけど、一応女子マネに訊いてよ、男子バスケ部では女子マネの許可を有った方が善いだろ」

女子マネは元々男子バスケ部の誰に好意を持ち、それが入部理由と思う僕は女子マネとサヤカの友好関係を願う僕は提案した。


男子に誘われた女子マネは快諾して、同じ方面に自宅が有るバスケ部員と女子マネはサヤカと雑談して歩き、『私はここでお別れ』『僕もここから道が違う』一人一人と離脱して、無事に天野家に到着した。


「ただいま帰りました」

「サヤカ、裕人君、お帰りなさい、今日も暑かったでしょ、お風呂が先、お食事を先に、それとも私?」

真顔で言う母のエミリさんへ、再放送で見た昔のコントですか?と思うが突っ込めない。


「もうもう、面白くないわよ、裕人君」

明らかに不機嫌な顔でサヤカが文句を言うから、

「面白くないってエミリさんのギャグの事?」


「違うわ、一緒に帰った女子マネよ、あの子は喋らないのに裕人君の顔ばっかり見ていた、きっと裕人君が好きなのよ」

それは無い、今まで部活以外に会話も無いし、メアド交換も要求されてないし、プライベートで会うとか一切無い、え、もしかしてサヤカの嫉妬から邪推するのか、


「若しかしてサヤカのヤキモチなの?」

僕の予感はビンゴして、耳まで赤面するサヤカは、

「分かっているなら言わなくて善いでしょ、今度は裕人君に腹が立つわ~」


本当に心的ストレスからモデルを休業したのか、それともサヤカは不思議ちゃんなのか?モデルを辞めた本当の理由が訊けるのは少し先だと思う。


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